第12話
全員分の料理がテーブルの上に揃い、それぞれの席に座ると、中井を筆頭にサークルの話を始めた。中井と渡邉は、3つのサークルを併用しているらしい。それぞれのサークルに顔を毎回出していたら、授業についていけなくなるので、一つは辞めようかと悩んでいるそうだ。
森田君は、真剣に相談に乗り、私はただただ傍観していた。すると、渡邉が私に話しかけてきて、「バイトはしてるん?」と訊いてきた。私が「家が遠くてしていない」と応えると、次第にお互いの地元の話に変わった。姫路セントラルパークの話をすると、中井がガッツリ食い付いてきた。
そうしているうちに、私は森田君以外の2人と次第に打ち解けていく。なんだか本物だとか偽物だとか言って、自分を守る行為が惨めに感じてきた。かと言っても、今までの考え方を否定するつもりは無い。あれはあれでいいものだと思う。ただ、友達と居るのも良いものだと思った。
話が盛り上がり過ぎて、電磁気学の講義は、ギリギリに入った。前列の端っこしか空いてなかったので、渋々森田君とそこに座った。
講義が終わると、背伸びするフリをして、大園さんを探す。彼女が後ろの方の席で座っているのが見えた。そして、荷物を整理しながら、彼女の方をチラチラと見る。
恐らく2、30秒位で彼女と佐藤さんが荷物を持って立ち上がるのが見えた。私は、森田君の方を見て彼がのんびりと鞄の整理をしているのに気づいた。
何してんだよ、早くしろよ、と思うが口には出せない。私一人で教室を出て、大園さん達を追いかけようか、と考える。
遂に、彼女達は教室を出て行ってしまった。私は、「トイレ行ってくる」と嘘を付いて自鞄を持ち、出口に向かった。
「大園さん」
私は、彼女の肩をツンツン突きながらそう言う。
「あ、ちゃんと出席してたんだ」
彼女は、また明るい顔を見せた。
「うん。ちょっとね」
そして、大園さんと佐藤さんは、直ぐに体の向きを戻し、再び歩き出した。私も、彼女達の隣に並んで歩く。
「あの、そういえばさ。告白されたって言ってたやん。それってさ、その人と付き合うってこと?」
「えー、うーん。まだ返事はしてへんけど…」彼女は、照れ臭そうにそう言った。
「あのさ、それって先週話し掛けてきたあのイケメンの男の人?」
「ち、違うよー。同じ学科の同じサークルの人」 慌てた様子だ。
「ねぇ、大園さんって好きな人居るの?」
大園さんは、咳払いをし、小さな声で何か言った。私は、追求すると意地悪かな、と思って、適当にへー、と返事した。
続けて、彼女は、こう言った。
「そう言えば、先週手を繋いで一緒に歩いてた女の人誰?」
私には、何の事かさっぱり分からなかったので、「え?知らないよ」と返した。
「先週の水曜日」
本当に何の事か検討も付かなかった。
「ごめん。本当に分からん」
「ふーん」と彼女はきつく言った。そして、怒った様な態度を見せた。
「ほんとに知らないよ」
この発言に、彼女は反応してくれなかった。
暫く歩くと、「私、サークルあるから」と大園さんは言って、階段横の抜け道に歩いて行ってしまった。2人なった私と佐藤さんは、気まずそうに離れて歩いた。
先週の水曜というワードから、ふと今日部会あるっけと思った私は、スマホを取り出しLINEを開いた。開いた瞬間、一昨日からLINEを開いていなかった事に気付く。今日もあり、昨日もあったみたいだ。そして、立花さんからお怒りのメッセージが入っている。私は、彼女に慌てて謝罪のLINEを送り、佐藤さんに「今日、部会あるわ」と言い残して、校舎に戻って行った。
6号館に入る前に、森田君に会った。
「よう畑山、今日も部会か?」
「うん。すまんな、さっきは。お笑いサークルは、集まり無いん?」
「あるよ。今日は無いけど」
「そうなんや。また、明日な」
こういう時に、怒らない森田君には感謝しか無い。彼にちゃんと謝れて、私はスッキリした気分で部会に出席出来た。
帰り道、山田と2人で歩いていたら、立花さんが話しかけて来て、結局3人で帰ることになった。山田が、立花さんに僕の浪人話を暴露したせいで、私と彼女が同じ20歳であると言うことがバレた。最初は恥ずかしく山田を恨んだが、良いことにも繋がった様で、今度一緒に飲みに行く?、という話になった。
山田は、まだ18で、3人の中でダントツに歳下である。その事を、仕返しに立花さんと弄ってやった。楽しかったし、スッキリした気分になった一方、偽物が出ていないか心配になった。
金曜日は、大園さんと通学時に出会う事が出来た。
「おはよう」と声を掛けると、「何よ」とニヤニヤしながら、返してきた。
「何よって何よ」と応えると、「私に言いたい事でもあるの?」と言ってきた。
「いや、見掛けたから、話そうと思って」
「ふーん。そう言えば、畑山君って彼女居ないよね?」
私は、この彼女の発言に少々ときめくも、冷静に応える様、心掛けた。
「えっとね。居ないよー」
「ふーん」と呟くように言う。
ここまでいくと、流石の私も確信にかなり近付いていた。
彼女は、私の事が好きだ。このままいけば、付き合える。
気分が最高に上がってきた。自分の暗い部分が全て何処かへ行き、心の半分を彼女と共有している気分になった。私の笑顔を見て、彼女も笑顔を作っている。
本当に内容の無い会話をして、私達は、キャンパス内に入った。
彼女と別れても、私の幸せな気分は続く。その後は、いつも通り森田君と授業を受けた。
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