市場⑤
何処か良い店が無いかな…とティオロが歩いて行き後ろを振り返るとリーミアが少し後方で立ち止まっている事に気付き、彼はリーミアの場所まで戻る。
「どうしたの?」
「あの店は何かな…?」
ティオロはリーミアが指した店を見る。
それは…華やかな装飾に彩られた風俗店だった、店の前には気品ある女性が道行く男性達を呼んでいる。
「男性専門の店…子供や女性には関係ない場所だよ」
「そうなの?」
リーミアは上目遣いでティオロを見ながら答える。
「まあ…何て言うか、大人の男性と女性がイチャイチャする様な場所だよ」
「大人の男と女がイチャイチャして、何か良い事あるの?」
不思議そうにリーミアは首を傾げて言う。
「世間知らずのお子ちゃまには、ちょっと難しい事かもしれないね」
ティオロがからかいながら言うと、リーミアは頬を膨らませる。
「失礼しちゃうわね、私はそんなに子供じゃ無いわよ!」
機嫌を損ねたリーミアは、少し早歩きでその場を離れて行く。
「悪い、ちょっと言い過ぎたよゴメン…」
ティオロが謝るとリーミアは機嫌を直した。
「市場には、いろんな店があるんだよ。向こうの通りへ行こう」
ティオロがリーミアの手を引っ張って歩き始める。しばらくして2人は小さな料理店に入る事にした。
料理店に入ったリーミアは周囲を見回してソワソワした様子だった。どんな料理を頼めば良いのか分からず、ほとんどティオロや店の人に任せきりだった。
(本当に世間知らずの子だな…)
自分が居なかったら、彼女は市場でどうするつもりだったのか…と、ティオロは思った。
食事を終えたティオロは、店の人が持って来た会計表を見て少し驚いた。
(しまった…金足りるかな?)
ポケットの中に手を入れて彼は銭を確認したが…わずかに足りなかった。
「参ったな…少し足りないな…」
ティオロが思わず呟くと「大丈夫よ」と、リーミアが言い、彼女は巾着袋から金貨を1枚出して、その金貨を店の人に渡す。
「ありがとうございます、お釣りを用意します」
店の人が一礼して去って行く。
ティオロは呆気に取られた、彼女の部屋に居る時に巾着袋を覗いた時には金貨の影は無かった筈…。
(魔法の袋か…でも、どうやって出したんだ?彼女が居ないと、金貨は出て来ないのか…)
先程、彼女が着替える時に部屋に荷物を置いて出て行くのも納得出来る。何よりも、彼女が持っている短剣は所有者にしか使えない…そう考えると辻褄が合う。
店の人がお釣りが入った盆を持って来た。盆の上には銀貨と銅貨が数枚あった。
「お釣りは貴方に上げるわ」
リーミアがティオロに差し出す。
(なるほどね、金貨はまだ沢山あるのか…)
そう思ってティオロは彼女から銀貨と銅貨を受け取る。
2人は店を出て宿屋へと戻る、ティオロが自分の部屋へと戻ろうとした時、リーミアが彼の腕を掴んだ。
「ちょっと…」
「どうしたの?」
「貴方…暖炉の薪に火を起こしてくれるって言ったでしょ?」
リーミアが恥ずかしそうに顔を俯けながら言う。
「あ…そうだった」
出掛ける前に約束をしていたのを思い出したティオロはリーミアの部屋へと向かう。
改めて彼女に用意された部屋を眺めると…ティオロの部屋よりも広く、ベッドもカーテン付きだった。
暖炉の側には肘掛け椅子もあった。
(僕の部屋よりも豪華だ…まあ、こっちは付き添いだし、銭を払ったのは彼女だからな…)
暖炉を良く見ると…何か爆ぜた様な感じで木炭の破片が飛び散っていた。
「ところで暖炉に何をしたの…?」
「魔法で火を起こそうとしたら…失敗しちゃって…、魔石が無いと上手くコントロール出来なくて…」
それを聞いたティオロは昼間の事を思い出して納得する。
「魔法以外で、薪とかに火を点けた事は無いの?」
その言葉にリーミアは黙って頷く。
「今まで、どんな生活してたの?」
「修道院に居たの…」
それを聞いたティオロは、少し納得した様な感じで頷く。
(成る程ね、買い物も出来ない…薪も燃やせない、風俗店を物珍しそうに見る等の理由が分かった気がする…)
お嬢様育ちな訳だ…と、思いながらティオロは暖炉の片付けをした後、火付け石を使い薪を燃やし始める。
暖炉に火が点き、二人ジッと薪が燃える様子を眺めていた。リーミアは肘掛け椅子に座り、ティオロは暖炉の側で、薪を燃やしていた。
「じゃあ…僕は、これで失礼しようかな?」
そう言ってティオロが立ち上がると、リーミアが、ティオロに声を掛ける。
「私の事は何も聞かないの…?」
「え…?」
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