市場②

 ずっとティオロを探していた様で、彼女は相当汗を掻いて息切れしている様だった…。


 「私の剣を返せ…」


 それを見たティオロはニヤ付きながら答える。


 「ふん…こんな値打ちの無い短剣、持っていても意味が無い。持ち歩くならもっと良いヤツを持ち歩けよ…ーッ!」


 最後に彼は「な」を言おうとしたのだが…そう言う間を与えられず、ティオロは見えない強い力に押し飛ばされて、後方にある用水路へと落とされる。

 用水路に落ちる瞬間、ティオロは手にしていた短剣を、何か見えない力で抜き取られる感覚があった。


 「ブハ…」


 ティオロは用水路から顔を出すと、自分を見つめる少女に気付く。彼女の手元には短剣があった。


 「これは返して貰ったからね」


 「え…?」


 ティオロは驚いた。


 (まさか…今の不思議な力は彼女が起こした物なのか…?)


 そう考えると、少し怖くなった…。自分はとんでもない相手から物を奪った事になる、少女はティオロを見つめながら去って行く。

 

 「クソ…変な術を使いやがって…」


 文句を言いながらも、無事に生きていた事に安心しながら彼は用水路から上がり、水を吸い込んだ衣服を絞って階段を上がって行く。

 表通りに出ようとした時…ついさっきの少女が3人の男性達に取り囲められているのをティオロは見つける。3人のうち中央にいる男性は体が大きく背中に大剣を背負っていた。


 (へへ…良いザマだ)


 ティオロは、さっき自分を付き飛ばしたのが、偶然か彼女の術だったかを…確かめる機会だと思い、壁の裏側に隠れて少女を見ていた。


 「よお、嬢ちゃん…俺達と遊ばない?」

 「ヒヒ…可愛いよね君、痛くしないからさ…」

 「へへへ…こう見えても、俺達優しいのだよ…」


 ティオロは聞いているだけでも虫酸が走る感覚がして来た。本来なら…ああ言う連中達を相手に一撃喰らわしたい気分だった。しかし…それを堪えてティオロは少女を見ていた。

 彼女は自分よりも背丈の大きい男性達を前にしても、決して怯む姿も怯える仕草も無かった。


 「貴方達…怪我をしたく無ければ、直ぐに立ち去りなさい」


 その言葉に男性達は、少し驚いた様子を見せる。


 「なんだと~、こっちが優しくしていれば、調子に乗りやがって…この小娘め~」


 1人の男性が少女を掴みあげようとした瞬間ー!


 ボンッ!


 ズウウゥーン


 巨漢の男性が用水路のある壁際まで弾き飛ばされる。


 「な…なんだ、一体…?」


 男性達と、その瞬間を見ていたティオロは、少女を見て驚く。

 少女は素手で男性を弾き飛ばした。

 すかさず少女はもう1人の男性に向かって掌を伸ばす、すると見えない空気の塊に押されて体の大きな男性は弾き飛ばされた。


 ズンッ…!


 2人目の男性も壁に押し当てられて気を失う。


 「コイツ妙な術を使いやがって~!」


 男性は我慢しきれず、ついに背中の大剣を取り出した。

 しかし…それを前にしても少女は怯える様子を見せず、男性を見ていた。

 これは危険だと思ったティオロは、少女の側まで走り出す。


 「このォー!」

 「やめろ!」


 男性が大剣を振り上げ、剣を少女に向けて振り下ろす瞬間ー。

 少年が男性の側に駆けつける間際だった。


 キンッ!


 金属が交わる音が響いた。

 その直後、男性は自分の大剣が柄から先が無くなっている事に気付く。


 「え…あれ?」


 男性が周囲を見渡していると、自分の足元に刃だけになった大剣が空中から落下して地面に突き刺さる。

 ティオロが少女を見ると、彼女は手元に見慣れない長剣を手にしていた。

 男性は自分の獲物が無くなった事に気付くと、少女に対して少し後退りをする。


 「き…貴様、何者なんだ?」


 相手がたじろいでいるのを見ながら少女は少し笑みを浮かべると、剣を持っていない左手を伸ばし、男性に向けて空気の塊の様な物を打ち込む。


 ズン!


 最後の男性までも吹き飛ばして気絶させる。少女は最後の男性を吹き飛ばした時フードが捲れて、可愛らしい顔をさらけ出していた。凛として美しく整った顔立ち…それに釣り合うかの様に大きな瞳、長い黒髪を靡かせ額部分には、金色の装飾で作られたヘアバンドの様な額飾りが煌いていた。

 ティオロは素顔を見せた少女が持つ、不釣り合いな武器に目を向ける。


 (あの剣…何処から現れたんだ?)


 少女は剣を鞘の中へと戻す。吸い込まれるように小さく鞘の中に入った剣は元の短剣の形になった。

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