第15話
電磁気学の講義も終わり、私は荷物を整理すると、いつも通り居残りする森田君に別れを告げた。
出口に向かい、大園さんを目をグリグリと動かしながら教室内を隈なく探す。しかし、どうやらここには居ない様で、彼女は見つからなかった。
渋々、教室を後にしようとする。その時、私を呼び止める声が聞こえた。
「畑山君、待って」
声の方を振り返ると、佐藤さんが立っていた。
私は、立ち止まり、「はい?」と尋ねる。
「3号館の食堂に、さやちゃんが来てだって」
私は、「え?」とだけ声が出た。
それだけ言うと佐藤さんは直ぐに、机上に置いてあった鞄を手に持って、教室を出て行ってしまった。
私は、訳のわからないまま彼女の言う通り、3号館の食堂に向かう事にした。
目的地の到着すると、ガラス張りの扉を引いて中に入る。昼過ぎという事もあり、人はまばらだ。奥へ進みながら、大園さんの姿を探す。
居たっ!! 私は心の中でそう叫んだ。
端っこのカウンターの席で、私の知らない女の子と喋っている。
私は、彼女等に近付いた。背中まであと1m位の所までくると、声を掛けた。
「大園さ〜ん」
私の声に大園さんが振り返る。そして、私の姿を確認すると、女の子に小言を告げた。彼女は、直ぐ無言で立ち上がり、何処かへと歩いて行く。大園さんは再びこちらを見、「座って」と引き出されたままのさっきの女の子が座っていた椅子の背もたれを叩いた。
私は滑る様に座り、大園さんの方に体を向ける。
「何か話が有るのでしょうか?」と私は言った。
彼女は頷き、一旦、手元にあったドリンクをストローで口に含む。
私が彼女の顔を覗き込むと、ようやく彼女は言葉を発し始めた。
「あのさ、好きって言ってくれたじゃない?」
彼女は、顔を赤らめ、慌てる様にまたストローに口をつける。私は、彼女から緊張が伝わってきて、体が固まるのを感じた。
「でさ、私もね。良いかもってね」
私は、無言で聞いていた。彼女の邪魔にならないように大人しくするつもりだ。
暫く沈黙が流れる。お互いが気の利いた言葉を探していたと思う。
私は、ガラスの外の方に目を向けた。綺麗な緑色の風景が見える。男女グループがベンチに座って、談笑しているのが見える。教授と一人の女生徒が、立ち会話しているのが見える。
そういうのを見ていると、緊張も次第にほぐれてくる。私が彼女の方を見ると、彼女もまた私を真似てか、外を眺めている。
「大園さんも良いんだね」
彼女が振り返って頷く。
「俺の事、好きって事?」
彼女はまた頷く。
「そっか」私も顔を赤くしていると思う。
また、沈黙が流れた。私達はドキドキしながら、お互いの顔を見ず、二人だけの時間に暫く浸っていた。
いきなり、椅子を引く音が聞こえる。「サークル行ってくる」と言う大園さんの声が聞こえた。私は、顔だけ彼女の方に向ける。そして、微笑みながら、手を振る彼女に会釈した。
見えなくなるまで、ジーッと彼女の後ろ姿を眺める。そして、見えなくなると、正面に向き直ってスマホを開いた。無料で読める漫画を雑にスクロールする。
暇になった。だからと言って、何かをする気にはなれない。
LINEを開き、部会の集合場所を再確認する事にした。すると、また山崎さんから、質問メッセージが届いていた。先ずは彼女に適当な返信だけしておき、その後サークルのグループを開く。
どこだどこだ、と田村の長文を読む。少し手間取ってしまい、1分位で見つける事が出来た。次からは、スケジュールアプリにメモでもしておこうかと考えていると、ピコンと山崎さんからのLINE通知音が鳴った。
開いてみると、(今から、会えますか? まだ、分からないところがあるので)と表示されている。
私は、部会まで随分と時間が空いてたので、(いいですよ)と返信する事にした。
指示された3号館の教室に入ると、山崎さんが一人で座っているのが見えた。室内には、彼女以外にも、2組の友達グループが居て、お喋りしている。
私は、彼女に近付き「こんにちは」と声を掛けた。彼女は、私に気が付き、「待ってたよ」と言う。
私は、彼女の隣に座ると、早速彼女の手元の物を見た。彼女は、「これ、これが分かんない」と指を差す。
私は教科書を借り、ページをめくりながらゆっくりと解説した。山崎さんは、ほんの数分位で理解した様で、目的はあっさり達成されたみたいだ。
その後は、部会まで彼女と雑談して過ごした。波長が合うのか、わざわざ話題を見つけなくとも、2人の会話が途切れる事が無かった。その事は私にとって、喜ばしい事だ。
部会の時間が近付くと、私は彼女にそれを告げた。すると、彼女が「途中まで付いて行くよ」と言ったので、私達はそうする事にした。
一緒に廊下を歩き、6号館に向かう。以前にも会った、新田がいる男女グループとまた遭遇した。また新田が声を上げて話かけてくる。私は、適当に返事し、山崎さんとの会話を続けた。
6号館手前で彼女とは別れた。
校舎内に入ろうとすると、ふと視線を感じる。そちらの方を振り返ると、見知らぬ3、4人の女生徒達が私の方をジーっと睨み付けているのが見えた。睨み付けながら、曲がり角を曲がる様子が窺えた。
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