第52話中途半端だね(2)


「今年はカフェ系が二クラスまでオッケーになってて、まぁそれでもくじで抽選だったんだけど」

「良かったね、無事に希望通りでさ」

「本当だよね、ダメだったらもう教室入れないところだった」


 委員会が終わるのを待って、少しだけ教室で優としゃべって、そうしたら時間はあっという間に過ぎていった。ひとまず最初の仕事を終えた優は、無事に運にも恵まれてほっとした様子だ。これからは本格的に文化祭の準備で忙しくなっていくだろうし、優には本当に普段からお世話になっているから、力になれることは協力したいと思う。


「遅くなる前に帰ろっか」

「うん」

「明日からは、とりあえずメニューと、買い揃えなきゃいけないもののピックアップかな。 あ、後予算」

「決められた予算の上限ってどれくらいだったっけ」


 話を聞くほどに、どうやらかなり大変そうだと分かる。絵里や沙耶は部活もあるし、なんとか力になれるように頑張ろう。

 階段を下りて、靴を履き替えて昇降口を出る。昇降口の脇にある花壇の隅に、しゃがみ込んだ愛花が見えた。しゃがんで、どうやら花を見つめている。整備委員の仕事かな。ぼうっと花を眺める愛花は、少しだけ元気がなさそうに見える。


「宮崎さん」


 男の人の声、昇降口とは反対の方から男の子が愛花に近づいていく。まだ水をやり終えていない花壇があるらしい。二人で正門の方に歩いていくのを眺める。男の人が横目に愛花を見つめては、視線を逸らす。


「理歩」

「わ」


 呼びかけられて、はっとする。見ると、数メートル先で優が眉を下げて笑っていた。どうやら立ち止まっていたらしいと、ようやく自分の状態を理解する。ごめん、と謝って慌てて優の隣に並ぶと、次は優が立ち止まったままで、私もそれに倣って立ち止まる。


「理歩ってさ」

「なに?」

「……」


 開きかけた口が、ゆっくりと閉じていく。何かを飲み込む時の、仕草だと知っている。そうしてまた、優は眉を下げて笑う。その表情の移り変わりをじっと見つめていると、優が切り替えるように明るく笑う。


「なんでも」

「えぇ、何?」

「んー、悔しいから言わない」


 そう言って歩き出した優に、慌てて駆け寄る。何かをはぐらかされてしまっている。優の真意は分からないけれど、隠されたそれをしつこく聞くのもためらわれる。昔から、そういうことに言及するのは苦手だ。

 すっかりといつも通りの表情をしてしまった優に、今度は私が口を閉じることしかできなかった。


 


 

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