第10話
チャイムが鳴り、授業が終了した。
私は、大園さんに声を掛けようか迷いながら、ゆっくりと教科書とノートを鞄にしまう。そして、チラチラと彼女の横顔や後頭部を見た。
大園さんは、荷物を全て手提げに仕舞い込むと、チラッと私の方を見て、丁度彼女に向いていた私の瞳と合った。私は、立ち上がって「あの、一緒に帰ります?」と頑張って声を出す。彼女に声が届いていないのか、返事の声は無かった。
気まずくなった私は、肩や膝辺りを震わせて、森田君の方を見た。彼は、無言のまま荷物の整理をしている。
「森田帰ろ」と言うと、「すまん、俺もうちょっと勉強してから帰るわ」と返ってきた。
私は、「おう、また明日」と言って、ゆっくりと教室の外に向かった。出る直前に彼女達を見ると、2人は立ち上がり、大園さんは森田君に軽く会釈をしているのが見えた。それに続き、森田君も大園さんに会釈を返している。
不自然に廊下をゆったりと歩く。人の目線を感じながらも、彼女達を待った。彼女達は、思ったよりも早く出てきて、私と目が合う。
私は近づき、大園さん達に「一緒に帰りませんか?」と尋ねた。大園さんは、優しい笑顔を見せて頷く。
ホッと一安心した後に、意識が飛びそうな位、動く心臓を感じた。彼女の隣に並ぶのも、いつも以上に緊張する。こんな同世代が多い所でこんな求愛行動を取るのは初めてだ。無理もない。
上手く話を振れないまま、大園さんの横顔をチラチラ見て並んで歩く。大園さんも大園さんで、私には声を掛けず、佐藤さんの方に数回小言で話し掛ける。
「あの、佐藤さんの趣味は何ですか?」
気まずさに耐えかねた私は、あまり良くない質問を投げ掛けてしまった。
「え?えっと、私はハンドメイクとか音楽かな〜」
佐藤さんは、所々アヤフヤにそう言う。
私は、「そっか〜」と言って、何と無く大園さんの顔を見る。すると、丁度彼女もコチラも見ていたのか、またまた目が合ってしまった。彼女は、直ぐに視線を逸らした。私は、そのままジッと見ていると、彼女の目が動揺している様に動き、顔が少し赤くなっているのが分かった。
彼女も相当緊張しているのかなって思うと、何だが彼女が小さい存在に見え、気分が楽になった。そして、緊張がほぐれ、彼女に積極的になれるそうな気持ちになった。
私が、大園さんに声を掛けようとすると、前方から男声が聞こえてきた。
「お〜い、大園。講義終わった?」
高身長のピアスを付けた、男から見てもイケメン面の男学生が走ってやって来た。白色の英字が書かれてある黒のTシャツに、淡い色のシャツを羽織っていて、下はジーパンを履いている。彼は、肩に掛けている白の手提げを掛け直すと、「なあ、今日もサークル来るやろ?」と大きな声で言った。
大園さんは、う、うんといった感じで頷く。男は、「じゃあな、絶対来てな。待ってるわ!」と言いながら、走り去っていった。
私達は、彼を見送り遠くまで行ってしまうと、また何と無く歩き出した。
さっき話そうとしていた事を忘れてしまった私は、また無言の時間を作り出してしまった。すると、佐藤さんと大園さんが何か小言で話し出した。私は、2人の会話を聞こうと、こっそり後ろに回り込むとすぐにバレて、2人は会話を中断した。
気になった私は、2人に何の話をしていたのか訊いてみた。
「なあ、さっきの男の話してる?」
大園さんが口角を上げ首を傾げ、佐藤さんが「違い違う」と手をブンブン横に振る。
良かった、と私は安心した。
その後、お互いの緊張が薄れた私達は、大学の勉強やバイトの話をして、鳴滝駅まで歩いた。改札を通った後の階段で2人と別れた私は、LINEを開いた。すると、立花さんからメッセージが届いていた。
(今日、部会が5時半から3号館の201室であるから来てね)
私は、反対側に立っている2人が気になったので、来た電車で常磐駅まで行き、そこから3号館まで歩いた。
キャンパス内で暫く歩いていると、森田君と遭遇した。不思議そうに「彼女達と帰らなかったのか」と訊いてきたので、私は、「サークルがあるから」と応えた。
「そうなんだ」と淡白に彼は言い、どっかへ行ってしまった。
時間が余っているので、キャンパス内をウロウロしていると、廊下で男女グループがたむろしているのが見えた。私は、出来るだけ視線を合わせない様に通り過ぎようとすると、そのグループから新田が顔を出して、話し掛けてきた。
「ねぇ〜!畑山くん。今日3号館の201室だよね?」
私は「うん、そうだよ!」と同じ声量で返す。その際に、その男女グループの面々をサラッと視界に入れると、大園さんらしき女子が人陰に隠れているのが見えた。
アレッ?あれって大園さん…
私は、二度見した上に、曲がり角の直前でもう一度そのグループを見たが、大園さんの姿はハッキリ確認できなかった。
時間はまだまだあったが、そのまま3号館に赴き階段を登って201室に入った。中に入ると立花さんだけが居た。
「どうも」と声を掛けると、彼女は、「あ〜、やっと来た。ごめんね〜、実は6号館の201室だったの。LINE送っても既読付かないし、電話掛けても繋がらないから待ってたのよ」
私は、スマホを弄り、彼女から、数通メッセージが届いているのを確認した。
「あー、ほんまですね。電話もバグで機能してなかったんだと思います。すみません」
私の謝罪を聞くと、彼女は、直ぐに私の右手を握り、「さ、行くよ」と声を掛け、早足で教室を後にした。
美人さんにただ手を握られるのは、緊張するのだが、一緒に歩けるとなるとなんだが寧ろ誇らしくなり、ホクホクした表情で立花さんの後ろを歩いた。
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