第17話
食堂に着くと、私は目立ちたく無かったので、端のテーブルを3人にそれとなく提案した。そして決まると、私は顔が壁側に向く配置の椅子に座った。
「畑山、食券買いにいこーぜ」 中井がそう言う。
「すまんけど、俺の分も代わりに買いに行ってきて。きつねうどんでいいから」
私は、財布を取り出して、460円分の小銭を差し出した。
中井はそれを受け取ると、手元の計算をして「OK、買ってくるわ」と言い、少し離れた所で待っていた2人の後を追った。
私は、体を小さくして彼等の帰りを待つ。
見つからないよーに、見つからないよーにと願うも、あっさりと見つかってしまった。
「畑山くん、久しぶり」
大園さんの声が聞こえてきた。
顔をソロ〜っと横に向けると、彼女の顔がどアップで現れる。
「あ、よう、久しぶり」
「いつものメンバーでお昼ご飯食べるの?」
彼女が、不自然に空いている私の周りの席を見てそう言う。
「うん、そう」
「へ〜。ねぇ、私も一緒に食べて良い?」
私は戸惑いだけを示して、何も言え無かった。
そんな様子を取り留めず、彼女は何処からか椅子を引っ張ってきて、私の隣に座った。それと同時に、中井が帰って来た。
「ほら、きつねうどん。買ってきたったぞ。あれ、大園さん?」
大園さんが彼に会釈する。そして、この彼の発言が終わる頃に森田君と渡邉が順に帰って来た。
森田君がニヤニヤしながら、渡邉に耳打ちするのが見える。聴き終わると、渡邉もニヤニヤし出した。
5人が狭いスペースに体を寄せ合って座る形になった。勿論、私の隣には大園さんが座っている。
渡邉が大園さんに質問し出した。出会い、進捗、どういう所が好きか。私は、顔を伏せながら、彼女の発言を聴いていた。
中井が「大園さんばっかじゃ無くて、お前も喋れよ」と笑いながら言ってきた。私は顔を赤くしながら、照れ笑いで返す。
「キスもまだか〜」森田君も弄ってくる。
「あれ、そういえば、今日部会無いよな?デート行きなよ」 渡邉がニヤニヤして、そう言った。
私は、「あ〜、どうかな」と呟いて大園さんの方に見た。すると、彼女もこちらを見ていた様で、微笑む顔と目が合った。
彼女の可愛良い笑顔を見ていると、何だか癒される気分になる。この女の子と結ばれる事が出来るなんて、自分は幸福な人間なんだなと思った。
彼女が中井や渡邉としっかり会話しているなか、私は彼女の顔をチラチラと見ていた。
この子を差し置いて、山崎さんに手を出すなんて、何て自分は失礼な人間だったんだうと思う。大園さんとなら、絶対に幸せになれる。私の不甲斐ない一面を支えてくれる。そう確信が持てた。
授業開始前20分前になると、なし崩し的にそれぞれの授業に向かう流れになった。私は勿論、大園さんと向かう。
3人と食堂で別れた私と彼女は、日陰が多い道を選んで歩いた。2人して無言のまま、目的地に向かった。
私の手に彼女の何かがよく当たるのを感じた。私は、チラッとそちらの方を見ると、それは彼女の手だった。その時、これは手を握るべきなのか、そのチャンスなのではないかとか考えてしまい、ドキドキして緊張状態に入ってしまった。
そんな中でも手がぶつかり合うので、私は手を少し後ろに引っ込めた。しかし、暫くすると引っ込めた手が何かいやらしい物に感じてきて、結局手を横に戻した。
そうするとまたお互いの手がぶつかり合うようになり、これは勇気を出して握らないといけないのではないかという考えになった。
無意識に、彼女の顔を見る。目の端で見ていたのか、彼女も私の視線に気づいてこちらを向いた。そして、ニコッと笑い掛けてきた。
私は上を向きながら彼女の手に触れて、そのまま指と指の間に、私の指を通した。奥まで、指を入れるとギュッと強く握る。それと同時に、彼女も軽く指を折るのが分かった。
当然、心臓の鼓動がスピードアップして、彼女の顔なんて見る事が出来ない。手を繋いでいるのに、さっきよりも離れて歩いていたと思う。
気が付けば、目的の教室がある校舎が目の前に立っていた。流石に校舎内は恥ずかしいと私は思って、入館数歩手前で、彼女の手を解いた。
そして、いつもの教室に向かい、いつもの席に座る。私は、必要な物を全て机に乗せると、なんだか恥ずかしい気持ちになり、恐らく同じ状態であろう彼女と何度もお互いを見つめあった。二人ともニヤニヤした顔をしていたと思う。彼女は間違いなくしていた。
人が増えてくると、私は段々と挙動不審になってしまい、「トイレ行ってくる」と彼女に一声掛けて、教室の外に出ることにした。
食後だから出るかなと思っていても、案外そうでもない様で、手洗いで時間稼ぎをした。スマホを取り出して、時間を確認する。開始3分前だ。そろそろと思って、教室に戻ろうとした。するとトイレを出た所で、丁度山崎さんとバッタリ会ってしまった。
私と彼女は、お互いビックリした目を合わせる。私が、顔をあまり見ないように俯いて、会釈だけして離れようとすると、彼女が話し掛けてきた。
「ねぇ、畑山くん。今度、FFのマルチしようよ」
私は、発言に反応して、それ位ならと思い返事する事にした。
「良いよ」 「分かった。今度、LINE送るねー」
彼女は、ニコッと笑顔を作り、またねと歩きながら手を振る。それに釣られて、私も笑顔を返した。
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