山小屋

 規格外の魔法を披露させて貰った一同は、集会所に来た荷馬車に荷物を乗せ、自分達も荷台に乗る。彼等を乗せると荷馬車は出発して、市街地を出て表参道を抜けて西方面へと移動を始めた。エルテンシア城が少しずつ遠ざかって行くのを眼下に置きながら、一行を乗せた荷馬車は城門の外へと進んで行く。


 朝早起きだったのか、リーミアとティオロは荷馬車の中でスヤスヤ…と寝息を立てながら眠っていた。


 それを眺めながら、ふと…純白城から少し離れた位置に見える闘技場を見て、カルファが険しい表情になる。


 「今年もあと半年後に、王位継承権の試合が行われるな…」


 「ああ…今年、今の代理王が勝てば、いよいよ『誠の王』に王手が掛かると言う事になるな…」


 「もし『誠の王』が誕生したら、今の王位継承権はどうなるの?」


 アメリが不安そうな表情で二人に声を掛ける。


 「詳しくは分からない、そもそも100年もの間、誰もその偉業を成し遂げた例が存在していないから、現時点では何とも言えない。ただ…噂としては、今の代理王のアスレイウは『誠の王』になったあと、何らかの形でギルド参加者に対しての、毎年行われる催物を行う予定との事らしい…」


 「まあ『誠の王』が誕生すればの事だがな…」


 フォルサは眠っているリーミアを眺めながら言う。それを傍らで見ていたカルファが少し気になって言う。


 「フォルサ、彼女はリムア姫の生まれ変わりと思うか?」


 「さあね、ただ…相当な実力を秘めているのは間違いなさそうだが…カルファ、お前はどうなんだ?」


 「正直に言って、紛い物かと思うな…そもそも、一体どれだけの数の娘が毎年神殿に魔法剣を持って、自分がリムア姫の生まれ変わりだと言って来ているのか…」


 「噂じゃあ、国内外から相当な数の娘さん達が来ているらしいな、中には嬢ちゃんみたいに強力な魔法が扱える者もいるらしいとか…?」


 それを聞いたアメリが恥ずかしそうな表情で二人に言う。


 「実は…私も子供の頃、リムア姫の話を聞いて、自分はもしかしたら姫の生まれ変わりなのでは?なんて思った時期が在ったわ」


 それを聞いたフォルサが笑いながら答える。

 

 「転生者には、必ず額に転生者の紋様がある。それと…それを行った呪術具が所有者の手元には在るはずだ」


 それを聞いてカルファは、眠っているリーミアを眺める。


 「そう言えば、彼女…額飾りしているな…腰には珍しい形の短剣もある」


 それを聞いてフォルサとアメリが少しドキッとしてリーミアを見た。


 「ねえ…コッソリと、額飾り外しちゃって見ては?」


 「そうだな、確認してみるのも良いかも…」


 カルファが、リーミアの額飾りに手を振れた瞬間バチッと電気が流れ「痛ッ」と、カルファは手を引っ込めた。


 「ダメだ…額飾りに魔法が掛かっている」


 「まあ、起きた時に聞けば良い。それに…前に彼女をメンバーに入れたユウマ達の話では、この子一人で50匹以上の魔物を倒したらしい…」


 それを聞いて、二人は息を呑んだ。


 「たった一人で50匹の魔物を倒すなんて、相当な数の武器が必要になるが、彼女は何処からそんな数の武器を用意したのだ?しかも…腰には短剣しか携えていない」


 「もしかして…彼女の持っている剣は魔法剣なの?」


 「可能性として考えるなら妥当だな。生前のリムア姫は武芸や魔術に長けていたと言われている。彼女の所有する剣がテリオンの剣と言う魔法剣だとして、もし…この子がその能力を引き継いでいると…考えれば、色々と辻褄が会うと思えて来る」


 カルファとアメリは無言の眼差しで眠っているリーミアを見つめる。


 しばらくしてティオロが眠りから覚めて、欠伸をした時…一同の視線が自分達の方に向けられている事に驚いた。


 「ど…どうしたの、皆でこっちを見て」


 「隣で眠っている、嬢ちゃんの話をしていたところだよ」


 ふと…ティオロはリーミアを見る。


 「ふ…ん。彼女ね…」


 「君は護衛役として付き添っているようだね。一緒に居て彼女はどうだ?」


 カルファがティオロに向かって言う。


 「まあ、正直言って…」


 その言葉に周囲がゴクッと生唾を呑んだ。

 

 「口煩くて、何かと嫉妬を妬くし…はっきり言って全然可愛く無いね。まだメイミの方が可愛いらしさがあるね」


 期待していた発言とは異なる内容に周囲は呆気に取られた。


 「そ…そうなんだ…」


 「え?何どうしたの?」


 少し期待を逸れるティオロの言葉に、周囲は何も言えなかった。


 「まあ…いずれ狩場に行けば、嫌でも彼女の能力にはお目に掛かれる、その時を待とう…」


 一行は小川が流れる小さな山小屋で休憩を取る事にした。


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