第9話 蒼い迅雷の煌めき misaki side
こんな虚しいって思ったの久しぶりかも。
相澤の友達を含めた三人組に乱射されている中、私には抵抗する気合がすでに残っていなかった。
完全に諦めていた。片手で握り締めるGMを下ろし、立ち向かう勇気さえ欠陥している。
MAPの雨という設定がよりその感情を沸騰させる。
耐え難い状況に押し潰されそうになった。
バババババババババッ!
バババババババババッ!
バババババババババッ!
バババババババババッ!
ババババンババババッ!
バババババババババッ!
未だ自分に向けられる集中砲火は続けられている。全弾命中し、弾切れになるとリロードされて、もう一度引き金を引かれた。
まさに遊び感覚なのだろうか。
一人のプレイヤーに対して得られるポイントは一ポイントのみ。
誰がラストキルを決めるかという、もはや別ゲームと化していた。
私の視界が涙に覆われ、ぼやける。
幼馴染との約束を叶える事は無謀だと言われて、私は否定なんて出来なかった。
──ゲームに夢中になるとか子供じゃん。
──大会で優勝とか橙乃ちゃんには流石に無理でしょ。
──女の子なんだからもっと可愛い興味持ちなよ。
──ごめんなさい。あなたの想いに私たちは付いていけない。
そんな軽蔑されているような言葉の数々を色んな人に散々言われてきたから。
もちろん、そこに悪意が無いことは十分承知している。理解も出来る。
単に私が変わってるだけ。
それでも当時の私はその発言に何も言い返せず、気付けば周りに誰も居なくなっていた。
部活とかならまだしも、私はゲーム。
女子がゲームを熱烈な想いで取り組んでいたらそりぁ忌み嫌われてしまうはずだ。
その経験があるからこそ、ぐぅの音も出なかったのだ。
というか、本当に相澤が元ゲーマーなんだったらどうして今まで黙ってたんだろう。彼がなんでこのゲームを嫌がってたのか今まで分からなかったけど、なんとなく察しが付くかも。
この人の言う通り、
──心の中で笑ってたのかな。
私は苦手と豪語していた相澤が、本当はRFのプレイヤーで、チームを組んでいた事実に驚きを隠せない。
その負の連鎖で「お前に出来るわけがない」とあたかも相澤に否定される場面を想像してしまった。
しかし身体全体からそんな光景に対する拒否反応が込み上げてくる。
あぁ、私は最低だ。
この人の発言を真に受けるなんて。
彼がそんな事言うはずないでしょ。
私は悔しさで下唇を噛み締める。
幼馴染との約束を果たせない自分に対してではなく、相澤を一瞬でも疑ってしまった自分にとにかく腹が立った。
「まったく類は友を呼ぶと言うが、エゴイストな俺と、己の実力も把握し切れていないあんたはお似合いな組み合わせだな!」
もうこの人の言葉に耳なんて貸さない。
「エゴイスト? 何それ? めちゃくちゃ良い設定じゃない」
あやふやな想いを断ち切るかのように涙を振り払うと、私は一歩前へ踏み出した。
「それにね、言わせてもらうけど──たとえそうだったとしても私は……私はあいつが優しい人だという事を知っている! だからそれを証明するためにも、あんたらに負けるわけにはいかないんだ!」
だって彼は、初めてこんな私を認めてくれた人なんだから!
相澤の友達が手を挙げると、一時的に攻撃の嵐が止まった。
「だったら最後にこれをお見舞いしてやる」
けれどその代わり、彼の銃が緑の光を放ち始めた。銃口でチャージするように強大なエネルギーを内包する。
『ユニークアグレッション──グングニル』
そしてゲーム内ボイスとともにこのゲーム唯一のスキルであるれる必殺技を使用した。
溜め込んだ力をまるで槍を放つように風を吹き荒らしながら、最大威力の弾丸が撃ち放たれる。
あ、やばい。流石にこれは対処出来ない。
撃破を悟った。
しかし今までの敗北とは訳が違う。
立ち直った途端にこの攻撃を受けてしまったら、また簡単に折れる。
そんな予感がするほど絶望に暮れてしまったのだ。
──ピシャ。
と、その時、水溜りを駆け抜ける一つの足音が耳に入った。
すると次の瞬間、背後から銃が発砲された。
私の頭上を通り抜ける一発の弾丸。必殺技目掛けて飛んでいく。
バギューン!
巨大な砲撃と小さな弾丸は上空で接触し、なんと渾身の必殺技が消滅した。緑色の光が周囲に弾け飛び、一帯の雨が暴発する。
「な、なに⁉︎ 無効化されただと⁉︎ 俺のスキルを妨害しやがった奴は誰だ⁉︎」
相澤の友達は目を丸にして驚いていた。
スキルは試合中に一度しか使用出来ない最大級の必殺技だ。その中には種類によって無効化も出来る物も存在すると言われている。
しかしその方法はどれも並大抵な技術ではないし得ない巧みな技が必要不可欠。
私はスキルが無効化される光景を初めて現場で目の当たりにした。
「全く、お前は俺がいないとほんとダメだな。銃を多彩に扱う──バレットウィッチじゃなかっなのか?」
私の背後からそんな声が耳に入る。それは優しく、聞くだけで安心できる声音だった。
同時に突如、銃弾が命中する位置を特定するシステム──バレットホールが私を襲っていた三人組の周辺にドーム型を形成しながら無数に出現した。
「このスキル⁉︎ ──ついに来やがったか!」
目を疑う景色にも関わらず、困惑している他の二人と比べて、相澤の友達から笑みが溢れた。
私はそのスキルに見覚えがあった。
思わず地面に座り込んでしまう。
『ユニークアグレッション──
リコシェアーリ』
そして囲われた檻の中にいくつもの蒼い弾丸がその内部で反射し合い、みるみる彼らのHPを奪っていく。最終的に大きな爆発とともに、三人とも一気に撃破された。
反動で一瞬周囲の雨が打ち消されるが、すぐにザーッと音を立てながら降り注いだ。
「これって……」
後ろを振り返ると、Oceanと表示されている蒼色の服装を纏ったプレイヤーが立っていた。
「オーシャン」
その名前を私は知っている。
知らないわけがない。
それは私がゲームを始めるきっかけになった約三年前のRF大会で優勝したプレイヤーネーム。こんなプレイをしたい、と憧れを抱いた人物の名前だった。
「連れを虐めれば出てくると思ったが、遅いんだよ」
無敵状況が発動される中、相澤の友達はそのプレイヤーを威圧する。
「俺を悪く言うのは一向に構わない。だけど、こいつの事だけは許さないぞ」
そう言いながら現れたプレイヤーは顔を覆っていたフードを外した。
「……相澤、なんで」
その服装というぬいぐるみから姿を現したのは、私がよく知る人物──相澤蒼葉だった。
「いいぜ蒼葉、二ラウンド目と行こうじゃねぇーか」
けれど銃口を向けると同時に、全プレイヤーの画面にリザルトが表示される。
夜空の下で彩られたヨーロッパ風の街並みのAR化も解除され、茶色の空模様が広がっていく。霞ヶ丘陸上競技場という、リアルに引き戻されたのだった。
game end
相澤蒼葉
①プレイヤーネーム Ocean
②コスチューム ブルースカイ:345
③ウエポン HK417アーリーバリアント
※アサルトライフル
④ サブウエポン P226
※片手銃
⑤リコシェアーリ
周囲をバレットホールで覆い、反射する無数の弾丸が襲う
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます