第14話:あなたに出会えた喜び
それから数日後、彼から銀色の指輪と赤い薔薇の花束をもらった。薔薇の本数は五本。本数によって意味が変わることは以前彼に教えた。五本はどういう意味だったか忘れてしまったと見え透いた嘘を吐くと、彼は知ってるくせにと言わんばかりに苦笑いしながらも教えてくれた。
「『あなたに出会えた事の喜び』です。君に出会えたから僕は強くなれた。否定されても、自分を認める事が出来た。僕を愛してくれてありがとう。陽希くん」
そう言って、彼はいつものように柔らかく笑う。いつも以上に輝いて見えた。
「……プロポーズやん」
「プロポーズですよ」
「俺のプロポーズよりプロポーズしとるやん。なんか……悔しいわ。俺の方が先に惚れたし、先にプロポーズしたのに」
拗ねると、彼はくすくすと笑う。たまらなくなり、彼の腹に頭突きをしてそのまま押し倒す。彼は一瞬目を丸くしたが、優しく笑って頭を撫でた。
「……好き」
「……はい。僕もですよ」
「……うん。知っとる」
頭を撫でていた彼の手が頬に移動する。触れかけた彼の指を絡めとり、床に縫い付ける。
「……なぁ、今日はさ、俺があんたのこと抱いてもええ?」
付き合って五年経っていたが、彼に抱きたいと言ったのは初めてだった。思ったのは初めてではない。だけど、言うタイミングが掴めなかったし、なんだかんだで彼にしてもらうのは嫌いではなかった。別に、断られても構わなかった。彼が嫌ならしたくないから。
「嫌?」
「……ううん。嫌じゃないです。君が望むなら、応えたいです」
そう言って彼はいつものように柔らかく笑う。正直、断られると思っていた。
「ほな、ベッド行こか」
「ふふ。連れて行ってください」
甘えるように両手を広げる彼を抱き上げ、ベッドにそっと降ろす。こうやって見下ろすと、やっぱり彼は可愛い。普段の夜は狼なくせに、兎にもなれる。ずるい。
「……陽希くん。好きです」
「ん。俺も好きやで」
「はい。知ってます」
その日俺は、彼を初めて抱いた。彼がいつもしてくれるように、優しく、丁寧に。彼は泣いてしまう彼に、俺は言った「ずっと一緒に居ってな。死ぬまで、ずっと」と。彼は笑って「はい」と答えた。
それから数日後、俺は彼を両親に紹介するために車で約六時間かけて実家に帰った。
両親は彼を快く受け入れてくれた。このとき俺は、死が二人を分つ日はまだまだ先の遠い未来だと信じて疑わなかった。きっと、彼もそうだったと思う。
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