第75話普通の女の子(1)


 文化祭期間はそれに集中していたせいなのか、それとももっと違うことに気を取られていたせいか、いつもより更に手ごたえがない。集められた答案用紙が全員分あることを確認した先生が、終了の合図を送る。


 解放された空気に色んな声が飛び交う。部活のこと、放課後の行先のこと、テストの出来具合。色んな声が濁流のように混ざり合う。


「優ちゃんもお疲れ様」

「うん、最後難しかったね」


 最低限の荷物を鞄に押し込んで立ち上がる。今日から絵里ちゃんと沙耶はまた部活再開だから、理歩と二人で帰ることになる。文化祭の日にすっかりと吐き出したおかげか、時間の経過のおかげか、前ほどは胸の痛みは感じない。ゆっくりと、受け入れることが出来ている気がする。


「あの」

「ん?」


 正門を出た頃だった。理歩が話があるのだと言う。その硬い表情と、けれど少しだけ照れくさいような表情に、もしかしたら、と思う。それはもうずっと前に身に染みて実感したことだからなのか、その予感が頭をよぎっても案外冷静な自分がいる。


「いいよ。 って、なんかテスト明けこういうの多くない?」

「ご、ごめん」

「いやいや責めてるとかじゃないよ。 まぁテスト期間のうちに積もる話もあるよね」


 理歩が頑張ってるのは近くで見てたし、私にも誠実でいたいっていう理歩の気持ちも伝わってくるし、ここまで来たらとことん付き合いたいなとも思うし。

 いつもの公園。なんだか少しずつ苦い思い出が増えているななんて思って少し笑ってしまう。二人並んで、またブランコに座る。これからももしかしたら何度もここを訪れたりするのかな。


「……うまくいった?」

「え?」

「宮崎さんと」

「えぇ?」


 理歩が乗っているブランコが、まるで理歩の動揺を体現するみたいに揺れるから、私はまた笑ってしまう。こんなに分かりやすいのに、自覚がないんだもんなぁ。本当はもう最初から感づいてましたなんて言ったら、理歩はどんだけ驚いてくれるんだろう。


「もしかして……私が話す内容、全部お見通し?」

「理歩は分かりやすいからなぁ」

「それ、皆に言われる」

「まぁ理歩のいいところだから、そのままでいてほしいけどね私は」

「……その……うまくいった、のかな、うん」


 理歩の横顔が嬉しそうに緩む。本当は私が理歩にそんな表情をさせられたら良かったけど、理歩がちゃんと笑えているのならいいのかな。なんて思えるのは、絵里ちゃんや沙耶が私を支えてくれた日々があったからなんだろうな。あの日泣くことができたのも、大きかったかもしれない。


「頑張ったんだね、理歩は」

「優……」

「だからー、ちゃんと言う。 おめでとう、理歩」


 まっすぐに理歩を見て、そう言える。望んだ形ではなかったとしても、こうしてまっすぐに築くことができる関係になれたのは、きっと素晴らしいことだと思う。私を見つめる理歩が、また柔らかく微笑むのを見て、私の今までだって無駄なんかじゃないなって、本当にそう思えた。

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