第51話中途半端だね(1)


「じゃぁ、文化祭で何をやるかを決めていきます」


 川口君がそう言うと、一気に教室は騒がしさを増した。優が黒板に文化祭、出し物と書いていく。少しだけ丸みを帯びたきれいな字体。

 

 希望を募ると、いろんな場所からいろんな案が出てくる。それを一つ一つ優が書き出していく。カフェ、迷路、縁日、お化け屋敷。カフェの中で更にメイドやら男装やら細分化されていくその様相を他人事のように眺める。


「理歩は何がいいとかあるの?」

「うーん……あまり自分に被害がないものがいいな」

「あはは、じゃぁ、メイドカフェとか嫌?」

「メイド服さえ着なければなんとか」

「嫌でしょ、それはもう」


 絵里が笑って、それにつられて私も笑う。案が出そろったところで、先生があまりにも突拍子のない案にはチョークで思い切り縦線を真上から引いていく。ホストカフェ、というもはや訳の分からない案が消されて、それなりに無難な案が残る。


「って言っても、この感じだとやっぱりカフェになるんじゃないかなぁ」

「他のクラスも、同じこと考えていそうだけど」

「被ったら確か委員会でどっちかだけが選ばれるんだよね」

「そうなんだ」

「うん。 それで先輩がね、確か第一希望が却下されて、どことも被らない占い屋敷みたいなのやることになったって言ってた」

「あー……」


 まぁ、メイド服を着るよりはマシだけれど。

 始まった挙手制の多数決に、とりあえずお化け屋敷に手をあげる。目の前の絵里はメイドカフェに手をあげていて、思わずえ、と声が出た。絵里が着るのは確かに似合うけれど。

 メイドカフェの下に書かれた十一という圧倒的投票数に、残りの選択肢をやる意味もないだろう。形式的にその後の候補も読み上げられたけれど、いずれも投票数は一桁に留まり、出し物の希望が決まってしまった。そんなあからさまな出し物、本当にやるんだ……。


「じゃぁ、七組の希望はメイドカフェに決定します。放課後文化祭に向けた委員会があるので、そこでまた色々決まったことは明日連絡します」


 川口君の声を受けて、優が黒板を消していく。黒板消しを置いて、席に戻ってきた優と目が合う。溜息を吐き出すような仕草を私に向けて、それを見て少しだけ笑ってしまう。学級委員、くじ引きで当たっちゃったんだもんね。


「お疲れ様」

「むしろ大変なのはこれからだよぉ」


 悲壮感溢れた声に、笑っちゃいけないのに笑っちゃって。優が少し拗ねた顔でこちらを見て、それがさらにおかしくて笑う。


「何かできることあったら手伝うから」

「えー、本当に頼っちゃうよ?」

「うん、いいよ」


 図書委員のある日以外は、放課後は空いているし。他でもない優の頼みなら、協力したい。優はゆっくりと頬を緩めて、私を見つめる。その私にだけ向ける表情を見ると、優の気持ちをしっているせいで私は少しドキドキしてしまう。視線や、表情が、私に雄弁に語りかけてくる。隠さなくてよくなったそれを、優は隠さなくなった。それが、とてもくすぐったくて、気恥ずかしくて、慌てたように鼓動が早くなってしまう。こればかりは、未だ慣れる気配はない。


「思いのほかスムーズに進みましたね。 そうですね、じゃぁ残り十分程は早めのホームルームにしましょう。 これが終わったら掃除をして、そのまま放課後で構いません」

「先生有能~」

「ははは、じゃぁさくさくとやっちゃいましょうか」


 先生の言葉に、体を正面に戻す。トクトクと、早い心音が聞こえてくる。先生の言葉がいまいち脳まで届いてこない程に。意識する、とはこんなにも違うものなのだな、というのは、愛花と接するときにも同じことを思う。


 とにかく、どちらにも早く慣れなくては。


「じゃぁ、これでホームルームは終わりにします」


 その言葉と同時に、教室にチャイムが響き渡る。いけない、結局碌に話を聞いていなかった。

 いい加減、早くこの日々に慣れなくてはいけない。 

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