純白の城

 ~宿屋…


 リーミアとティオロは、ギルド集会所を出てマネニーゼ市場を歩き、宿屋へと戻って行く。


 「あら、お帰りなさい~」


 ルナは2人を見て声を掛ける。宿屋に入った2人はルナ達が、自分達の帰宅に合わせて夕食の支度をしている事に気付いた。


 彼等の姿を見たリーミアはティオロの腰にぶら下げた金貨の入った皮の袋を奪い取った。


 「あ、何するのだよ!」


 「うるさいわね、これは私のお金よ」


 そう言われると、ティオロは反論出来なくなる。


 「すみませんが…こちらのお金、預かってくれますか?」


 「え…構わないけど?」


 ルナは不思議そうな表情で、皮の袋を受け取る。


 「預けるだけだからね、中身くすねたりしないでよ!」


 ティオロは悔しそうな表情でルナ達に言う。


 「取り敢えず荷物を置いて来なさい。夕食後は外出禁止、明日は早朝に宿を出発するから良いわね!」


 「は~い…」


 残念そうにティオロは返事をして2階へと向かう。


 ティオロが2階に上がるのを見計らって、リーミアはルナの側へと近寄り、小声で話し掛ける。


 「そのお金、全部使っちゃっても構わないわよ」


 「はい?」


 ルナは不思議そうな表情で返事をする。


 〜純白の城


 城壁から城の建物の至る場所まで真っ白に染め上げられている事から『純白の城』と言う異名で知られるエルテンシア城、過去周辺諸国に大国が誕生しては幾度となく窮地に陥った事があったが、建国以来一度として滅ぼされる事無く300年もの間、その姿を保ち続けていた。


 小王国でありながら難攻不落の城塞、エルテンシアを手中に納めたものこそ、真の大陸の支配者だと周辺諸国に言わしめる程になる。


 しかし…その一方で、国内ではリムア姫が消滅してから、王不在の王国となり代理王継承争奪戦の幕が上がり、既に100年近く続いていた。毎年あらゆる強者が出ては消えての繰り返しが行われ、開催場所の闘技場では、民衆達を賑わせる為の催し物として発展していた。


 代理王の継承権を得て、即位出来る権限を得られる者も神殿の大神官や神官達によって常に厳選されている。


 国内のギルドに参加して魔物狩りするのは異国の者でも自由に参加出来るが、代理王の継承権を得られるのは国内の者でしか参加出来なかった。


 更に厳しい条件もあり、誰でも参加出来ると言う安易なものでは無かった。


 現在の代理王であるアスレイウも、その争奪戦を潜り抜けて来た1人だった。若干20代半ばで代理の王位を得られた彼は、毎年行われる継承権の争奪戦を4年もの間死守して来た。


 王位継承の争奪戦には、国内から並外れた知恵と剛腕に優れた強者達が集い、一筋縄では勝てない者ばかりであった。


 彼は、それを見事なまでに打ちのめして、その地位を確保し続けている。代理王継承を始めた時、最初に決めた条文の一節には…『その地位を5年確保し、不心得無き者であれば、代理では無く誠の王として10年の間、地位を約束させる』と記載されていた。


 100年近くもの間、あらゆる者が代理王の座に就いたが…4年以上も続いた例が無く、周囲からは『誠の王』誕生かも知れない…と噂が囁かれていた。



 エルテンシア城大広間、中央に玉座まで続く長い絨毯、20段程ある階段の最上部に、玉座が置かれ、その玉座まで上がる中央に位置した場所に代理王の椅子が置かれて居た。


 何人たりとも、真の玉座に座らせない様に、神官達によって玉座には見えない結界が張れていた。


 代理王としての勤めとしてアスレイウは必ず毎日に一度中央の玉座に腰を降ろして、士官や高官達と国内の情勢に付いて話し合いをする。


 純白城を意識してなのか…彼は常に広間には白い衣服を身に着けて皆の前に現れる。まだ20代半ばであり、若くて輪郭の整った顔立ちだった。彼は常に魔法剣を腰に携えていた。


 その日も、話し合いが終わり自分の部屋へと戻ろうとした時だった。近衛兵がアスレイウを呼び止める。


 「どうしたのだ?」


 「すみません…実は知人と申す者が貴方に、これを渡して欲しいと言って参りまして…」


 近衛兵が紐で括られた羊皮紙を差し出す。


 「知人…?」


 アスレイウは、直ぐにある人物の顔が脳裏に浮かび、急いで羊皮紙を受け取り紐を解いて書かれた文面を読む。


 「フ…アイツめ、全くお節介が好きな奴だな…」


 普段無表情な、彼が珍しく微笑む顔を見た、側近である女史が物珍しそうに彼を見る。


 「何か良い事が書かれていたのですか?」


 「どうやら…ギルド登録者の中に本命と思われる者が現れたらしい。最低限の称号を得れれば、いずれは私と相まみえる事となるかも知れない。面白い世の中になって来たものだ」


 「はい…?」


 女史が首を傾げながら返事をした。アスレイウは女史の事など気にせずに、そのまま自室へと向かって行く。


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