プロローグ②


 一同が緊迫している中、穏やかな声が聞こえて、騎士団長達が振り返ると……そこには美しき容姿をした若き女性の姿があった。ブロンドの長くしなやかな髪が風に靡いている。


 美しい顔立ちをして、高貴で……どこか愛らしさを感じさせる風貌だった。その場に立っているだけでも周囲とは異なる雰囲気を漂わせる。


 王族ならではの美しき衣装を着込み、その上に深緑色に染まった旅人用のフード付きのローブを掛けていた。山道を急いで来たのか…若干ローブには汚れや綻びがあった。


 「リムア姫、お戻りになられましたか」


 「はい、心配掛けて申し訳ありませんでした」


 「しかし……何故、この窮地に城を出たのですか?」


 「これを取りに、王家の山がある墓所へと行って来たのです」


 リムアと言う名の姫は、そう言って白銀に煌めく鞘に入った短剣を皆に見せる。


 「そ……それは、もしや伝説の剣、聖魔剣ですか?」


 「そう……古文書によれば、かつて大きな争いに終止符を伐ったのが、この剣と記されて居ました。私は古文書を読み解き、今…この窮地を打開させるのは、これしかないと判断したのです」


 「し……しかしリムア姫、その剣は聖剣と呼ばれますが、扱いを誤れば持ち主の命さえも危険に晒させる恐ろしい魔剣でもあります。姫様が命を張ってまで扱う代物ではありません」


 「では、他にこの剣以外で、この窮地を抜け出す方法があると言うのでしょうか?全員が一斉に飛び出せば、間違い無く国は亡びます。それに我が国の残された兵の数も少ないでしょう…これ以外のやり方で、この窮地を脱する方法が貴方にはお有りか?」


 その言葉に騎士団長は首を横に振りながら答える。


 「確かに……その通りではありますが。その短剣は姫が所有するには少々荷が重すぎると、私は感じます」


 「そこまで言うのであれば…誰か他の者で、この短剣を鞘から抜く事の出来る人物がいるのか?」


 リムアは騎士団長に短剣を手渡した…騎士団長が力を込めて短剣を鞘から抜こうとするが……短剣は引き抜け無い。他の兵士達も同じ様に短剣を抜こうとするが、誰も剣を鞘から抜く事が出来なかった。


 「もう、良いです、この短剣は己が認めた者以外の者にしか扱え無いのは証明された。選ばれし者にしか剣は威力を示そうとはしない物よ」


リムアは短剣を手にして、軽く剣の柄に手をかざしただけで、短剣はスッと音も無く鞘から抜き出る。


 しかも……短剣が鞘から抜き出てくると、剣の物越しは一般的な長剣へと長く伸びていた。


 鏡の様に研ぎ澄まされた長剣…スラリと眩い燐光を放ち、剣の刃は鋭く触れれば傷を負いそうな切れ味を見せる。その長剣を見て一同は息を呑んだ。


 「これから魔獣達を鎮めに行きます。城門を開けなさい」


 リムアは剣を鞘に収めて言う。


 「ひ、姫様……」


 「気にする事はない、魔獣達を闇に還すだけの事だから…門番達に開門を伝えておくれ」


 リムアは軽い足取りでその場を去って行く。その後ろ姿を見ていた騎士団達は皆涙を堪えながら王女の後ろ姿を眺める。


 王女が城門へと向かって行く姿を見ていた騎士団長は、何か腑に落ちない様な表情で、1人眉間にシワを寄せながら考え込んでいる様子だった。


 「騎士団長、如何成されましたか?」


 「私は過去に一度、現在の大神官が即位した頃に、彼に連れ添われて封印された聖魔剣を見た事があるのだ。聖魔剣は必ずしも呪いの魔剣では無く。あくまでも扱いを見誤れば所有者の命に関わる威力があり、それさえ気を付ければ、我々が一般的に目にする他の魔法剣と同じ物なのだが…。ただ…」


 「どうしたのですか?」


 「姫の持って来た剣と私が昔見た剣の形が少し似ていない様な気がしてな…」


 「まさか!姫は間違った剣を取りに行ったのですか?」


 「いや、分からない。姫は古文書を見て取りに行ったという。間違える筈は無い。私の記憶が少し思い違いしていただけかも知れない」


 城壁を降りて行くリムア姫…階段を降りると、城門近くで暮らす街人達が居た彼等ははリムアが単身で正門へと向かう姿に気付くと一斉に正門付近へと向かう。


 その中の1人がリムアの前にに立ちふさがった。


 「姫様…1人でどちらへ向かわれるのですか?」


 「外に出るのです」


 「外は危険です、どうか…城にお戻り下さい」


 「災いを止めに行くのです、道を開けなさい」


 「敵は人の言葉を聞く輩ではありません…危険です」


 「今……私が行かなければ、国は滅びます……そこを退きない」


 「なりません……皆も同じ気持ちだと思います」


 ふと気付くと……何時の間にか周囲に大勢の人だかりが出来ていた。


 「まさか……貴方達も同じ気持ちなのか?」


 「どうか姫様……お気を確かに」


 「それは出来ない、私が行かねば貴方達に被害が及ぶ」


 「ならば……皆一緒に国と共に命を共にするまでよ」


 「それは駄目だ」


 「姫……貴女が1人で戦うのは、あまりにも危険が大き過ぎます…」


 何を言っても聞き受けてくれない街人達にリムアは我慢すきれず、ついに短剣を鞘から抜き出した。


 「ええい、うるさい!お前等は我が命に従えぬと申すのか!」


 リムアは初めて人前で激しい感情を見せた。どんな時でも穏やかな表情で人前に現れ民衆からも慕われていた王女が激しい感情を見せた態度に周囲は驚きを隠せなった。


 王家の言葉となると…周囲の人達も従わねばならないのが国民の義務であり、リムアの言葉に反論する者など居なく…皆は道を開ける事にした。


 それを見たリムアは剣を鞘に収めて正門へと向かう。


 この時彼女はは小声で「すまない……」と、言いながら皆の前を通り過ぎた。


 門の前に向かうと門番をしている者に開門を命じる、この時門番をしている者に自分が着ていたローブを渡すと腰に聖魔剣を携えて衣装のみの姿で門を潜り抜けて行く。


 「ひ……姫様」


 門番が震える様な声で言う。その言葉にリムアが振り返る。


 「どうか無事にお戻り下さい」


 「心配無い」


 リムアは微笑みながら応える。


 「私が出たら門を閉じよ」


 「かしこまりました」


 兵士は一礼して答える。


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