審判の鉄槌
全世界の電力網の破壊。それだけがアバカス・シリーズの計画ではない。
第2段階は、人類の反撃能力の摘み取りだ。
海上では、各国の艦艇が勝手にミサイルを撃ち合い、次々と破壊されていく。
結局のところ、軍事ネットワークの一部も、再構築したネットワークに載っているのだ。主導権を握ることは簡単である。それでも神経を尖らせた人類は、アバカス・シリーズのネットワーク網から切り離しているものもあった。
そこにはオニを進入させ、彼女らを通してハッキングした。
それによって行われたのが、ミサイルの制御の掌握、防衛システムの機能停止。
ただ、彼らは手をかけないものがあった。撃沈されていく艦艇の中に、何ごともないように浮いている巨大な艦があった。
共通することはただひとつ。原子力搭載している艦だ。武器や動力に至る原子力を搭載している艦艇には、攻撃を仕掛けなかった。
電力網破壊に関しても、原子力発電所も機能停止に落とすだけであり、破壊には至っていない。
単純な話、放射物質の汚染の処理が面倒というだけだ。
残された原子力空母などは、護衛となる艦艇が次々と撃沈されていくのを、茫然と見ていることしかできない。頼みの艦載機も、有人、無人供に使用不可能。操舵関係もシステムは停止し、原子炉も安全にシャットダウンされて、ただ海上に浮く鉄の塊と化していた。撃沈された護衛艦の生き残った者は、浮いている原子力空母へと集まってくる。
救助を信じて――
街中に再び、様子を見てみよう。
日本では停電して数時間が過ぎたが、電力復旧の見込みが立たず、人々は苛ついていた。
街のあちらこちらで火の手が上がっていた。しかし、一向に消防が来ない。原因は一部、自力で電力の供給を開始した発電所だ。回復した電力が半壊した変電所に流れ込み、機械が耐えきれずに爆発を起こしたことにある。
それは家庭用の小型太陽光発電などにも、同様に起こっている。
火の手が上がり、怪我人が出たが、消防も救急も動けなかった。
全自動、または半自動化された車両が動かなかった。
緊急車両だけでない。一般車両の乗用車や公共交通機関に至るまで、すべてがそこで止まっている。日本時間午前9時からずっと、道を占領するという形で。
その中でも人々は総出で身の回りから、対応していった。だが、規模が大きすぎる。都会なら人の数が多いかもしれない。地方では手が付けられずに、放置という形しかなかった。頼っていたロボットも、当然、動くはずがないから。
「今、どうなっているんだ!?」
この時、首相なり防災対担当になっていた人は、不運であろう。
情報が全く入ってこずに、的確な指示も出せない。
予備電源でなんとか、防災の拠点には明かりは付いているが、それだけだ。
地図1枚出すのにもモタつき、手書きでなんとか書き出した。情報を整理するにも、壁に古びた付箋紙で貼り付けていくぐらいだろう。
情報の伝達も、人海戦術でしかできない。
旧世代の
最終的にもっとも早く情報を伝えたのは、人力で動く自転車だ。
それでも、日が落ちるまでた。電灯も付かない。星明かりでは頼りなさ過ぎる。自転車で情報を伝えようにも、備え付けの小さな明かりでは、おちおち走ることもできずにいた。
その頃には、博物館で動けそうな、旧世代の車などが動かせるようになった。
しかし、この時、すでに第3段階が開始されていた。
ある兵器が、史上初めて実践で使われた。登場したのは2020年代だといわれているが、人間が使うことはなかった。
『
ほぼ忘れ去られていたといっていい。
アバカス・シリーズはコツコツと、ほぼ廃棄されていた世界各国のICBMのミサイル格納庫に目を付け、人目から遠ざけていた。改造を施し、弾頭をこの極超音速滑空体に取り替えていた。
時間を見計らい……そう、各国の首脳などが、災害対策や防衛で司令部になる場所に混乱の中集合している瞬間を狙って、
その数およそ数百。
アバンガルドには、通常弾頭または核弾頭を搭載可能であるが、この滑空体の運動エネルギーで十分と考えられた。宇宙空間までミサイルで運ばれると、切り離されて大気圏との境界を、空気の摩擦を利用してスキップしながら目標に接近し、再突入する。
通常の弾頭ではなく、極超音速滑空体のみにしたのは、
それが世界各国で、ほぼ同時に起きた。
その着弾を見たものは、恐らく隕石か、天罰か……見紛うであろう。
火の玉と化したアバンガルドは、目標をその運動エネルギーのみで蒸発させた。
着弾の衝撃波により、半径十数キロ単位で壊滅的被害を与えた。
この瞬間、人類の主要国ほぼすべてで、指示を取るべき人物が消えたことになる。
西暦2096年4月7日から、8日になる瞬間であった。
23世紀の歩き方~マンカインドの皆さんへ 大月クマ @smurakam1978
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