第29話

 「どうだろう」

 私の前には、いつもの3人が座っている。昨日の告白を全て話した。

 中井は首を傾げて、渡邉は天井を見上げている。森田君だけは、無表情に静止している。

 「どう思う?」 私は、続けて訊いた。

 渡邉が「う〜ん」と唸った。

 彼に続けて中井が口を開く。

 「前話し掛けた時はどうやったん?」

 私は、思い出せる限りの内容を話した。するとまた渡邉が唸った。

 「もう一回行ってみよう!」 森田君が元気にそう言う。私は、頷いてみせた。

 「脈無さそうやけどな〜」 渡邉がそう呟いた。そして、深く考える様な格好になると、「もう一回話し掛けたら?それであかんかったら、多分無理やと思うで俺は」と言った。

 私は、彼に賛成だ。もう一回、チャンスが欲しい。

 中井だけが、反対の姿勢を見せてきた。「迷惑掛けるのでは」と言ってきた。しかし、私が断固とした意志を見せると、彼も応援してくれるようになった。

 11月11日金曜日、私はバイトを中井に代わってもらい、夕方の仲良し本堂に入店した。

 いつものBGMが耳に入る。入口には偶然にも、雑誌のチェックをしているいつものおばさん店員が居た。

 彼女は、私を暫く凝視すると慌てて「いらっしゃいませ〜」と挨拶する。私が奥の方に歩いて行くと、後ろから彼女の視線を感じた。

 まさか告白した事がバレたのか、と思った。声が大きかったから?いや、彼女だけに聴こえる位のボリュームだった筈。他の客や店員には、迷惑が掛からない様配慮したつもりだ。

 そうすると、彼女が告白の事を広めたのだろうか?

 私は、フラフラと地図売り場まで歩き、思考を整理させる。そしたら、再び視線を感じた。

 レジ前から私のいる所までを真っ直ぐに繋いた通路がある。その途中から、ブロンドヘアーの若い女の子がただひたすらにこちらを眺めているのが分かった。山中さんだ。

 私と目が合うと、彼女は視線を逸らした。

 やっぱり広まっているんだ。広めたのは、鈴木さん。裏でモテ自慢をしていたのだろうか。

 私は再び歩き出して、その場から離れた。そして、彼女を探す。漫画売り場や小説売り場にも居なかった。金曜日は、遅番なのかなと思っていたら、レジにチャッカリ彼女の姿を確認出来た。

 彼女は、接客している店長の裏で、彼の補佐的な作業をこなしている。レジの向こう側に小道具とかが沢山あるのだろう、それらを店長の為に取り出してはしまうを繰り返していた。

 レジの様子を伺える学習本売り場で、様子を伺う事にした。

 レジに並ぶ客の数は、一向にゼロになら無い。彼女は、ずっとレジの中に居座り続けていた。

 時間を確認する。入店してから、10分位が経ったようだ。痺れを切らした私は、小説売り場に移動した。

 何か買おうと思ったのだ。レジでチャンスが得られるかもしれない。

 名作を一冊手に取る。シェイクスピアのものだ。それを手に持って、レジに並んだ。

 前で待っている客は1人。

 すると、丁度そこで店長がレジを離れた。鈴木さんに全て任せるみたいだ。私は、喜びに包まれた。

 彼女は、私の前の客を対応する。慣れた手つきで本を専用のビニール袋にしまい、シールで栓をした。客は、「ありがとう」と言ってビニール袋を受け取ると、足早に店を出て行った。

 いよいよ、私の番だ。

 私が一歩踏み出すと、彼女と一瞬だけ目が合った。

 目の前に来た時、彼女は一歩後退りした。

 「これお願いします」 

 私は、本を机に置いてそう言う。

 彼女は、バーコードを読み取った。

 「今日もお綺麗ですね」

 今日は、褒める作戦でいこうと思う。そして、最後に何かを付け加えて連絡先を受け取って貰う。

 彼女は、私の発言に目をキョロキョロさせた。そして、「あ、有難うございます」と言った。

 「カバーはおつけしますか?」

 「お願いします」

 彼女は、横からカバー用の紙を引っ張り出して来た。それを本の下に敷いて、形に合う様に折る。

 彼女の手つきは震えていた。私は、それを見てこう言った。

 「お仕事大変そうですね。いつもお疲れ様です」

 「あ、はい。どうも、有難うございます」

 彼女は、ペコペコしながらそう言った。

 ビニール袋に本がしまわれる。シールが切り取られ、袋に貼り付けられた。

 「あのぉ、もし良かったら、食事だけでも僕と行ってくれませんか?」

 無視された。

 既にカルトンに乗せられたお金を、彼女は数える。そして、それらをレジスターに流し込んで、お釣りとレシートを待った。

 「食事のお代は全部こっちが出すので」と私は、追撃した。

 直ぐに出てきたお釣りとレシートが、同時にカルトンに置かれる。私は、取り敢えずそれらを財布にしまい、買った物を受け取った。

 「あの、連絡先貰ってくれませんか?」

私は、2日前に提示した小紙を再び彼女に見せる。彼女がそれを見て、動きを止めた。

 1、2秒考えたのだろう。

 彼女はニコッと笑う。そして、

 「後ろのお客様がお待ちしておりますので〜」と言って、私に退店を促した。

 私は、渋々店を後にする。

 これ以上近寄ろうとすると、流石に迷惑以外の何物でもない。これで5つ目の失恋だ、と思った。

 

 

 


 

 

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失恋のボルテージ @konohahlovlj

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