第11話

 (※アネット視点)


 グリフの筆跡をまねて遺書を書いておいたから、これで彼は、自殺だと思われるはず。


 私たちが捜査対象になることはない。

 そもそも私たちが遺産を巡って争っているなんて、普通は考えない。

 それに、彼の死が自殺でないという証拠でもない限り、わざわざ貴族の者たちを徹底的に調べようなんて思わない。


 完璧だわ。

 あとは、お義父さまとお義母様を事故に見せかけて葬り、そのあとスージーを亡き者にすれば、私とダリルで遺産を山分けすることができる。

 ダリルと協力すれば、二人を事故に見せかけることも、難しくない。


「ねえ、ダリル、お義父さまとお義母様を消方法は、何か考えてあるのよね? 任せてくれって言っていたけれど、どんな方法で、二人を葬るつもりなの?」


 私は彼に尋ねた。

 事故に見せかけると言っていたが、具体的な方法まではまだ聞いていなかった。


「ああ、それはな……、あるトリックを使えば、事故に見せかけることができるんだ」


「へえ、どんなトリック?」


「あるマジックのネタを利用したものなんだけど、そのマジックが実際にどんなものか、見せてあげよう」


「へえ、マジックかぁ、面白そうね」


 私は少し、わくわくしていた。

 いったい、どんなマジックなのだろう。


「少し準備が必要だから、三十秒くらい目を閉じて」


「わかったわ」


 私は彼の言う通り、目を閉じた。


「目を閉じたふりをして、トリックを見破るのはナシだよ」


「わかっているわよ」


 私の声は弾んでいた。

 本当に目は閉じていた。

 実際にマジックを見てからトリックを見破る方が、面白いと思ったからだ。

 彼がどんなマジックを見せてくれるのか、期待がどんどん膨らむ。


 しかし突然、呼吸ができないほどの苦しみに襲われた。


「あぁ……」


 息ができない。

 私は閉じていた目を開いた。

 目の前には、獣のように歯を剥きだしにして笑っているダリルがいた。


 どういうことなの?

 どうして……。

 ダリルは、ロープを使って私の首を絞めていた。

 私は必死にロープを緩めようとしてが、できなかった。

 どんどん、体の力が抜けていく。


「あの二人を葬る方法なんて、最初から考えていなかったんだよ。二人を事故に見せかけて葬るより、油断しきっている君一人を、自殺に見せかけて殺す方が簡単だからな。グリフを殺したことを悔やんだ末の自殺、筋書きはこれで完璧だ。確かに君と二人で遺産を分け合った方が分け前は多い。だが、三人で分けても、一生暮らせる額には充分だ。それなら、リスクが低い方を選ぶのは、当然だろう?」

 

 彼は、笑っている。

 視界がぼやけて、もう、はっきりとは見えない。

 まさか、こんなことになるなんて……。


 確かにダリルの言う通り、私は油断しきっていた。

 彼が私を裏切るなんて、想定していなかった。


 グリフも最期は、こんな気持ちだったのかしら……。

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