第12話 新入部員とチームメイト
「えー、ここに宣言します。今月をもちまして、ゲーム部の廃部が決定しました」
「えっ………えぇ〜〜〜〜〜〜⁉︎」
「本当に⁉︎ どうしてですか⁉︎」
「ほら、去年卒業した先輩たち含めて何人かいなくなったでしょ? そのせいで部活として認められる四人という規定人数を下回っちゃったみたい。ま、ありきたりな理由ね」
「確かにありきたりですね」
俺がゲーム部に入部したのはここ最近だが、薄々と感じてはいた。
異常なまでにゲームの設備が整っている部室と違い、部員は三名。ましてや部に必要不可欠であろう顧問を俺は一度も見たことがない。おそらくいないのだろう。
それくらい納得出来る要素が揃いに揃っているのだから当然と言えば当然だ。
「なんであんたそんなに落ち着いてるの⁉︎ この部が無くなるかもしれないんだよ⁉︎」
「いや、まぁ、別に無くなっても俺にはなんの支障もないからな。お前や博本先輩との縁が切れるわけじゃあるまいし」
「そうかもしれないけどさ! 廃部になったら寂しいじゃん! 学校で唯一独占出来る部屋が無くなるじゃん!」
絶対二つ目の方が本音だろ……。
前者の理由も後者の理由も、言いたいことは分かる。
まだ新参者だが、ここ以上に居心地が良い場所を俺は知らない。
ゲームの機材がたくさんあるからというのはもちろん、橙乃や博本先輩と過ごすこの空間が好きという想いを否定する事は出来ない。
三年前の出来事を引きずっていた束縛もあったからか、余計そんな名残惜しさを感じているのは事実だった。
しかしゲーム部をこれからどうするかを決めるのは俺や橙乃ではない。
「師匠はそれでいいんですか⁉︎」
「ん〜、仕方ないなとは思う。一つ上の代が設立した時から元々不安定な部活だったらしいからね。生徒会長の権利を使って強引に作ったとか何とか。それに私こう見えて受験生。今後部室に顔出せるか分からないし、個人的には良いタイミングかなって」
「そ、そんな……私たちはまだ二年生なんですよ? 後輩を思い遣る心はないんですか……」
博本先輩の意見を聞き、橙乃は衝撃のあまり全身から崩れ落ちた。
「相澤とこれからって時にこんな事って……私にとってゲーム部は大切な場所なのに……」
橙乃は拳を強く握り締め、絶望に暮れる。
「廃部にならなくて済む手はないんですか?」
「あるっちゃあるよ」
「本当ですか⁉︎」
期待の瞳をキラキラと輝かせ、博本先輩に懇願する橙乃。
「簡単な話でしょ。部員を増やせば良い」
「……そんなの無理に決まってる!」
錯覚的に光り輝いていた彼女の瞳が、今度は物理的に色合いを変える。悲劇を察したのか、薄らと雫が浮かび上がっていた。
「即答だな」
「だってそうでしょ⁉︎ チームを作れないぼっちな私と性格がめちゃくちゃひねくれ曲がってる男しかいないこの部に、誰が入りたいって言うのよ!」
「おいおい聞き捨てならないな。何故いきなり俺を貶した」
「だってほんとのことじゃん! こんな可愛い女の子を見捨てたり、罵倒したり、いつも思うんだけど扱いが酷いのよこの最低クズ野郎!」
「この話と関係ないし、流石に言い過ぎじゃねぇーか⁉︎ ……というか、扱いが酷いのはお前のせい。何がバレットウィッチだ! こじれた厨二病を俺に押し付けてくるな!」
「いいえ、違う。──皆が厨二病だと錯覚しているだけ。バレットウィッチは私が生まれた瞬間から植え付けられた勲章。我魂に埋め込まれソウルそのものなのよ。フッハハハハ!」
「そういうのを俺は言ってるんだが……」
厨二病のレッテルを患っているからこそ橙乃美咲というのも一概に言えるかもしれないが、ここまでくると手を叩いて褒め称えたい気分だった。
バチバチに橙乃と睨み合っていると、博本先輩が両手を叩く。
「はいはい。とりあえず二人で新しいメンバーを探してきてください。それにさ、あんたたちこれからチーム戦で大会出場するつもりなんでしょ? だったらもう一人くらいチームメイトは必要なんじゃないかな?」
「チームメイト……」
「そう、一チームの最大人数は四人。絶対四人いないといけないっていうルールはないけど、流石に二人は少ないよ。だからチームの方針にも関わる事だし、二人でしっかり考えなさい」
博本先輩の言葉は真っ当だった。
そうか。すっかり忘れていた。
橙乃の目標は最強のチームを結成して、幼馴染と対決すること。
でも現実問題、俺たちはまだ二人。
多いければ多いほど有利なわけではないが、少なくとも三人。つまりあと一人、チームメイトがいた方が良いのだろう。
メリットだらけ。
戦略面もそうだが、あくまで俺はチームのサポートをする裏方。チームの顔となるメンバーが橙乃だけじゃ物足りない。
俺の正体を隠すことにおいてもそれなりの効力を発揮してくれるはずなのだ。
***
「……どうすんのよ」
一足早くゲーム部を後にし、俺と橙乃は平凡な街中に浸りながら下校していた。
「俺に聞くな。ちなみに俺の知り合いに頼めそうな奴はいないぜ」
「奇遇ね。残念ながら私にもそんなコミュニティはない。そもそも、新入部員やチームメイトを勧誘出来るもんなら、とっくのとうにしてるのよ」
「まぁ、そうだろうな」
部活を潰させなくない。
残り一人くらいはチームメイトが必要。
だけどその伝手が見つからない。
橙乃は感情を右往左往へ揺れまくり、常に眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「あ"ぁー! 分からない! この才能に満ち溢れた頭脳を持ってたとしても解決口が見つからないんだけど!」
さっぱりした緑髪をボサボサになるくらいまで橙乃は頭を掻き乱す。
とは言っても、相当レベル高いよな。
まず前提として部活継続のために俺たちと同じ学校であることが第一条件。
で、もし本気で大会を目指すなら、RF、もしくはゲームをそれなりにやり込んでいる上級者。それもARの性質上、運動神経が良いゲーマーだ。
そんな都合の良い生徒がいるんだろうか。
相方が何故か友達を作ろうとしない橙乃となら尚更、上手くいくビジョンが見えない。
──と。
俺は、そう思っていた。
「うちに勝てないようじゃ、話にならない」
床に座り込む俺の目の前で、滑らかな黄金色に輝く長髪を手で払い除ける不良少女と出会うまでは……。
彼女を寝取られ、チームを追放されてから三年後、俺は残念系少女のために最強へ復帰する くるみ @archprime
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