第28話
ハロウィンが終わると、世間はもうクリスマスの準備を始める。可愛い妖怪達の飾りが、クリスマス風の靴下やツリーの飾りに変わった。
中井、渡邉、森田君らといつもの食堂で昼食を取っていると、クリスマスの話になった。彼らの彼女は未だ健在の様だ。
まず中井が、クリスマスの日彼女と過ごすかどうか、と話題を作った。渡邉がそれに乗っかる。続けて、森田君も珍しく乗っかった。いつもは、私に気を遣う彼だが今日は特別らしい。
満面の笑みで騒ぐ彼等を私は、遠い目で見る。正直言って苦しい。どうして私だけ居ないのだろう、と思うも、今まであったチャンスを無駄にしてきただけに過ぎないと自覚している。大園さんや山崎さんなんか特にそうだ。吉田と岡部に関しては、多少仕方のないことでもあったと思う。
そして、鈴木さん。彼女と出会ってから、早2か月経っただろうか、ほとんど進展がない。ただ1点、気になることがある。それは、彼女とよく目が合うようになった事だ。ふとした瞬間にレジに居る彼女の方を眺めると、あちらも僅かな接客の間なのかこっちを眺めていることが多くなった。
しかし、だからといって彼女も私に好意を寄せているとは限らない。私が見ているから、彼女も見返しているだけかもしれない。
三人の会話を聞いていると焦りだけが一人走りしそうになる。私は、「コーラ買ってくる」と言って、席を立ちあがった。
直ぐに戻ってくると、三人は会話をやめていた。そして、席に座るのを見計らうように中井が口を開いた。
「なあ、バイト終わりいつもどこ行ってるん?」 笑いを含んだ声が届く。
私は、ビックリして、誤魔化す様に照れ笑いした。どうやらいつの間にかバレていたらしい。
彼の口撃は止まらない。
「あの本屋さんに可愛い店員でもいるん?」
渡邉と森田君もこちらの方を見た。
私は2人の視線に反応して、口元を抑えながら真横に目線を移す。暫く三人の視線を肌で感じた。
「で、進捗はどうなん?」 今度は渡邉の声だ。
「いや、全然」
「話しかけた?」 彼は進める。
「1回だけ。しかも、失敗に終わった」私は、苦しそうにそう言った。
三人の方を見た。皆、渋い顔を決めている。中井は、ふー、と息を吐きだし、渡邉は、鼻息を立て、森田君は、腕を組み、俯きながら頷いていた。
「厳しいんちゃう?」と中井が口を開く。続けて、「だって、バイト始まる前から気に掛けていたやろ?その子の事」と言った。
的中、凄い推理力だ、と私は感心した。
「まあ、クリスマスまで頑張ってみるのも有りやけどな」 渡邉が口を開く。
再び、真剣な目が私に向けられた。応えを求められているのだろうが、どう返せばいいのか分からない。小さなうなり声を出して、再び視線を真横にやった。
暫くすると、泣きたい位苦しい気分になった。恐らく涙目になっていたと思う。過去に会ってきた4人の女性と上手くいかず、更には鈴木さんもダメとなると、もうどうすれば良いのか私にはサッパリだ。
私は鼻をすすった。その音に反応して、中井と森田君が慰めてきた。
二人のおかげで、泣かずに済んだ。しかし、心にポッカリと穴を開けた状態で、次の授業に臨む事となった。
出費は大きいが、やはりバイト以外にも会いに行くべきだと思った。
次に、私が仲良し本堂に赴いたのは、9日の水曜日だった。学校が終わると、サークルに休みの連絡を入れて直ぐ京都駅に向かう。本屋の前で時間を確認すると、まだ夕方の5時だった。
店内に入ると直ぐに首をグルグル回して彼女を探した。今日決める、私は本気だ。告白とまではいかないが、伝えるつもりでここに来たのだ。
右手に連絡先を書いた小さな紙を汗の付かないように摘み、通路をグングン進む。
流石に好きだとか、気になってましたとかは言わないつもりでいる。ただ、お薦めの本を訊いて、もしよかったら、と連絡先を渡すだけだ。
鈴木さんが小説売り場で、手を前で組みながら、暇そうに立っているのが見えた。絶好の機会。
歩くペースを落として、偶然を装う様に近づく。
彼女のすぐ傍まで、近づいた。彼女は、人影に気が付いたのか振り返る。私と目が合った。今しかない。
私は、勇気を振り絞ってこう言った。
「僕、小説をよく読むんですけど、おねーさんも読まれたりするんですか?」 睨み付ける様な目をしているだろう。最後までスラスラと言えた事に安心した。
「あ、え、えっとー、偶に、、読みますかね?」 てんぱっている様子を見せた。
「お薦めの本とかってありますか?」と直ぐに返した。
「はい、えっと、当店ではお薦めの本をこちらに並べさせて頂いております」 今度は、正常に受け答えする。
彼女に案内されて、柱の張り紙を見た。小さい文字だが、エクセルで作成されたであろう作品の羅列が目に入ってきた。
一瞬で目を通すと彼女に向き直り、こう言った。
「あの本屋さんの店員さんと仲良くなりたいので、若しよかったらこれ受け取ってくれませんか?」 言い終えると、そっと右手の小さな紙を差し出した。
彼女は、明らかに困惑した様子を見せた。どうすればいいのか悩んでいるみたいで、その場でオドオドと足踏みを始める。
なんだか、可哀想に思えてきた。なにか、言わなければ。
「ずっと、貴方の事が気になってました。良かったら連絡先貰ってください!」
私自身、とっさに出た言葉に驚いた。口を抑えたビックリ顔が目に映る。
口はそのまま、彼女は、視線を逸らしてこう言った。
「あ、いえいえ、ありがとうございます。そんな私なんて滅相もない、わざわざ申し訳ないです」
何度も会釈し、紙を受け取らない彼女に対して、私は立ち去るしかなかった。
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