第50話それでも(4)


 理歩の言葉は、視線と同じようにどこまでもまっすぐだった。ただ真っすぐに、真摯に、私と向き合おうとしてくれているのが分かる。けれど、だからこそその言葉の重さを実感するみたいで、分かっていたはずのことだったのに心臓が苦しくて痛い。


「それ、もう告白の返事みたいなものじゃない?」

「え? そ、そうなのかな」

「うん。 でもなんか、そういうの含めて理歩だなぁ」


 そう言って、ほんの少しだけ肩を丸める。なんでだろう、苦しくて辛いけれど、理歩が私の気持ちに真剣に向き合ってくれたんだろうと思える、嬉しさのようなものもあって、私達の関係の一つの着地点に足がついた安心感みたいなものもあって。いろんな感情が渦巻いていて、なんだかまとまらない。


「返事、のつもりじゃなかったんだけど。 でも、隠しておくのは優に不誠実だと思って」

「うん、わかる、ちゃんと伝わってるよ。 ありがとう理歩」

「それならよかった」


 安心したように少し細まった目。理歩が小さくブランコを揺らす。私も視線を正面に向けて、少しだけブランコを揺らす。きぃ、きぃと金属音だけが会話をしている。

 

 きっと、ずっとそれを私に言おうって思ってくれていたんだろうな。まっすぐで、少し不器用で、優しい。そんな理歩には、やっぱり笑っていてほしいと思う。優しい理歩にはひだまりみたいな優しさに包まれていてほしい。


「やっぱり、私は理歩が好きだよ」

「え?」

「理歩に好きな人がいても、それでも、それは変わらない。理歩が笑ってたらいいなって思うし、それの手助けができるなら、いつだって手伝いたいって思う」


 友達のままだとしても、仮にまた私達の関係が変わったとしても。それでも、この気持ちはきっと変わらない。あの時伝えた言葉や気持ちに、変わりはない。


「っていうのは、理歩にとって負担だったりする?」

「え、そんな……負担とかないよ。 優しすぎるなとは思うけど」

「なにそれ」

「優しいよ、優は」

 

 優しく瞳がまっすぐに私を映す。それを見ていると、単純なのかな、なんだか全部肯定出来る気がして。勢いだらけの行動だったけれど、全部、間違いじゃなかったのかなって思える。


「ありがと、優」

「ううん。 こっちこそ」


 理歩を見て、心から笑い返せる。自分の中にあった気持ちも、理歩の中にある気持ちも、全部一緒に共有して、変わらずに笑いあえるのは、きっと幸せなことだと思うから。


「じゃぁ、帰ろっか」

「うん」


 ブランコから降りて、立ち上がる。多分、ここからまたスタートだよね。一緒に歩いて、駅前のコンビニでアイスを買って二人で食べて、また理歩と一緒に笑う。こうやって一緒にいて、理歩とこれからも笑っていたい。

 これからも、理歩が好き。

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