第4話 主人公の料理

異世界の食材、それはとてもワクワクするものだ。それを地球のレシピで料理する。とても興味深い。だが、本当に美味しいのだろうか?


地球の食材、特に穀物や野菜そして、果物は何百年という膨大な年月を経て品種改良されてきたものだ。より病気に強い品種、より可食部位の多い品種、より美味しい品種を、地球の人類は作り出してきた。近代において、特定の食材の品種改良専門の研究所まであるレベルだ。


それに対して、中世ヨーロッパ風の異世界の一般的な穀物・野菜・果物(魔境秘境にあるレア食材を除く)はどうだろうか?

もし地球の野菜と似た野菜があったとしても、なにも改良されていない原種に近いものだろう。つまり、病気になりやすく、可食部位も少なく、味も劣る。そんな野菜を、異世界の農業技術で栽培する。土作りも村の年寄りの経験則だより。「温度管理?化学肥料?なにそれ、美味しいの?」である。当然のように害虫もつく。そんな田畑が村々にあり、農作業中に運が悪いと魔物まで出没する。

当然、品質や収穫量なんて安定しないだろう。品質や収穫量が安定していなければ、値段も安定しない。


『農業』スキル?『錬金術』スキルによる錬金肥料?それで地球の何百年もの研鑽に匹敵できるだろうか?

端的に言って、無理だろう。

それで、食糧が安定生産できているのであれば、文明レベルが中世を超えているはずだからだ。食糧が安定生産できれば、人口が増える。人口が増えれば、国力が増え、増えた国力により魔物の領域は切り拓かれていくし、技術レベルがあがる。そして、文明レベルは中世を超える。

世界観が中世ヨーロッパ風の異世界である時点で、食糧は安定生産できていないのだ。つまり、異世界の一般的な農作物は美味しくないのである。地球の現代日本人としての記憶を持つ主人公が満足するレベルの農作物なんぞ、夢のまた夢であろう。


農作物に対し、食肉はどうだろう?ファンタジー食材の定番、魔物肉の出番だ。主人公の料理チートを支える唯一の柱だ。これの品質

だけは、技術レベルにあまり影響されないだろう。いや、されないであって欲しい。主人公が狩猟した魔物の肉がファンタジーな理由ですぐに美味しく食べれるものでなければ、主人公の食生活は悲惨なものになるだろう。

ジビエ的に考えれば、狩猟直後の魔物肉の臭み・固さは地球の現代日本人的感性の持ち主である主人公にはツラいものだろう。例えば魔素とか、ファンタジーな理由で美味しくなってくれなければ耐えられないのではないだろうか?


そして、最後に料理に欠かせないモノは、調味料である。ウスターソース・ケチャップ・醤油・味噌はひょっとしたら地域によっては類似品があるかもしれない。だが、一般的には流通していないだろう。

ウスターソース・ケチャップは原価が高く、中世ヨーロッパレベルの流通技術では、材料の生産地域にて貴族が食べれるレベルだろう。

醤油・味噌も、塩の生産力が頭打ちとなり、一般的ではないだろう。

つまり、主人公が手軽に使える調味料は、塩とハーブだけと思って問題ないはずだ。


主人公ができる料理は、魔物肉に塩とハーブを振り掛けて焼くだけとかになりそうだ。

そんな異世界モノは読むのはいいが、転移は絶対にごめんである。



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異世界転移主人公の謎 @kurage_peppermint

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