第69話その熱は何色?(2)
「じゃぁ次回の勉強会会場は理歩の家で」
沙耶がそう言って、今日の勉強会はお開きになった。いつものカフェを出て、四人並んで歩く。街並に溶け込む木々は葉を赤や黄色に染めている。
「理歩の家で大丈夫?」
「うん、お母さんに聞いてみないとだけど大丈夫だと思う。 ただ、本当に狭いけど大丈夫かな」
「理歩が大丈夫ならこっちは大丈夫だよ」
少し返事するときに空いた間が気になっていたけれど、そういうことなら大丈夫なのだろう。四人とはいえ、理歩の家に行くことになるとは。そう言えば前回の勉強会の時は自分の部屋に理歩がいて舞い上がっていたっけ。そんなことを思い出して、少しだけピリッと静電気のような痛みが胸を走る。
文化祭以来、お昼休みに理歩がいなかったり放課後も宮崎さんと帰ることが増えた。そういう時の、理歩の待ちきれないような期待に満ちた表情は真正面から見つめることが出来ない程に眩しい。それでも、真正面から見なくたって分かる。だって理歩は分かりやすいから。
彼女は、どうやら頑張ることにしたらしかった。
「じゃぁ、明日十三時で」
駅の改札を抜けて、理歩と絵里ちゃんと別れる。沙耶と一緒に乗り場で電車を待っていると、「あのさぁ」と沙耶が話しかけてきた。
「んー?」
「元気ないけど大丈夫そう?」
「……んー……もうちょっと」
「ならいいけど……明日とかしんどかったら適当言ってこなくてもいいし」
スマホから視線を移す。なんでもないような顔で私の方を見つめているけれど、一体どこまでその瞳に見えているのか。そう言えば、沙耶には何も言ってなかったな。今までずっと、誰よりも私の事を知っている友人だったのに。
「理歩のこと好きだったんだよねぇ」
「……はい?」
「でもまぁ実質振られちゃって。 だからしんどい」
「……ほー」
別にしんどい理由までは察しては無かったみたい。まぁでも、沙耶にならばれてもいい。この気持ちが少しでも落ち着くなら、誰かの背中にすこしだけ寄りかかりたかったから。沙耶ならそうしてくれるって、知っている。
「だったら余計に、明日大丈夫?」
「……でも、だからって他人にはなりたくないし、いい友達でいたいし、もし理歩に何かあったら助けてあげられる場所にいたい」
「それがしんどくても?」
「……しんどさ具合にも寄るけど」
「そりゃそうか……まぁ、優が思うようにしたらいいし。 しんどくなったらまたカラオケでもなんでも付き合うし」
「カラオケ行ってたなぁ」
中学の頃を思い出して思わず笑う。沙耶に何かあれば、私に何かあれば、カラオケに行って喉を枯らすまで歌っていたっけ。何にそんなに悩んでいたのかももう曖昧なのに、そんな思い出だけが残っている。
確かにしんどい。私以外を見つめて笑う理歩を見ているのは今も変わらず。それでもそうすると、そうしたいと思うから。
「でも優は、なんていうか……幸せになるよ」
「なにそれ」
「大丈夫って意味」
絵里ちゃんも沙耶も、理歩も。私の周りには素敵な人がたくさんいるな。そんなことを実感すると、少しだけ肩の力を抜ける気がする。理歩が進もうとしている道を、ちゃんと応援できる気がする。ちゃんと、最後まで。
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