第9話
「森田、お待たせ!」
私の声に反応した森田君は、私の方を振り向く。
「遅くない?授業終わるの」
私は目を逸らして、「あー、ちょっと、えっと、サークル関連のアレがあって」と言い訳した。
「そういうことね」
森田君は、そう言って納得した様な素振りを見せた。
そして、続けて森田君は「なぁ畑山、何処に行く?」と訊いてきた。
「う〜ん、カラオケとか、は、ありきたりだし、観光名所とかどう?」
「う〜ん、俺は何処でも良いよ」
すると、森田君はスマホをポチポチと弄り出した。暫く待つと、彼が「銀閣寺の方はどう?」と訊く。
私は、「そこでも良いよ」と応えたので、結局、銀閣寺近くの古風な街並みを観に行くことになった。
私達は、駅前のバスに乗り、銀閣寺道まで乗った。バスの中からもまだ残っている桜が車道沿いに見えて、私は楽しみな気分になった。
着くまでに私は、森田君に銀閣には、来たことあるのか訊いてみた。すると、彼は、中学の遠足以来で、それが最初で最後だと応えた。因みに、私が過去に銀閣寺に行ったのは物心つく前だったので、バスが和風な道に差し掛かると少し興奮してしまった。
バスを降りると、空はもう薄暗くなっていた。そして、哲学の道という所に向けて、私達は歩くことにした。
私は彼と歩きながら、こう訊いた。
「森田は、恋愛とかしないの?」
「したいけど、今んとこ相手が居ないかな。居たら、するよ。畑山は、好きな人いるん?」
私は、少し焦った様に「いや、居ないよ」と応えた。
その後、私達は、数十分間散歩して、京都駅に戻ってきて夕飯を一緒に済ませると、お互い兵庫へ帰宅した。
水曜日、私は9時からの英語の教室に行き、森田君を探した。しかし、教室をキョロキョロしても、彼は見つからない。いつもは、彼が先に来ていて、私が彼の隣に座るといった流れになっている。今日はしょうがないので、適当な空いている席に座ることにした。
スマホを弄ったり、教科書やノートをめくったりして、彼の到着を首を長くして待っていた。
しかし、彼がなかなか来ないので、授業開始前に私は用を足しに行くことにした。すると丁度、教室から出てすぐの廊下で、森田君が私の知らない男学生達、数人と歩いて来ているのが遠くの方で見えた。彼は、もう私以外の友達を作ったのだろう。しかも、森田君の周りにいる輩は何処にでもいるお洒落な服を着た、私とは仲良くならなさそうな人達だ。
私は、何だか自分が孤独に生きる一匹の猫の様な気分になった。そして、森田君に見つからない様に、急ぎ足でトイレに駆け込んだ。
教室に戻って来ると、案の定、森田君はさっきの輩の近くに座っている。私は、悲しくならない様に、森田君をなるべく見ないよう授業を受けた。
2個の英語の授業が終わると、私はそそくさと教室を後にし、食堂に向かって歩いた。建物の外に出ようとした瞬間、後ろからあの女声が聞こえた。
「畑山君」
振り返ると大園さんと他の女の子2人が立っている。私は、森田君の一件もあってか少し安らかな気分になり、「久しぶり」と返した。
大園さん達は、私の目の前まで近づいてきて、立ち止まった。そして、「こっちが新田 心音ちゃん、日本民謡の」と大園さんは右の掌を見せた。彼女の手の方を見ると、確かに以前、新歓で田村が私を飛ばして話しかけにいった女が立っていた。
彼女の見た目は、割りかし背は低いが、金髪のロングヘアーがギャルっぽさを演出していて、これはなめられない様にする為の彼女なりの努力かもしれない、と私は思った。ただ、可愛くはない。服装は、白いシャツに、海外のアニメキャラが描かれている緑色のパーカーを羽織っていて、下は黄色のワイドパンツを履いている。このことから、緑や黄色といった色が好きなのでは無いかと私は感じた。
新田は、「どうも」と軽くニヤニヤしながら、会釈してきた。
私も彼女と全く同じ事をする。
その間、大園さんはもう一人の女の子と、何の変哲も無い小言を交わしている。
気まずくならない様に私は、新田に「学科は何ですか?」と訊いてみた。
「えっと、経済学部です。理工学部の応用化学科だよね?」
「そうそう」
私のこの発言の後すぐに、大園さんは「食堂行こう」と2人に声を掛けた。彼女は続けて、私に「またね」と言って、3人は食堂へ歩き出す。その後ろ姿を少し見送りながら、彼女等の跡をつけて私も食堂に向かった。
食事を済ませ、電磁気学の教室に入ると、森田君が1人で座っているのが見えた。私は、笑顔で彼にやぁと声を掛け、彼の隣に座わる。森田君は、おっすと返事をし、先週の課題の答え合わせをしようと言ってきた。私は、ノートを広げ、「こんな感じだったよ」と言う。すると、森田君は、私のノートと自分のノートを見比べ、暫くすると満足げな表情を見せ始め、「ありがとう」とノートを返してくれた。
森田君が、教科書の例題を解き始めたので私はスマホをポチポチと弄って、暇を潰していた。すると、私の一つ前の列に女の子の二人組がやってきて、そこの席に座った。何と無く顔を上げ、彼女達を見ると、大園さんと佐藤さんの横顔が見える。
私がびっくりして彼女達を見続けていると、2人は私がジッと見ていることに気付き、「畑山君!」と大園さんが声を掛けてくれた。
「そっかそっか、先週も同じ教室だったもんね」と私は言う。
「うん。あ、そうそう小説好きって言ってたよね。どんな小説が好きなん?」
大園さんの目がキラキラと光る。
「え、えっとね、ミステリー小説とかかな。東野○○とか」
「あ〜、パラドックスなら読んだことある〜。私はね、エッセイとか読むよ」
「へ〜」私はエッセイのエの字も知らない人間だったので、どう返そうかドギマギしてしまった。
暫く沈黙が流れると、都合良くチャイムの音がなり、大園さんは正面を向いた。
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