第10話
「あれっていうのはね……」
私はそこで、憲兵の人たちがこちらを見ていることに気付いた。
さっきまでの怒りの視線ではなく、こちらの話に興味があるという視線である。
「ねえ、シェリーちゃん、みんながね、私のお話を聞きたいみたいなの。さっきは調査のまねごとなんて聞く気はないって言っていたのに、どうしてなんだろうね? そういう時は、ごめんなさいをすればいいって、思うんだけれど、シェリーちゃんはどう思う? あ、やっぱりシェリーちゃんも、ごめんなさいした方が、いいと思う? ねえ、そうよね。せっかくみんなが気付いていないことを教えようとして断られたのに、今更聞きたいなんて言われても、まずはごめんなさいをしないと……」
そこで、憲兵の咳払いが聞こえてきたので、私はそちらを向いた。
「あの……、さっきは邪険に扱ってしまい、申し訳ありませんでした。その……、よろしければ、お気づきになった点をお話ししていただければ、我々としても助かるのですが……」
「はい、いいですよ」
私は笑顔で答えた。
憲兵も笑みを浮かべた。
「捜査状況は、皆さんの話し声が聞こえてきたので、大体は把握しています。ですが、一応確認させてください。グリフさんが亡くなったのは、昨日の夜なんですよね?」
「ええ、そうです」
「ということは、飛び降りた崖がある森へ向かったのも、夜ということになりますよね?」
「ええ、そうですね。夜になる前に、屋敷で家族に目撃されていますから、間違いありません」
「なるほど……、私の認識に間違えはなかったようですね。やはり彼が亡くなったのは、夜ですか」
「夜だと、何かあるんですか?」
憲兵は私の顔をまじまじと見ながら質問した。
「うーん、何かあるというか、何もなかったのが、不自然だと思いました」
「えっと……、どういうことです?」
「彼は、どうやって森へ行ったのでしょうか……」
「どうやってと言われましても……、普通に、歩いて行ったのではありませんか?」
「ええ、普通に歩いて行ったのでしょうね。でも、飛び降りた崖からも、落ちた場所からも、何も持ち物が見つかっていません。夜だったのですから、何か明かりを照らすものがないのは、不自然でしょう?」
「ああ! 確かにそうです! えっと、なぜ彼は、ランタンなどの明かりを照らすものを持っていなかったのでしょうか……」
彼はそう言いながら、その理由を考えている様子だった。
「簡単ですよ。彼は、森に行くときに、一人ではなかったのです。同行者がいたのですよ。その同行者が明かりを照らすものを持っていたから、彼は何も持っていなかったのです」
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