第68話その熱は何色?(1)
最近の嫌なことを帳消しにするために神様がくれた幸運なのかもしれない。理歩が私の隣にいることを望んでくることが、それほどに嬉しい。今までの全部がこのためにあるのならいっかって思えちゃう位に、それは私の体の熱をあげてしまう。
膨れ上がった熱を体の外に放つために、理歩に少しだけぶつける。それなのに、彼女は笑ってそれを受け止めて、それからじっと私の顔を見つめるから。放出しようとした熱以上に、体に熱が溜まっていく。
「だからー、見すぎ」
肩を離して距離を取る。トクトクと早い心音を聞きながら、彼女がしどろもどろに謝るのを見つめる。
オレンジの光に照らされた理歩の横顔に、赤い色が見える。今までだって、私の事を特別大事にしてくれているのは感じていた。けれど、それは家で一人でいることが多かった彼女の、差し出す先がなかった愛情が向けられているのだと自分に言い聞かせていた。そう思って、勘違いなんてしないようにって言い聞かせて、理歩に近づきすぎない理由にしていた。
一種の家族愛、親愛、彼女のそれはそういったもので、私が抱く色とは違うのだと。
オレンジに塗りつぶされることなく色づく赤が、彼女の頬に咲いている。それを見ていると、そうじゃないのではないか、という期待を持ってしまいそうになる。期待が胸を叩いて、その分どんどん鼓動が早くなる。私の熱が、彼女に移ってしまっていたらいいのに、なんて思うことは最低だろうか。
「あのね、愛花」
「な、なに?」
「その……どれくらい、一緒に帰れるかなぁって」
「あぁ……えっと……バイトがない日は……」
そうだ、バイト結構増やしちゃったんだった。
「月曜と、木曜なら大丈夫」
「……じゃぁ、両方」
黒の瞳が、縋るように見つめてくる。そこには今までのような寂しさだけではないものがあるような気がして。そんな目に見つめられてしまえば、私の心は簡単に握られてしまう。どうして今日は、そんな表情ばかりするの。
期待したくなる。手を伸ばしたくなる。
手を伸ばしてもいいと言われたことを思い出す。手を伸ばしたいと思っていることも自覚している。
「……うん、いいよ」
「……月曜と木曜も、愛花の日」
それはまるで熱を伴うような、そんな声色。心臓を速めて体が熱くなった時に出るような声。胸を射抜くように鋭く、その声が体に刺さる。ささって響いて、秋なはずなのに、夏の太陽に照らされているかのように熱い。
「それ、実際に言われると恥ずかしい」
「最初に言ったのは愛花だよ」
私のせいとでも言うみたいに、理歩が笑う。その赤い頬も、熱く揺らめく瞳も、私の熱が移ったものならいいのに。本当に、私のせいだったらいいのに。
理歩も、私のことを好きだったらいいのに。
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