第2話
かくゆう私も、美女には興味がある。素知らぬふりで周囲を見渡してみた。ガヤガヤしている中でも、一人スマートフォンを弄っている大学生が何人も見えた。安心感を感じたが、それも時間と共に危機感として変わっていくだろう。そのうちぼっちは消えるものだ。ぼっちは本当にびっくりするほど居なくなる。ネットを覗けば、ぼっちは沢山居るものだが、実際はそんもの存在しない。入学当初はぼっちでも、そのうち友達ができ青春を謳歌する。そして、出来ない者は学校に来なくなるか、存在感を完璧に消してしまう。
本物を守るためにぼっちを選択した私の高校生活は、周りからも存在しない異質なものだったと思う。ぼっちを極めるには、シャイであってはならない。授業で当てられれば、平均的な声量で答える。何か訊かれれば、記憶に残らないそれっぽい事を言う。周りが盛り上がっていても、冷静沈着を装う。テストの成績はとんがらず、体育も手を抜く。体育祭、文化祭、修学旅行は程よくさぼる。誰の記憶にも残らない、いい人とも悪い人とも思われない。遊びの誘いは乗らない。そして、決して詰まらなさそうな顔を作ってはいけない。
努力の甲斐があってか、私の高校生活は、上手くいった。しかし、融合体が我儘を言い出した。青春がしたいと喚き出したのだ。何故かと訊くと泣きながら、体に隙間が出来たと言った。高校を出ると、欲しくなかった人肌を求めるようになっていた訳だ。では、友達を沢山作って、彼女も作ろうかと提案した。すると、融合体は沢山は要らないと言った。2、3人作ればいいとも言った。
なので、私は入学当初から大人しい友達を作ろうと決めていた。それも、人脈が広く無さそうな子だ。時折、ぼっちになるそんな子が私のターゲットだ。そういった子達は、入学当初では見つからない。大学が暫くして、慣れてきた頃に見つけることが出来る。
1回目の授業が終わると、教室はザワザワとしだし、ゾロゾロと生徒達が部屋の外に出て行きはじめた。私は、ファイルから時間割表を取り出すと、次の授業を確認した。2時半から、線形代数の授業がある。シャーペンと消しゴム、それとノートをカバンの中にしまい込み、誰とも目を合わせないようにそっと席を立った。教室の扉をじっと見つめ、そこへ歩く。ドサッ、誰かが私の肩にぶつかった。「すみません」と女性の声が聞こえてきたので、少し下を向いて会釈した。そして、何事もなかったかのように扉へ歩いた。
校舎の外に出ると、心地の良い風が私の脇と首元を心地よくさせた。歩きながら、ふと上方を向いて、空を眺めてみた。綺麗な晴天だった。探さないと見つからない雲を無意識に探していると、また誰かに衝突した。
「お空、綺麗だね」明るい女声がきこえてきた。声の方を向くと、サークルのビラを持った綺麗な女性が立っていた。ピンクのカットソーに白を基調とした花柄のスカート、顔は頬と唇を目立つように赤くしていて、鼻と同じくらいある大きな目をずっと広げてこちらを見ている。
「日本舞踊に、興味は有りますか?」
彼女は、私にニコッと笑顔を作り、手に持ったビラを一枚差し出してきた。差し出されたビラに目を落とす。確かにゆらゆらとしたポーズの写真が一面に載せられていて、左上から右下にかけて、[T大日本舞踊研究会]と大きく書かれていた。
「あ、はい」
私は、首後ろを左手で押さえ、それを右手で受け取った。
「今日の7時から、新歓有りますけど、来てみませんか?」
また、彼女の声が聞こえた。なので、自然ともう一度彼女の顔を見てしまった。再度、その美しさを堪能してしまうと、「は、はい。行きます」と答えるしかなかった。
食堂に辿り着くまでに、沢山のビラを受け取った。サッカー、バスケ、登山などなど、多少興味はあるのだが行くつもりはなかった。それらをまとめて鞄の中に突っ込むと、食堂の扉を開いた。
食堂は、これでもかっていうほど騒々しかった。すいーっと全体を見渡すと、成程、さっきいた教室の5倍はあるくらい広い。私は、右奥の券売却の行列に並び、マスクを付けたおばちゃんに買った食券を差し出した。キツネうどんが手元にくると、カウンターの端にある割り箸を手に取って、空いている席を探した。
丁度、手前の列に一つ空席が見えた。近付くと、そこだけご飯粒やお味噌汁の液体が散乱していた。成程成程、私は心の中で頷くと、お盆を勢いよく置き、席に座ってズズズっと麺を口に流し込んだ。
器に汁以外が無くなると、鞄から今朝買った緑茶を取り出して、口に含み、ふぅとため息をついた。目の前の席を見ると、一人の女の子がコチラをじっと見つめていた。私がなんとなく見つめ返すと、その女の子は、隣に座っている友達らしい女の子に話しかけた。
目のくりくりした丸顔の彼女に期待した私は、少しガッカリした気分で席を立った。お盆を返却口に置くと、うるさい食堂をさっさと出て、キャンパス内の林を歩いてみた。
私は、案外自然が好きで、緑溢れるキャンパスには憧れがあった。無数にあるベンチに適当に座り、人の動きや木の騒めきを何も考えずに眺めた。
暫くそうしていると、「あの、学部は何ですか?」と声をかけられた。声の方向を見ると、食堂で目があった女の子とその隣に座っていた女の子と立っていた。私は、会釈しながら、「え、理工学部です」と答えると「私も一緒です」と元気に返ってきた。次に、「学科は何ですか?」と訊いてきたので、「応用化学です」と答えた。女の子はがっかりした様子で「あー、私、情報工学科です〜」と言った。
少し意地悪してみたくなった私は、「隣の子は、どこ学部ですか?」と訊いてみた。すると、「あー、この子も私と同じです」と返ってきた。そして、続けて、「あの良かったら、学部同じですし、LINE交換してくれませんか?」と言ってきた。
私は、違和感を一瞬感じながら、「いいですよ〜」と言って、スマホを取り出した。次いでに、もう一人の女の子ともフレンドになった。
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