市場③

 少女の神技とも言える技の一部始終を目の当たりにしたティオロは、改めて少女の近くへと行く。


 「君って、凄いね…」


 それを聞いた少女は不機嫌そうな表情でティオロを見つめる。


 「他に用が無いなら、私に関わらないで下さい」

 「さっきは、君の短剣があまりに凄そうだったから、つい…衝動で手にしちゃったんだよ、悪気は無かった」

 「ふ…ん」


 少女は不信な目でティオロを見る。


 「貴方が嘘を言って居るか…どうかは、短剣を使えば分かるわ…」


 まさか…今、男性達に見せた剣撃を見せるのか…と、ティオロは焦った。


 「この短剣に触ってみて」


 少し焦ったティオロは、ホッとしながら短剣に触れる。


 その瞬間ー、バチッと電気の様な衝撃を感じた。


 「ウワッ!痛ッー!」


 それを見た少女がフッと笑う。


 「貴方…嘘を付いて居るわね。短剣は貴方の行動に対して怒っているようだわ」

 「何…ソレ?」

 「短剣は、嘘付きは嫌いだと言っているわ」

 「道具が喋るかよ…」


 そう言いながらティオロは、少女と一緒に歩いて行く。


 「これから何処へ行くの?」

 「貴方には関係無い事です」

 「冷たいね…」

 「人の物を勝手に奪っといて良く言うわね。謝罪の一言も無いのかしら…?」


 痛い所を疲れたティオロは、それ以上少女に対して何も言えなかった。


 ふと…少し先を歩いていた少女は市場の果物の店へと立ち寄り、果物を購入しようとしていたが…店の店員と何か話し始める。それを見ていたティオロが近くに行き、店員の女性に話し掛ける。


 「どうしたの?」

 「ちょっと…この子、果物1個で…こんなの渡して来るのよ」


 女性が手に持っていたのは金貨だった。


 「細かい銭は無いの?」

 「それしかないわ…」

 「これだったら、ウチの店にある果物の大袋全部差し上げるわよ」

 「そんなに要らないわ、コレ1個だけで…」

 「困ったわね…釣りを払いたいけど…、今は主人が居ないから、細かく崩せないのに…」

 「あ…でしたら、僕が出します」


 ティオロは、そう言ってポケットから銅貨を1枚出す。果物2個購入で…話し合いは終わった。

 少女は、この一件に対してティオロに礼を述べた。


 「これで、貸し借り無しになるね…」


 ティオロが言うと少女は不機嫌そうな表情で歩き出す。

 二人は市場から離れた場所で、腰を下ろして果物を食べ始める。


 「君は…市場で買い物をした事が無いの?」


 ティオロの言葉に少女は一瞬ドキッとした。


 「な…何で、そ…そんな事を聞くのですか?あ…貴方には感謝しているけど、別に関係無いでしょ、そんな事…」


 彼女の慌てた素振りをしながら、彼から顔を背けて果実をたべる。その様子からティオロは正解だったと確信する。


 「普通…市場で買い物する時、金貨なんて出す事ないよ。せいぜい銀貨くらいかね…。だいたい果物1個なんて皆は買わないよ、普通は2個か3個で銅貨1枚だからね…金貨なんて渡したら向こうが驚くよ。この辺の市場では1週間分の売り上げが…やっと金貨1枚分に達する程だからね…」

 「細かい、お金が無かっただけなのよ」

 「そお…じゃあ、聞くけど市場で売買されている麦、野菜、魚介類、精肉、酒類の平均相場知っている?」


 その問いに彼女はポカンと口を開けたまま首を横に振った。


 「君ね、もしかして…全ての物価が、金貨を出せば買えるなんて考えていないよね?全ての物価には相場て言うのがあって、常に価格は変動しているんだよ。大体どれ位金貨持っているのか知らないけど。普通は市場の一般取引は銅貨で、銅貨が100枚越える場合、銀貨で取引されるんだよ。銀貨が100枚以上の場合、金貨で取引されるんだ。でも…金貨を使う場面て、高級な装備品か、馬車や建築位、大きな買い物の場面しか使う事は無いだろうね」

 「そうだったの、知らなかったわ…」


 ティオロは溜息を吐きながら、彼女が懐の中に隠してある巾着袋を見て、ふと…何気無く感じた。


 「その巾着袋の中身、ちょっと見せてくれる?」

 「お断りします。貴方は信用出来ないので…」


 相当嫌われているな…と、ティオロは感じた。しかし…彼女は、不思議な術を使うし、その気になれば、彼女が携えている妙な剣でティオロを薙ぎ払う事も可能だった。

 そうしないで自分と一緒に居る事を考えると…彼女は、ティオロに対して警戒心を持って居ない事と感じられた。

 果物を食べ終えた少女は、立ち上がると周囲を見渡した。


 「どうしたの?」

 「今夜泊まれる宿は無いかしら?」

 「予算はどのくらいで…?」

 「これで…」


 それは、さっき市場で出した金貨だった。


 「それだったら、あそこで10日間食事付きで寝泊まり出来るよ」


 ティオロが指した場所は宮殿見たいな宿だった。


 「あんなに豪勢で無くても良いわ…」

 「じゃあ…安くても構わないなら、良い場所があるよ付いて来て」


 ティオロに誘われて少女は市場の街の中を進み出す。

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