第6話 同性こそ正義
次の日、というか水曜日は一限から英語が2コマ、立て続けに入っている。私は、初週からまさかの寝坊をしていまい、朝食抜きで学校へ向かう羽目になった。
行きの電車で、ふとLINEを開くと、母から再び一人暮らし計画を薦められていた。電車と徒歩の時間を足すと、家から学校までおよそ1時間45分かかる。そのため、入学が決まった頃は、グイグイと一人暮らしを薦められていた。しかし、週5でバイトを入れることが条件になっていたので、当時はしないことにしていた。
教室が鳴滝駅近くなのが功を成して、私は無事、授業に間に合った。校舎に入る直前に森田君と遭遇し、予習をしたかどうか話しながら、2人で向かった。
彼の横の椅子に座り、一緒に授業を受けた後の休み時間に、私は彼と色々と会話をした。彼も浪人経験者で、しかも第一志望が同じだったということで、話は盛り上がった。彼は、Y大の試験会場で私を見たとも言った。申し訳ないが、私は彼のことなど覚えているほどの精神状態じゃ無かったので、とりあえずビックリした反応を見せておいた。
英語の授業が終わり、私達は食堂に向かった。その道中に大園さんと遭遇し、目が合った。しかし、森田君が私に、佐藤さんが大園さんに必死に話し掛けていたので、お互いに会釈だけ交わした。
突然だが、森田君の特徴を少し語ると、身長は170cm弱で肌が少し色黒の笑うと綺麗な歯が光る19歳の青年だ。学部は、私と同じ応用化学科で、気さくさな雰囲気が良い味を出している。
私と彼は同じT大丼を窓際の席で食べながら、趣味の話をした。私の趣味は、ゲーム、アニメ、読書といかにもって感じだが、彼は切符集めや神社巡りと中々渋いものを持っていた。私は、彼の趣味の話を聞くのがとても楽しかった。私自身、疎外的な性格をしているのだが、知らないことに対する好奇心はあるのだなと思った。
40分と短い昼休みを終えると、電磁気学の講義がすぐ迫っている。無駄話をし過ぎた私達はギリギリの時間に気付き、急いで指定された教室に向かった。
友達と笑いながら、歩くのは久々ながら、中々良いものだと思った。相手が一人くらいだと、偽物も悪さは出来ない。2人で教室に入り、適当な席に座った。
チャイムが鳴り、私は黒板の方に向き直した。すると、前の方に大園さんの姿が見えた。その瞬間、少しドキッとしてしまった。さらに、授業中も何度か彼女の後ろ姿に目線を向けてしまった。私はすぐ恋に堕ちるチョロい男なのではないかと自問自答した。そして、勉強する為に講義に出ているのに、恋愛の事ばかり考えている自分に嫌気がさした。
授業が終わり、荷物を整理すると、森田君が「帰ろ」と声を掛けてきた。私はそれに対して、頷いて答えた。騒がしくなった私の真横の通路をチラッと見ると、大園さんが偶々通りかかっていて、目が合ってしまった。彼女は、帰る学生達の列の中に居たので、会釈すらせず、教室を出て行った。私も会釈出来ず、すぐ森田君の後をついて行った。
教室を出た後、彼女の姿を探したが見たらない。キョロキョロしてる私に森田君が笑顔で話しかけてくる。私は諦めて、彼との会話に勤しんだ。
同性の友達は大切である。いざという時に助けてくれるのは同性である、と昔偉い人から教わった。なので、森田君を無下にしてまで、恋愛などするつもりは私にはさらさら無い。
しかし、そういう信念もあってか、校舎の出口でお喋りしていた大園さんに話し掛けることが出来なかった。また彼女とは目を合わせて、会釈するだけで終わってしまった。そのまま、森田君とは鳴滝駅まで歩き、別れた。
次の日は、量子力学と有機化学の授業があった。この日の授業は、昼からと楽な日程になりそうだったので、前日は徹夜でRPGゲームをプレイした。そのせいで、昼前に起きてしまい、結局慌ただしい日になってしまった。親には、授業は昼からと伝えておいたので、起こされなかった。このことを、学校で森田君に言うと、笑って独特な言い回しで返してくれた。
何事もなく、4時頃に2個目の講義が終了し、鳴滝駅まで森田君と戻ってきた。今日は大園さんと会えなかったな、と思った。森田君と別れた後、なんだか寂しい気持ちになったが、ピコンと頭の中にとあるアイデアが浮かんだ。LINEが有るじゃないか。私は、大園さんとLINEでフレンドになっている。これを使わない手はない。私は、ウキウキしながら、自宅まで戻った。
しかし、LINEをするといっても何を送れば良いのだろうか。いきなりタメ口を送りつけるのも気持ち悪いだろうから、定型文の様なものを送ろうか。定型文としても、何が良いだろう。
(久し振り)(こんばんは)(お元気ですか?)
どれも変である。
(サークルはもう入りましたか?)
私は、これだけ送り、母が呼ぶリビングに向かった。
週の最終日は、物理学と化学分析学、そして心理学がある。
10時10分に鳴滝駅に着いた私は、チラホラと大学へ歩いている学生達を、順番に見つめた。私は、大園さんを探していた。昨晩、送ったLINEに既読が付かなかったから、嫌われたのじゃないかと思った訳である。
ジッと立ち止まっているのも変なので、私は学生達の流れに乗っかった。暫く歩くと、大園さんらしき横顔が目に映った。珍しく、長い髪の毛を巻いて頭の上に乗せる髪型をしていて、黄色の目立ったカーディガンを着ている。
彼女は、誰かと話している様子が見えなかったので、私は急足で彼女に近付き、肩を叩いた。
「久しぶり、大園さん」
私に気付いた彼女は、びっくりした顔を見せた。
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