最終話:呪いになるとしても
九月二十八日。その日は彼の二十四歳の誕生日だった。仕事帰りにケーキを買って帰る途中だった。ボールを追いかけて、横断歩道に子供が飛び出していくのが見えた。信号は赤で、トラックが迫って来ていた。
「危ない!」
考えるより先に、身体が動いてしまった。子供は押し出され、トラックに接触せずに済んだ。だけど——
「あ……」
トラックに接触する瞬間、死を悟った。頭に浮かんだのは彼の悲しむ顔で、せめて、指輪だけは守らなければと思い、咄嗟に左手を庇った。
次に目が覚めた時には、目の前に居たのは泣き噦る両親だった。彼は居なかった。
以前、ニュースで見たことがあった。家族ではないからと、危篤状態にある同性の恋人の面会を断られたと。こんなことになるなら、プライドなんて捨てて彼と家族になっておけば良かったと、朦朧とする意識の中でそんなことを思った。
意識を手放したら、もう二度と戻ってこれないだろう。それならせめて最期に、彼にこれだけは伝えたくて、両親に頼んだ。彼が俺を追いかけようとしてきたら止めてくれと。
きっと彼は、すぐに俺の後を追おうとするだろう。だけど俺は、彼には生きてほしかった。生きて、幸せになってほしかった。
例えその願いがエゴだとしても、彼を苦しめる呪いになるとしても。願わずにはいられなかった。
いつかあの世で再会するその日まで、どうか彼が幸せな人生を送れますようにと。
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