プロローグ③


 兵士は一礼して答える。


 城門を出たリムアは単身で王国の城門の前に立った。彼女が出ると門は大きな音をを立てて閉じていく。


 城門の上から彼女の姿を見ていた騎士団長は、何も出来ない自分を悔しそうに恨んだ。


 リムアは前方に砂煙を撒き散らしながら突進して来る魔獣達の群れを眺めて、その場に片肘を付き腰に掛けていた短剣を両手で掴み上げる。


 そっと顔を近付き鞘に収めた剣に軽く口付けをする。


 「我が王家に伝わる聖剣よ、地上を抗う物達を鎮める為の刃を示したまえ。その威光を示すならば、我が生命を捧げよう!」


 リムアは立ち上がり短剣を鞘から抜いた。短剣は目映い光を発しながら長剣へと剣へと形を変える。「光皇!」リムアが一言叫ぶと剣先からは太陽の光の様に輝きを発している。


 それを見ていた騎士団長が驚きながら、その光景を見ていた。


 「オオォー!あれは光の魔法、光皇……」


 「そんなに凄いのですか?」


 騎士団長の隣に立つ兵士が言う。


 「古き神話の文章の一行に、こう……書かれている。『大地が悪しきものに襲われんとする時、聖なる剣を持つ者、太陽の光の如き皇の輝きを放ち魔を一掃させん』……とな」


 (だが……おかしい、光皇の輝きは、もっと眩く輝かしい筈なのに…なぜだ?そう言えば…姫は確か光の魔法の鍛錬をしてる途中だった筈。この短期間で何時全ての光の魔法を習得したのか?)


 そう考えていた騎士団長は、ある事に気付き大声で「ああッ!」と叫んだ。


 「なりませんぞ、姫っ!危険が大き過ぎます!」


 突然の騎士団長の慌てぶりに周囲は驚いた様子で彼を見る。


 「どうしたのですか?」


 「い……今直ぐ姫様を止めろ、あの方は自らを犠牲になさるおつもりだ!」


 「なぜですか?」


 「あの方が持つ剣で、光の魔法は危険が大きい!」


 それを聞いた周囲の兵士達は唖然としながら、息を飲み込み城門からその輝きを見ていた。


 聖魔剣を掲げて巨大な光の柱を出現させているリムアは汗を流しながら立っていた。


 (ググ…全身の力が全て吸いつくされている見たい。この体勢を何時までも維持出来そうに無い。早く終わらせなければ!)


 彼女は目の前の魔獣の群れを見る、既に彼女の視界は焦点が合わなくなっていた。


 「さあ……魔獣達よ、自分達の居た世界へと還るが良い!」


 一閃…剣より出た光の刃で、魔獣達の群れを薙ぎ払う。凄まじい轟音と共に大地が激しく地響き…広野と王国をも揺るがす。


 その光の刃に当たった魔獣達は次々と地上から姿を消して行く…


 「ゼェ……ハ~…ゼェ……ハ~」


 リムアは剣を地面に突き刺し、その場に座り込んだ。体中から力が抜けて、立つ事も困難な状態になった。終わった…と、安堵したのも束の間、後方から新たな魔獣の影が現れる。


 「ゼエ……ゼエ……おのれ、まだ来るのか、ならば……」


 再び彼女は立ち上がった。その時彼女は足元がよろめき出す。


 「ウッ……」


 再び魔法を唱えようとする直前、ゴホッ……、彼女は手を口に押し当てながら苦し紛れの咳をする。押し当てた手を見ると吐血で掌が真っ赤に染まっていた。リムアは恐怖で震え出す。既に自分の寿命が尽き掛けていると悟った彼女は、最後の一撃に全てを掛けた。


 (やるしかない!)


 そう思った彼女は剣を天高く付き上げる。軽いと思われた剣は、まるで鉛の塊の様に重く感じられた。覚悟を決めたリムアは最後の魔法を唱える。


 「浄化ー!」


 彼女の叫び声と同時に光の波が衝撃波となり剣先より現れる。その衝撃波を受けた魔獣の群れは次々と消滅して行く。


 凄まじいまでの衝撃波は魔法を唱えたリムアさえも吹き飛ばしてしまう。小さな体の彼女は城壁まで吹き飛ばされ、壁に激突して落下した。近くで見ていた傭兵が彼女を見て、急いで城壁にある隠し扉から、彼女を救出に向かう。彼の救出が無かったらリムアは深い堀の中へと転落してしまう所だった。


 光の波が地上の彼方まで発せられて、大地を揺るがす振動が収まると同時に、魔獣達の群れは地上から一匹も居なくなった。


 「ひ……姫様ー!」


 騎士団長が大急ぎで、リムアの元へと駆け付ける。傭兵が彼女を城内へと連れて来た時、美しき王女は流血で衣服が紅く染まっていた。生命力を使い果たした彼女は、既に虫の息で剣と共に姿が消え掛け始めていた。城内にいる全ての兵や民衆達が全員が、彼女の側へと集まり、変わり果てた王女の姿を見て、城内の全ての人達が深く嘆き。悲しみの涙を流した。


 「ゼエ……ゼエ……魔獣は、もう……いないか?」


 リムアは虚ろな表情で枯れた声で言う、彼女の視界は失われて何も見えない状態だった。


 「貴女のおかげで、全て居なくなりました」


 「そうか、良かった」


 「ひ……姫様、何故危険を冒してまでテリオンの剣で光の魔法を使ったのです?」


 「今の私では、これしか選ぶ道は無かったのだ」


 「そんな……」


 「心配は無い、私は少しの間、眠りに着くだけの事……再び王家に現れる。しばしの別れだ……」


 既に意識が遠のいたリムアは騎士団長に向かって言う。


 「姫様…」


 「私は、いずれ戻る……また、その時まで……」


 そう言い残し、リムアは大勢の人達に囲まれながら、剣と共にその姿は消滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る