市場④

 二人が向かった先は、街の外れにある古ぼけた小さな宿屋だった。


 店の入り口には「宿」と書かれた小さな木の看板がぶら下っている。店に入ると一階は広間になっていた。大勢の人が食事が出来る様に広く、数多くの椅子と食台が並んでいて飲食店としても利用出来そうだった。


 少女は店の中を見回した。店の中は寂れていて今にも壊れそうな雰囲気を感じさせていた。

 受付に向かうと、店の主人である中年男性が出迎えて来た。


 「よお…ティオロ、今日は何の用だ?」

 「しばらく宿を借りたいのだけど…」

 「ほお、ついに家出を始めたか」


 店の主人が笑いながら言う。


 「僕じゃなくて、こちらの人…」


 ティオロは、少女を前に出す。


 「ほお…こりゃ、めんこい娘が来たものだな…」

 「少しの間、宿を借りたいのですが…」


 少女は主人に向かって話す。


 「分かりました。では…こちらに名前を記入してください」

 

 主人は、紙と筆を少女に渡す。それを受け取った少女は紙に名前を記入する。それを隣で見ていたティオロは少女の名前を見る。


 (リーミアって言う名前か…)


 「ほお…リーミアさんね。ん…?リーミア…はて、何処かで聞いた様な名前だね?」

 「そうかしら…良くある名前だと思いますが…」

 「ハハ…そうだね、ウチの近所にも似たような名前がいるよ」

 「フフフ…人気のある名前なんですね」


 リーミアと言う少女は愛想笑いしながら答える。


 「では…宿泊代ですが、銅貨10枚で1泊ですが…」

 「これだと、何日くらい大丈夫ですか?」


 リーミアは金貨を一枚出す。それを見た主人が少し慌てた表情で言う。


 「こ…これだと、そっちのも付け足しても、3ヵ月位余裕で泊まれますが…」

 「ちょっと…僕をオマケ見たいな物の言い方で言わないでくれる?」


 ティオロが不機嫌そうな表情で主人に向かって言う。


 「では…そっちのも付け加えて、お願いします」

 「おい、君ね…」

 「あら?私、何か変な事言ったかしら?」


 成り行きで、リーミアに付き添っていたティオロは、何時の間にか彼女と同行する事になっていた。


 「部屋はどうしますか?」

 「別々で、お願いします」


 そう言うと、主人は二人分の鍵を用意して、それぞれ別の部屋に向かう事にした。

 ティオロは二階の小さな空き部屋に入った。彼は少し古びたベッドに横たわる。


 (リーミア…似てるな、100年前に王国を救った王女様…。確か…リムア姫だったっけ?)


 そう考えながらベッドで横になっていると、何時の間にかうたた寝をしてしまい、気が付くと日が傾いていた。彼は少し小腹がが空いたのを感じてベッドから降りて部屋を出る、3階の部屋にいるリーミアのの部屋にに行き、部屋ののドアをノックする。


 「どうぞ」


 部屋の中から声が聞こえ、ティオロはドアを開けて中に入った直後、目の前の風景にギョッとして立ち止まる。彼女は顔や衣服が炭だらけで黒くなっていた。


 「な…何があったの…?」

 「火を起こそうとして失敗したの…」


 それを聞いてティオロは部屋にある暖炉を見て少し納得したが…どんなやり方で失敗したのか彼には理解出来かった。


 「と…取り敢えず、顔を洗って来なよ、着替えの服はあるの?」

 その言葉にリーミアは頷く。


 「一緒に食事しよう」

 「貴方…火は起こせるの?」

 「ああ…出来るよ」

 「じゃあ…後で頼むわね」


 リーミアはティオロに言うと着替えの衣服を持って部屋を出る。

 部屋を出たのを見て彼は彼女が腰に付けていた巾着袋を見付けて、中を覗くが…中身は空だった。


 「ちぇ…あの女、せっかくの金貨を宿代に全部つぎ込むなんて…ほんとうに世間知らずだな…」


 ティオロが退屈そうにしていると衣服を着替えたリーミアが戻って来る。


 「じゃあ…食事をしに行きましょうか」

 「ちょっと廊下で待ってて」


 そう言われてティオロは廊下に追い出される。

 約30分程経過してリーミアが巾着袋を持って、短剣を携えてティオロと一緒に部屋を出て来た。


 「下で食事するだけで、随分と時間が掛かるね」

 「女の子は、準備に忙しいのよ」


 そう言いながら2人は1階の広間へと向かうが…広間は無人で何の用意もされて居なかった…。


 「ねえ、ちょっとオヤジ!食事の用意は?」


 それを聞いた店の主人が愛想笑いしながら広間に出て来た。


 「いや~…悪い悪い、久しぶりの客だったから、何の準備もして無かったよ…すまないけど今日は外で食事してくれないか?」

 「はあ?全く何を考えてるのだよ~」

 「まあ…外で食事しましょう」


 リーミアはティオロに向かって言う。


 「明日の朝からは、ちゃんと食事用意するよ」


 店の主人が2人に向かって愛想笑いしながら、受付の奥へと立ち去る。

 2人は宿を出て、市場の通りを歩き出す。


 「君は何を食べたいの?」

 「特に食べたいのは無いけど…美味しい店があるなら、教えてくれる?」

 「美味しい店ね…」


 ティオロは、市場に長年住んでいるが…市場にある料理店にはほとんど入った事が無かった。

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