第56話中途半端だね(6)


 久々の理歩との帰り道。少しだけオレンジの色を混ぜた青が空に広がっていて、そんな綺麗な色のように理歩が隣で笑う。忙しいけれど、文化祭の準備が楽しくてしかたないらしい。

 

 優という子といろいろな事を決めたりして、クラスの皆で協力して少しずつ形になっていく過程がワクワクする。そう思っていることが、表情や言葉の端々から伝わってくる。


 私はそれに、ちゃんと上手に相槌出来てるのかな。


「カフェ、お昼が当番なんだっけ」

「うん。 愛花のところもカフェなんだよね。 毎年人気で抽選になるって話だからどっちも運が良かったよね」

「愛花のところはコスプレカフェだよ? 猫耳とか絶対つけたくない~」

「確かに……。 でも愛花なら似合うよ」

「そうかもしれないけど、そういう問題でもないっていうか」

「確かに」


 そう言って隣でくつくつと笑う理歩に、わざとらしく口を尖らせてみる。もし理歩が私のクラスのところに来たら、無理やりつけてみようか。きっと本気で嫌がるだろうけれど。そんな風に、学校でも二人で笑えたらいいのにな。理歩と優という子が、そうできるように。


「理歩のクラス見に行けたらいいなぁ」

「え、じゃぁ私も、愛花のところ、見に行ってもいい?」


 今のは少しまずかったな、と気づく。寝不足と色んな疲れと、羨ましさでつい言葉にしてしまった。それに、理歩の声や私を見つめる表情が、すごく切実に響いてきて否定の言葉を吐き出せない。どうしよう、文化祭なら色んなクラスの人が行き交っているし、少しくらいだったら変に思われないかな。

 そうしたら、私も少しは文化祭を楽しめるかな。


「じゃぁ理歩が来たら、猫耳つけてあげる」

「えぇ?」

「理歩、猫耳似合うと思うよ?」

「そういう問題じゃないって、愛花わかってるくせに」

「フフフ」


 拗ねた表情が可愛らしい。けれど本当に、猫目な理歩にはすごく似合うと思うの。恥ずかしそうに眉を顰めるのかもしれないけれど、そんな姿さへ可愛らしく映るに違いない。それを見れたら、今ある全部どうでもよくなっちゃうかも。

 なんてね。


「愛花はいつの時間帯にいる?」

「愛花は十三時からだったかな」


 多分だけど。あんまりしっかり確認していない、なんてことは言わないでおこう。時間を何度も何度も口ずさむ理歩に、また思わずくすりと笑う。文化祭なんて、ずっと憂鬱でしかなかったはずなのに。今は少しだけ、当日を楽しみにしてしまっている。本当は、こんなのズルいのにな。ダメなのにな。


 あの夜を美しい思い出にしていかなきゃいけないのに。


「じゃぁ、絶対、行くから」


 まるで一大決心かのように、力強く、一文字ずつ噛みしめるように言うから、私はまた嬉しくなってしまう。離れることを、理歩が許してくれないみたいに感じてしまう。離そうとする私の手を、理歩から掴んでくれているような。

 

「うん」


 つられるように、噛みしめるように答える。それだけで、理歩がまた綺麗に笑ってくれた。

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