第54話中途半端だね(4)

 

「えぇっと……文化祭は十時から十五時までが一般公開で、シフトの割り方はこんな感じなんだけど」

「んー、やっぱりお昼時は皆回りたいよね」

「そうだよねぇ」


 シフト割と、クラスメイトのシフト希望を交互に見つめる。朝、昼、夕方の三区分になったシフトに対し、朝や夕方を希望する人が多くなってしまっている。問答無用で振り分けてしまってもいいものか。


「こればっかりは皆状況は同じなんだし、あみだくじとかで決めていいんじゃない?」


 かれこれ三十分程頭を抱えている私に、昼のシフトに希望してくれた理歩がそう言う。そうだよね、仕方ないっていうのは重々分かってはいるんだけれど。私の判断一つで、文句を言われてしまったらどうしよう、なんて。

 本当に、何もかも想定外なことばかりだ。もっと静かに、平穏に、毎日を送ろうと思っていたはずだったのに。


「一応仮で決めて、ダメだったら各自で調整してもらって、私に報告してもらう」

「賛成」


 これ以上悩んでいるのも、理歩の時間を奪っているようで申し訳ないし。とりあえずもう仕方ない。陰口を言われたりしたら、理歩や絵里ちゃん、沙耶に慰めてもらおう。

 机から適当に取り出したノートの最終頁を破る。朝の希望者から三人、夕方から二人をお昼にずらす。線を引いて、適用に横棒を足していく。


「理歩も書いて」


 差し出した紙に、理歩が横棒を足していく。はみ出さないようにゆっくりと付け足されていく線を見つめる。書き終えた理歩が、紙とペンを私に差し出す。


「どこに誰か、理歩決めてよ」

「私?」

「手伝ってくれるんでしょ?」


 そう言って見つめてみれば、理歩がまるで子供の我儘に付き合っているような表情で私を見つめる。仕方ないなぁって、聞こえてきそうな笑みが、心臓を柔らかく突き刺す。


 クラスメイトの苗字が、縦線の上に書かれていく。出席番号順だった。書き終えた紙を受け取って、一人ひとり線をたどっていく。なんだかそれが、ちょっとした遊びのような感覚になってきて楽しい。理歩と一緒だからなのかもしれない。

 少しだけ前のめりになって、ペンが進む先を見つめる理歩の、まつ毛が綺麗。仕草一つが、表情一つが、私の心臓をそっと撫でて、柔らかく握りしめる。


「朝はこの三人で決まりね」

「次は夕方だね」


 紙を裏返して、また線を紙に引いていく。そうやって、もう一度この時間を理歩と共有する。先ほどよりも朗らかに笑って、責任なんて二人で放り投げて、ノートに落書きを書き連ねていくような気持ちで。私がヘンテコな横線を描くと、理歩が可笑しそうに笑う。笑い声が鼓膜を揺らして、心も揺らす。


「じゃぁ、とりあえずこれで仮決定ってことで」

「うん。 なんだか、楽しんじゃった」

「あはは。 二人だけの秘密ってことで」


 そう言って人差し指を口元で立てる。それを見た理歩が目尻を下げて、私と同じように人差し指を口元に運ぶ。

 思いがけないことばかりの毎日は、けれどそんな理歩を見るだけで、お釣りがきてしまう程に価値あるものに思えた。

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