第2話 主人公の金銭感覚1

今まで読んだ異世界転移モノの初期の所持金を思い出して欲しい。

多くの作品において、一文無しだ。街の入門に税がかかる場合、魔物の物納や助けた行商人に出してもらうシーンが思い出せるだろう。


地球の現代日本人において、金銭に触れたことがないなんてことは有り得ないので、主人公にはある程度の経済観念があるはずである。

アルバイトもしたことがない学生、ニートや、就労経験のある社会人など、主人公の経歴は様々ながら、識字率の低いタイプの異世界の現地人よりは当然のように知識があるだろう。


そんな主人公が異世界転移の結果、住所不定無職一文無しである。治安のいい現代日本で住居があり生活に困窮していなければ、この差はどれだけのストレスであろう。性格が変わってもおかしくないレベルの危機的状況である。ガンジーも盗賊になるレベルだ。


だが、多くの主人公は「チートがあるから冒険者になろう」と、将来を不安視しない。

チートがばれると面倒ごとになると思っている主人公も、積極的にチートを使えば大丈夫だと認識しているのだ。

現実逃避であろうか?


そして、一文無しで街に向かっている途中、魔物や盗賊に襲われている行商人や新人冒険者、あるいは貴族を助けても報酬を要求することはない。

放っておけば全滅していただろう相手に、魔物を頭割り、持ってたポーションの無料提供、希少性の確認がとれていない回復魔法による治療。

善良な日本人で済ませていいのだろうか?地球の現代日本において、これほどのお人好しを見たことがあるだろうか?

安易に主人公の優しさをアピールしようとしているのだろうが、客観的に見ればただの行き当たりばったりか、基地外にしか見えないのだ。

そもそも、冒険者になろうとする主人公が無報酬で動くことがおかしいのである。冒険者とは、戦闘技術や植物素材の採取技術、魔物素材の仕入れ技術といった特殊技術を売りとした技術者といった見方もできるだろう。つまり、魔物に対する救援は緊急的な戦闘技術・労働力の提供であり、当然対価が発生するべきなのである。その後の治療も、街での価格より割高であるべきだ。なぜなら街外で貴重な物資の提供なのだから、正当な対価の要求である。回復魔法も特殊技術であり、多くの主人公が(元手がMPだけ=無料)と考えているのを見ると、昨今のブラックな環境で働くプログラマー等の技術者たちの境遇を想い不快になる。人の足元を見るようだ、命が掛かっている、と言った意見も出るだろうが技術・労働力のタダ売りは双方にとってためにならないのである。


主人公が人命救助を行ったケースの逆に、魔物に襲われ中堅レベルの冒険者に助けられるケースもある。または、森でさまよっているのを冒険者の少女(ヒロイン1?)に案内してもらうケースもある。

このパターンにおいて、助けてくれた中堅冒険者がオッサンである場合、主人公は礼を言い、(中堅冒険者すげぇなぁ)と思うことで終わらせる。読者の多くがオッサンとの絡みを望んでいないから仕方がないが、前述した通り中堅冒険者への技術・労働力の搾取である。現代ファンタジーのゾンビモノや急なファンタジー化モノにおける、強い者は弱い者の為に働くのは当然であると言った多数派弱者による少数派強者への不当労働の強要に見える。

冒険者の少女(ヒロイン1?)に街まで案内してもらう場合において、主人公は過剰なまでの恩返しで仲良くなろうとすることがある。下心丸出しである。


「あの時助けてもらえなかったら死んでたから」と言って助けてくれた現地人に過剰に恩返しする主人公が、他の現地人を助けても、「通り掛かっただけだから。運が良かったな。」と謙遜し礼を受け取らないダブルスタンダードを見たことがあるだろう。実に日本人的である。

助けた相手も日本人で、こちらが謙遜しても礼を返す相手なら良いが、残念ながら相手は識字率も低ければ算数も怪しい無教養な現地人である。シンプルにわかりやすく対価の請求をするべきなのである。


そもそも、冒険者の主人公に貯蓄と言った概念が欠如しているように見受けられるケースが多い。

回復チートで死ななきゃオッケーと言う状況でなければ、いつ怪我で働けなくなるかもしれないという環境は、現代日本人の経済観念を持つ主人公には多大なストレスであるはずである。

怪我で働けなくなれば、身元不明な異世界人である主人公にマトモな働き口はないなんてことは少し考えればわかることである。

であれば、正当な対価の要求は当然であり、商人への伝を積極的に作ってでも地球技術の商品を売り捌いて蓄財を目的に行動するべきなのである。

縁故もない、お金もない、怪我で働けない=死なのだから。


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