第10話:一輪の薔薇
大学を卒業した日、彼から「大事な話がある」と真剣な顔で言われた。ちょっと待っててと言われ待っていると、彼は一輪の真っ赤な薔薇を持ってきた。
「わぁ……卒業祝いですか? ありがとうございます」
「あー……うん、それもあるんやけど……」
「?」
「薔薇の花言葉って知っとる?」
「この薔薇は赤なので……『情熱』ですかね」
「……なんで数ある中でそれチョイスするねん。他にもあるやろ。恋人に送るに相応しいやつが」
「あはは……すみません。分かってはいるんですけど、口にするのはちょっと恥ずかしくて。大丈夫です。伝わってます。ありがとう。ハルくん」
「……まぁ、伝わったんならええわ。ちなみに、本数にも意味があるんやけど、分かる?」
「あぁ……えっと……一本は『一目惚れ』……でしたっけ」
「いや、それもあるけど。わざとやっとるん?」
「えっと……他に意味ありましたっけ」
「それはほんまにわからへんの?」
「はい」
「……そうか。まあええわ。とりあえず、もう一個渡すもんあるから……先にそっち渡す。ちょっと、左手出して」
「左手?」
「うん。で、目閉じて」
言われた通り左手を出して目を閉じると、ふーと彼が息を吐く。緊張が伝わってくる。その緊張の理由は、左手薬指に触れた冷たい金属の感触で察した。
「……うん。ぴったりやね。目開けてええよ」
左手の薬指に銀色の指輪が光る。
「……一輪の薔薇のもう一つの意味は『あなたしかいない』……ここまで言えば鈍感なあんたでもわかるよな?」
「……分かりません」
「嘘つけ」
「察してくれなんて酷いです。大事なことなんでしょう?」
「……はぁ。わかったよ。ちゃんと言う」
「はい。お願いします」
「俺らは同性同士やから、法的な結婚は出来へん。やけど……せめて、形だけでも、プロポーズさせてほしい」
「はい」
「……愛してる。これからもずっと一緒に居てくれ。幸人はん」
「……はい」
「あと……」
「はい」
「えっとな……お金貯めて、俺が三十になるまでに結婚出来へんかったら、結婚出来る国に移住しようと思うとるんよ。まだ予定なんやけど、もしそうなったら、着いてきてくれる?」
「……はい。君が望むなら、僕はどこまでもついていきます」
「……うん。おおきに。これからもよろしくな」
「はい。……こちらこそ、よろしくお願いします」
感極まり、涙が溢れる。彼も泣きながら僕を抱きしめた。
「ふふ……君の指輪も買いに行かなきゃいけないですね」
「……うん」
「今度買っておきます」
「忘れんなよ」
「忘れませんよ。少し待っててくださいね」
「うん。待っとる。指輪、肌身離さずつけといてな」
「はい」
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