第11話:五輪の薔薇

 それから数日後、僕は彼に赤い薔薇の花束と、左手薬指にはめる指輪を渡した。


「一、二……五? なんやっけ……」


 薔薇の本数を数えて、彼はわざとらしく首を傾げる。彼はこう見えて花が好きで、花言葉には詳しい。僕の花に対する知識はほとんど彼から教わった。赤い薔薇の花言葉も、色や本数で意味が代わることも。


「『あなたに出会えた事の喜び』です。君に出会えたから僕は強くなれた。否定されても、自分を認める事が出来た。僕を愛してくれてありがとう。陽希くん」


「……プロポーズやん」


「プロポーズですよ」


「俺のプロポーズよりプロポーズしとるやん。なんか……悔しいわ。俺の方が先に惚れたし、先にプロポーズしたのに」


 そう言って彼は拗ねるように唇を尖らせた。その姿がなんだか可愛くて笑ってしまうと、頭突きされた。


「痛っ! なんですかもー……わっ」


 そのまま体重をかけられ、床に押し倒されてしまう。


「……好き」


「……はい。僕もですよ」


「……うん。知っとる」


 情欲に濡れた瞳が僕を捕らえる。何をしてほしいか察して彼の頬に手を伸ばすが、捕まり、床に縫い付けられてしまった。


「……なぁ、今日はさ、俺があんたのこと抱いてもええ?」


 付き合って五年経っていたが、彼からそう言われるのは初めてだった。もしかしたら、僕に対する遠慮もあったのかもしれない。


「嫌?」


「……ううん。嫌じゃないです。君が望むなら、応えたいです」


「ほな、ベッド行こか」


「ふふ。連れて行ってください」


 甘えると、彼は「しゃーないな」と笑って僕を抱き上げ、ベッドにそっと降ろした。


「……陽希くん。好きです」


「ん。俺も好きやで」


「はい。知ってます」


 その日僕は、初めて彼に抱かれた。割れ物を扱うように丁寧に触れられて、愛されていることが伝わってきて、何度も泣いた。


「陽希くん。大好きですよ」


「うん。俺も。ずっと一緒に居ってな。死ぬまで、ずっと」


「はい。ずっと一緒です」


「うん。……愛してる」


「はい。僕も愛してます」


 彼を好きになって良かった。男性に恋をする人間で良かったと、心のそこから思えた日だった。

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