第2章 光の洗礼

早朝

 エルテンシア国の西北方面は山岳地帯が広がっていた。険しい高山の峰が貫き万年雪に覆われた山もあった。その山岳地帯は隣国との国境線にもなっている為、常に国境警備隊は違法な侵入者が入らない様、目を光らせていた。


 国境が一望出来る山の上にラムトレンと呼ばれる城塞があった。戦と成れば約500人は兵を収容も可能な砦であり、城塞完成後から100年以上もの間、その砦が何者かによって墜とされたと言う話は無く、陥落無敗の砦として周辺諸国にその名を轟かせた。


 その一方で、国内では別の異名もあった。それは…『首切りの砦』である。


 砦には二つの見張りの塔があり、その二つの塔を行き来する為の空中回路が設けられていた。その空中回路の橋の上では、度々受刑者の首を切り落とす事があった。空中回路から南東方面に、エルテンシア城が見えて、最後に祖国の城を眺めさせながら、首を切ろう…と、言う、国の騎士団達による慰めだと噂されていた。



 そんな空中回路で、ある決闘が行われようとしていた。


 強風が吹き荒れる中、西方面の塔からは漆黒の鎧に身を包んだ男の姿があった。肩や腕、腰、脚、兜等…前進の複数の箇所に棘の様な物を取り付けた鎧を着込み、顔を覆い隠した兜からは素顔の様子が見え無かった。


 ただ…漆黒の鎧を着込んだ者からは「グヌヌゥ~…」と、呻き声の様なものが聞こえていた。


 対する東方面からは、フード付きのマントを羽織りローブに身を包んだ、華奢な身体の少女、リーミアの姿があった。


 彼女はマントを脱ぐと側にいる男性に手渡した。リーミアは腰に携えた聖魔剣に手を伸ばす。所有者の意志に反応した剣は柄が両手位の長さになり、鞘から剣が出る時、その刃は長く少女の足首に届きそうだった。


 鏡面の様な輝きを放つ剣、鋭い切れ味を思わさる刃をリーミアは相手に向ける。


 「ルディアンスよ、貴方との因縁、今日ここで決着を付けさせて貰うわ!」


 「グフフフ…面白イ、オマエヲ殺シテ俺ハ自由ノ身ニナル」


 ルディアンスと言う者は、棒の様な柄を片手に掴み、軽く一振りすると彼の手には赤黒く染まった、大きな刃の両手剣が現れる。


 二人は中央を目指して走り出し、互いの間合いが近くなると剣を振り降ろした。


 キイィーンッ!


 二つの鉄の刃が、激しく打ち合い閃光が走る。




 ~マネニーゼ市場 早朝


 朝霧が濃く周辺の建物すらぼやけて見えてしまう様な景色の中、リーミアとティオロはギルド集会所前に現れた。ティオロは朝早起きで、まだ眠気がとれず欠伸をしていた。ギルド集会所は閉まっていた。リーミアが周辺を見回すと、自分達以外に他に1人若い女性の姿があった。彼女は魔法の杖を片手にフード付きのローブに身を包んだ容姿であった。彼女もリーミア達と一緒にギルド集会所の前で立っている。


 (あの人も同じメンバーなのかな?)


 そう思っていると、霧の中から体格の大きい男性と、槍を片手にした細身の男性が現れた。


 「やあ…お待たせ。俺の名はフォルサと言う、宜しくな」


 ひげ面の体格の大きい男性が、少女と女性の前に現れて陽気な挨拶をする。


 フォルサと言うは斧を腰に携えて、腕や足が太くガッチリとした体格の者だった。顔にはヒゲを生やして居た。


 槍持ちの男性は細身で、自黒の肌をしていた。黒髪で細目の男性でフォルサと比べると少し年齢が若く感じた。


 「おや?1人多いね…君は誰?」


 槍持ちの男性が、ふと…ティオロを見て言う。


 「彼は、私の護衛として付き添って頂きます」


 「そう…突然の参加だと奨励金とかの分配が払えなくなるけど…」


 「大丈夫です、彼には必要以上に金がありますので、無償でこき使って構いません」


 「ちょっと!無償はないだろ?名前はティオロと言います」


 ティオロがリーミアを見て言う。


 「どうするフォルサ?」


 「まあ…奨励金無しで構わないなら、別に良いだろう。それに仲間は多い方が良い!決めた、お前も付いて来い!」


 「やれやれ…で、君が回復系の方ね?」


 槍持ちの男性が、フード付きのローブを着た女性に声を掛ける。


 「あ…ハイ、アメリと申します。回復補助魔法が得意です、称号は灰色です。宜しくお願いします!」


 それを聞いたフォルサが「なるほど…」と、頷きながら顎ヒゲを撫でる。


 「で…無償のティオロ君は、まだ若葉色か…」


 「無償は一言多いですが…」


 槍持ちの男性はリーミアを見る。


 「君は、クラスと称号は何だね?」


 「リーミアと言います。特にクラスとかはありませんが、今回は攻撃魔法でもやらせてくだい、現在の称号は青です」


 それを聞いた、槍持ちが少し気難しそうな表情をする。


 「ちょっと、彼女が期待の新人なの?まだ称号が青って言うけど?」


 「ハハハ…カルファよ、彼女を見くびっちゃダメだぞ、この子はまだギルドに登録して4日目で今の称号なんだ」


 それを聞いたカルファとアメリが「えー!」と驚いた。


 「一体、1日に何体の魔物を倒してるの?」


 「俺でも青色に昇格するまで、三ヶ月以上掛かったのに…」


 「それに彼女は攻守一体型だ、何処でも任せられるだろう、連れて行けば期待以上の活躍が出来る。何より嬢ちゃんの魔法の杖を見ろ」


 カルファは、リーミアの杖を見た。かなり高額な魔法の杖だった。


 「君…その魔法の杖幾らしたの?」


 「え?金貨100枚でしたが…」


 それを聞いたアメリとカルファは更に驚いた。


 「お…俺の今の武器、銀貨1000枚稼ぐのに1年以上も節約して買ったのに…」


 「それだけの魔法の杖を待つって事は、それなりの実力があるのだろう?」


 「あ…ハイ」


 それを聞いたカルファが少し疑いながらリーミアを見る。


 「じゃあ、何かやって見せてもらおうかな」


 「分かりました」


 ティオロは、始めて彼女に会った時に手痛い攻撃を受けて居たので、多少は彼女の実力を把握していた。


 「では…霧でも払いましょうか?」


 「へ…?」


 周囲はリーミアの言葉に一瞬、自分の耳を疑った。辺りは濃霧に包まれている、追い払うには強い陽射か、気流が必要である。


 リーミアは魔法の杖に呪文を唱え、勢いよく杖を上空に向けて高く掲げた。


 ブオォンー


 見えない波動の様な気流が一瞬彼等の周りを突き抜けて行くのを感じた。


 「何んだ、今のは?…ーッ!」


 カルファ、アメリ、フォルサは言葉を失った。


 一瞬にして周囲から濃霧が取払われて、周辺の建物がハッキリと視界に入って来た。空もくっきりと広がり、東の空には眩い陽光が見えた。


 「こんな事…神殿にいる神官でも不可能じゃない?」


 皆は唖然とした表情でリーミアの規格外の魔法に驚かされる。

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