市場⑥

 リーミアがティオロを見つめる。その眼差しは昼間市場で出会った時の様な感じでは無く、乙女の様な優しさに包まれている様な表情だった。


 それを見たティオロは、暖炉の側に戻りリーミアの向かい側へと座る。


 「何か…話してくれるの?」

 「そうね…いろいろあるけど、まず…私には親が居ないのよ」


 いきなり予想外の言葉にティオロは、自分の理解が追い付けなかった…。


 「生まれる時に、両親が亡くなったの…?」

 「違うわ…ある日突然、私は修道院の祭壇の上に居たらしいの…」


 ティオロは、自分の知ってる許容範囲を越えた出来事に、どう解釈すれば良いか考えていた。


 「ええと…つまり、君は親の体内から産まれた訳ではないの?」

 「そうね…」


 ティオロは、理解しようとしていたが…彼女の話に付いていけずに立ち上がる。


 「ごめん…今日は、もう寝るよ」

 「そう…」

 「ちなみに、この街にはどの位の期間居る予定なの?」

 「準備が整い次第、出発するわ…」

 「分かった…」


 そう言ってティオロは部屋を出て行く。


- 翌朝


 リーミアが朝、食事をしようと部屋から出て広間に向かうとティオロが既に起きていて、宿の主人が用意してくれた朝食を済ませていた。


 リーミアは、ティオロより遅い食事をする。


 「今日は、色々と買い物をするの?」

 「買い物と言うよりも…行きたい場所があるのよ」

 「そうか…実は僕も、ちょっと行きたい場所があるけど銭が無くてね…」

 「幾ら必要なの?」

 「そうだね、金貨2~3枚位欲しいな…」


 ティオロはチラッとリーミアを見た。


 「分かったわ」


 リーミアは、袋から金貨3枚出してティオロに渡す。

 嬉しそうな表情でティオロは金貨を懐の中に入れる。


 「それを受け取る事に対して、忠告して置く事があるわ」

 「何…?」

 「今後、私の護衛役を務めて頂くわね」

 「ああ…分かった、じゃあ…僕は急いで予定を済ませるから先に出掛けて来るね」


 ティオロは、嬉しそうな表情で宿を出て行く。それを見ていた宿の主人が少し呆れた表情でリーミアの側へと近付く。


 「あいつめ、逃げやがったな…」

 「え…、逃げたのですか?」

 「ああ…手元に金が入ったから、遊びに使うつもりですよ…奴は街では義賊って言う事で有名だからね」

 「ム~…」


 騙された…と、感じたリーミアはティオロが出て行った外を見続けていた。


 「まあ、心配無いですよ金が無くなれば、また戻って来ますから…」

 「それでは困ります…」


 リーミアは、不機嫌そうな表情をしながら席を立つ。深い溜息を吐きながらリーミアは羊皮紙に描かれた地図を広げる。


 宿の主人も隣で地図を見て少し驚いた。その地図は描かれている場所が指で動かす事が出来た。その上…場所の拡大小も可能な…不思議な地図であった。


 「嬢ちゃん、中々珍しい代物を持っているねェ」

 「修道院から借りた物なの、旅が終わったら返す事になっているわ」


 リーミアは、地図を見て占い師の居る場所を探す。広い市場である街の中で、現在地が解りずらく、小さな家も見ずらい状態で占星術の場所を探すのは困難だった。


 「レンティ占術師…て、御存知ですか?」

 「ああ…聞いた事あるよ」


 主人はリーミアが持っている地図を指で動かす。


 「この辺だよ」


 そう示した場所は、地図上では街外れにあたる場所であった。主人が指した場所をリーミアは、指を置くと…不思議な跡が残り、地図を拡小しても跡は残っていた。


 「ここからだと、少し距離がありそうね…」

 「ちょっと歩く事にはなるね…周囲からも変わり者呼ばわりされているし…あまり関わらない事を勧めるけど…」

 「ここの方に会う様に、祭祀から言われたので…会って来ます」

 「そう…まあ、理由があるなら止めないけど」


 主人が言うと、リーミアは微笑んで「ありがとう」と、一言礼を言い、身支度を整える為に部屋に戻る。

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