第7話
「えっ?あ、おはよう畑山君」
彼女がそう答える。そして、私達は並んで大学へ歩いた。
「今日、朝から授業?」
「うん」 「何の授業あんの?」
「えっとね。プログラミングと計算理論ってやつ」
「なんか、難しそうだね」
私は、視界の端で彼女を捉えていたが、彼女は私の顔をチラチラと見ていたと思う。会話がここで止まると、私は内心焦りながら、次の話題を探していた。
「あの、大園さんって趣味とかあんの?」
「うーんとね、音楽聞いたりするよ。あ、あと最近は映画かな?」
「映画って、例えば?」
「うーん、アクション系観るよ。スパイダーマンとか」
「ふーん」
そして、会話がまた途切れた。沈黙の中、私は、私ばかりが彼女に質問をしてるので、実は、彼女は私に興味なんて全くなく、もしろ鬱陶しがっているのではないかと不安になった。彼女の顔をふと覗くと、顔は正面に向いていて、目も真っ直ぐ前方の坂を見つめている。
沈黙が続き、また彼女の顔を覗くと、さっきと全く同じ恰好が見えた。すると、彼女が気まずさを感じてか、んんんと咳払いをした。私は焦り、次の話題を頭の中をクルクル回して探した。
「あー、えっとね、僕の趣味は読書とかゲームとかアニメかな?大園さんはする?」
「ゲームは、お兄ちゃんがやっていたの見たことあるかな。アニメとかそういうオタク文化は知らないので、うん」
「読書は?」 「するよ」 「おお、何読む?」
既に、私達はキャンパス内を正門から入っていて、そこから続く大通りの1個目の分岐点に差し掛かろうとしていた。
「えっと、ひま*・%##い:☆」
「え、なんて?」 「ごめん、こっちだから」
彼女は、そう言うと私の行こうとしていた道とは逆の方に歩いていってしまった。
あっ、と思って彼女を呼び止めようとするも、彼女は後ろに気もかけず、スタコラと歩いる。
私は、仕方なくそのまま物理学の教室へ向かうことにした。森田君とは同じ学科なので、必修の授業はよく会う。また、教室で彼と会うと「よう」と笑顔で挨拶を交わし、彼の隣の席に座った。
昨日と同じ様に、彼とは休み時間もほぼ一緒に過ごし、色々な話をした。彼にサークルは入るかと訊くと、彼はバイトを沢山入れているから、今のところ予定は無いと言った。また、大学院の話をすると、彼はY大の院に挑戦するとも言った。私は、彼に感心しながら、彼の真面目さを見習わないといけないなと自分を急き立てた。
今日も何事もなく大学が終わり、森田君と鳴滝駅で別れた。電車に乗りながら、LINEを開くと、2件メッセージが届いていた。
1つは、大園さんからで、ただ(サークルはまだ決めていない)と書かれていただけだった。2つ目は、立花さんからで(うちのサークルに入るなら、連絡ちょうだい。来週には、提出せなあかんから)と書かれていた。私は、立花さんにだけ(入ります)と返信して、LINEを閉じた。
土曜日にしては、珍しく早起きした。時計を見ると、まだ短針は6と7の間を差している。森田君は今日も勉強するのだろうかと考えていると、何と無く、今週書き込んだノートを棚から取り出した。しかし、ノートを覗いてもやる気が出なかったので、手の物を床に落とし、机上のスマホを手に取った。ゴロゴロとベッドの上に転がり、目先の娯楽を楽しんだ。
私には、森田君ほど熱烈な動機がない。それで、また明日で良いやと思ってしまい、全く勉強しない土曜日を過ごしてしまった。結局は、日曜日も同じ様なことを思い、似たようなスケジュールを過ごしてしまった。
月曜日になり、新しい週が始まった。10時半からの無機化学に間に合う様に家を出て、大園さんの事を考えながら、電車に乗った。
彼女とは、線形代数の授業で一緒になる。私は、彼女の事が少しは好きだが、彼女はそうじゃないかもしれない。しかし、彼女から話しかけてきた訳で、そうなると彼女は男の恋心を振り回す性悪女ということになる。何故彼女は私と会話をしようとしないのだろう。私がコミュ症で気持ちの悪いオタクだからだろうか。多分大方はそれだろう。それか、私の顔を間近で見た時、ガッカリした気分になったのではなかろうか。それともそれとも、もしかして、好き避けというやつではないか。
私は、彼女に先週の様に話し掛けるべきではないのだろうか。それとも、もうこの小さな恋は諦めるべきなのだろうか。私は、話し掛けた場合としなかった場合のその後の展開を予想した。そして、その結果、ダメ元だと思って話掛かるのが正しい選択だと結論付けた。
無機化学を森田君と受け、彼と昼ご飯を食べた後、珍しく線形代数の授業が別だと知って、早目に彼とは別れた。そして、ドキドキした気分で早目に教室を訪れると、先週と同じ席に座った。
先週と同じ様に無機化学の復習をしていると、開始時間が近づく度に、学生達がゾロゾロと教室に入り込んでくる。私は、彼等彼女等をいちいち目で確認し、大園さんを探した。
それは、油断した瞬間だった。彼女は、ふらっと教室に入るなり、私と目が合ってしまった。彼女は、一瞬で視線を下にそらし、俯きながら、私の隣の席に座った。
これは、チャンスだと思い、私は彼女に話し掛けた。
「大園さん。サークル決めた?僕は、日本民謡研究会ってところに入るんだけど」
「あ、あそこね。心音ちゃんが入ってとこだ!」
大園さんの顔が、パァッと明るくなっているのが見える。
「みおんちゃんって誰?」
「えっと、ダンスサークルの友達、彼女は法学部だけど」
「ふーん。で、大園さんは?」
キーンコーンカーンコーン
タイミング悪く、私達の会話をチャイムが邪魔した。そして、いつの間にか入ってきていた教授が授業を早速始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます