第14話
結局、その日は何も無く、私は一人で帰る事になった。一応、校舎をグルグル回って大園さんを探したが、数分位で虚しくなり辞めてしまった。
家に帰ってからLINEを確認すると、山崎さんからメッセージが届いているのが分かった。開くと、軽い自己紹介と数学の質問があった。私も自己紹介を送り、丁寧な解答を送ってあげた。
火曜日、この日は散々だった。一限目の情報には遅刻するわ、実験で感じの悪い教授に好き勝手言われるわ。挙句の果てには、気の落ち込んだ私がミスを連発し、終わりかけの実験を長引かせてしまった。ヘトヘトになりながらも私は、放課後の部会に出席した。
田村が配ったプリントに、有名な童謡が幾つか載せられていて、私達はそれを歌うことになった。歌い終わったら、それらの歴史の授業に入った。田村は意外と喋りが上手で、彼の話に私は興味を惹いた。日本民謡が面白いものだと分かった。
帰り道、前と同じ様に山田と立花さんとで一緒になった。飲みに行こうって約束、今日果たすそう、という事になり、私達は繁華街に向かうことにした。そして、適当な居酒屋に入った。
私と山田は初めてなので、小さくなっていた所、立花さんがテキパキと先導してくれて助かった。彼女の薦めたチューハイで、私は初めてお酒の味を知った。私がチビチビと呑んでいたら、立花さんに「美味しい?」と訊かれたので「よく分からないです」と正直に応えると爆笑された。
山田は、最初こそは烏龍茶を頼んでいたのだが、「俺も呑みたい」と喚き出したので、立花さんが私と同じやつをもう一つ頼んだ。そして、それを呑み終えると、無理そうに「これも呑みたい」とメニューを指差すので、それも頼むことにした。
お酒のせいか私も立花さんも、山田を面白がっておちょくった。山田はムキになり、「これもこれも」と指を差す。立花さんは指示を出して、私に彼を無理矢理外に出させるようにした。そして、彼女が会計を済ませると、2人がかりで山田を支えながら帰路に着いた。
駅に着く頃には、山田が落ち着いていたのでホッとした。2人と別れた後、自分の口から出るお酒の臭いが何と無く気になったので、隠すようして自宅まで帰った。
水曜日、大園さんとは久し振りの再会だ。昼までの講義を終え、校舎を出ると直ぐそこにペットボトルのお茶を飲んでいる彼女の姿が見えた。珍しく彼女の周囲を見渡しても、連れは誰も居ないみたいで、話しかけやすい。
私は、気兼ねなく声を掛ける。
「やあ」
彼女は慌てて、ペットボトルを手提げにしまい、「よう」と返す。
「今日は一人なの?」と訊くと、「そうだよ。畑山君も?」と訊き返す。
「う、うん。まあ森田は居るけどね」
森田君とは、食堂で再会しようと離れたばかりだ。
「ねぇ、畑山君ってさー、彼女居ないよね?」
「え?居ないよ」
「私さー、告白されたって言ったやん、この前」 「うん」
「彼にOK出そうかなーって思っててさ」
え?え?え?私には衝撃的過ぎて、直ぐには理解出来なかった。ただ、飲み込める様になってくると次第に、泣き出したい気分になった。
「そうなんだ」と言い、彼女の顔を見る。
冗談で言ってる様には見えず、はたまた無理矢理言わされている様な感じでも無かった。ただただ、冷静な面持ちで私を見つめている。
「畑山君にも相手がいるんでしょ?」今度は、苦しそうにそう言う。
「え?誰の事?」
「休みになった線形代数の教室で、女と会っとったやん」次は怒った様子だ。
「違うよ。あれは、あの人が休講だと知らずに、教室に居たから」
「でもそれ嘘でしょ?」今度は、落ち着いてそう言う。
「嘘?俺が好きなのはお前だよ!勘違いすんな!」
彼女は言葉を詰まらせた。そして、無言で何処かへ歩いて行ってしまった。
私も何も言えず彼女の後ろ姿をただただ見守った。そして、姿が見えなくなると、食堂へ向かうことにした。
歩きながら、彼女との会話を振り返る。彼女に勘違いさせてしまった事を反省した。大園さんという人が居ながら、私は他の女にうつつを抜かしてしまっていたのは、事実だ。それが彼女に勘違いさせてしまった原因だと今気付いた。そして、最後に思い掛けず「好き」と言った気がした。ただ、カッとなって言った事だから、記憶がアヤフヤで確かな事かどうか分からない。ただ、本当に言ってたとしたら、私は人が一杯いる中で告白した事になる。もしそうならば、赤っ恥だ。
先週と同じ様に中井、渡邉、森田君とで飯を食った。タイムリーにも、恋愛の話で盛り上がった。中井には、高校からの彼女がいて、渡邉は同じサークルに好きな人が居るそうだ。そして、森田君にも好きな人が出来た様で、それも同じお笑いサークルの子らしい。
私にも火花が降り掛かってきて、大園さんの事を話したら、根掘り葉掘り聞き出された。小っ恥ずかしかった話になる度に、フーフーと茶化された。
中井、渡邉とは別れ、森田君と電磁気学の教室に向かった。今週は、反省を活かして早目に食堂を後にしている。並んで歩きながら、森田君に目配せをする。彼には、わかり辛いガッツポーズをした。
そして、授業開始5分前に教室に着いた。見渡す限り、大園さんと佐藤さんの姿は見えない。女の子2人のペアと絞って、再び探すも見つからない。
まだ来てないのかな、と思い、私は森田君に目配せして、適当な席に座わることにした。
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