第1章 マネニーゼ市場
市場①
- 100年後…
魔獣の群れが王国を襲ったのが嘘だったかの様に国は活気を取り戻し、平和な日常を取り戻した。かつての騒乱の爪痕は至る場所で確認する事が出来た。
リムア姫が消滅した事は国に大きな衝撃を与えた。王不在では国の存続が保てない為、国は代理の王を崇めるとする事で、国の存続を維持する方向で動いた。
姫が再び現世に蘇ることを信じて正当な王位の玉座は空けたままにしてあった。
- 市場
エルテンシア国の城下町…。東西に隣国を携え、南に広大な海を置き、北に山脈を眺める小王国は、貿易の要として常に他国から注目を得ていた。マネニーゼ市場…。他国から田舎王国呼ばわりされるエルテンシア王国の中でも、唯一発展しているのがマネニーゼ市場がある街だった。諸外国からの来客の足も絶える事が無く、この市場でひと旗揚げ様とする輩も多かった。
多様な民族が集まる場所でもある為、国は半世紀前…マネニーゼ市場及び、その周辺市街地を中立都市を宣言する。その結果…マネニーゼ市場は他では見られない最も賑やかで活気のある市場へと発展する事となった。街は常に新鮮な海の幸や、山の幸が溢れていて、物珍しい異国の工芸品や雑貨類が所狭しと並んでいた。その珍しい商品や市場の噂を聞き訪れる人の群れが来るので…街は日夜、人が絶える事が無かった。
賑やかな市場…絶え間無い人通りの多い市場で人混みに混ざって、人目を盗んでスッと小さな焼き菓子をくすねる少年がいた。彼は焼き菓子を盗むと人混みから抜け出して、路地裏に隠れて焼き菓子を食べる。
年齢は10代後半の背丈のある少年だった。黒髪が長くクセッ毛で目も黒く…少し茶色の肌をしていた。ヨレヨレのシャツを着込んでいた。
彼は、ふと…目の前にある屋敷に興味を感じた。
(へへ…確か、あの家は老夫婦だけが住んでいるとの情報だったな…)
少年は小走りで家に向かい、家の玄関の扉を軽く叩いた。
コンコン…
家の中からは何の反応も無かった。
確認の為、少年はもう一度玄関の扉を叩く…扉の覗き窓は開かず、家に人が居る気配が感じられないと分かると、少年は家の裏口へと周る。
木で作られた窓を見て周り鍵の掛かっていない窓が無いか探す。
裏口の窓の1つに鍵が掛かって無く、人が入れそうな窓を見つけると少年はそこから家の中へと潜りこんだ。
無人の家の中を探索し、お目当ての宝箱を見付けると器用に錠の掛かった鍵を開けて、銀貨と銅貨を数枚くすねてポケットの中に入れる。少年は宝箱を元の場所に戻すと家から出ようと入って来た場所へと戻る。その時だった、偶然…廊下で家の手伝いに来ていた女性と会ってしまった。
女性は見知らぬ少年が家にいる事に一瞬戸惑った。
「誰…貴方?」
「ヤバ…!」
少年は急いで別方向から逃げ出す。
その姿を見た女性がハッと事態を直ぐに呑み込み少年を追う。
「待ちなさい泥棒!」
少年は身軽な身体を使って、家の壁を登って2階の窓から外へと逃げ出した。
家の中では女性が大声で「泥棒ー!」と叫んでいた。
女性の声を聞き付けて数名の男性が家に近付い来た。
「女性が居るなんて、情報とは違うじゃないか…」
少し悔しそうに少年は言う、彼はポケットから帽子を取り出して、他の人が分からない様に深く被り市街地を歩き始める。
市場を歩いていると少年は向かい側から歩いて来る1人の少女に目を向けた。年端10半ば過ぎの容姿の少女はフード付きのローブを着込み、少し見窄らしさを感じさせている。
少年は彼女が腰に携えている短剣に目を向ける。
(白銀の鞘で出来た立派な短剣だ。親の形見の短剣かな…結構な値が付くかもしれないな…)
そう思った少年は…そっと相手に気付かれ無い様に近付き、隙を狙って少女にわざとぶつかる。
「おっと、ごめんよ」
そう言って少年は、少女から離れた。その時少女は自分の身に付けていた短剣が無くなった事に気付いた。
「あ、泥棒ー!」
少女は大声で叫ぶ。
「イヒヒ…」
少年は嬉しそうな表情で逃げ出す。久し振りの金目の物を手にした彼は、素早い足でその場を逃げ去って行く。
「これで、しばらくはメシにありつけらぁ…」
笑いを堪えて少年は市場から抜け出した。
彼は町外れにある質屋へと向かった。顔見知りの質屋の店主は、彼がまた何処からか物を盗んで来た…と気付き、彼が持ち込んだ短剣を調べた。
ジッと隅々まで店主は短剣を調べて、大金が返って来ると期待していた少年に言う。
「悪いけど…これは、ウチでは買い取れないよ。多分…他の店に行っても買い取って貰え無いだろうな…」
「ええ~…なんでぇ?すごく立派な剣じゃいないかよ…」
「確かに見た目は素晴らしい、が…この短剣、そもそも鞘から抜けないぞ、錆びているのじゃないか?それに軽すぎる…玩具かと疑われても言い訳は出来ないぞ」
期待していた盗んだ短剣が一文無しと知ると、彼は気落ちする。
「それに…ティオロよ、お前さん…こんな事ばかりしてないで、良い加減に真面目に働いたらどうだ?」
その言葉にティオロと言う少年はムッとしながら店主を見た。
「僕がどう生きようと、僕の勝手だろう…」
彼は短剣を持って店を出た。短剣に値が付かなくなると、彼はゴミの様に短剣を見る。(鞘が抜け無いだと…?)彼はそう思って、自分も鞘を抜こうとする。自分が抜ければ、店主に言い訳出来ると思った。
しかし…店主の言う通り、短剣は鞘から抜けれ無かった。
「くそォ…剣が鞘の中で錆びて居るんだな、コレ…」
考えて見れば少女自身、見窄らしい姿だった。あんなのに惑わされた自分にティオロは腹が立ってきた。
「あー、見付けたー!」
後ろから声が聞こえて、振り返ると少女の姿があった。
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