第14話:彼の家族になった日

 葬式が終わると、彼の父は僕を呼び出して語った。


「……陽希はたった一人の息子やった。彼がゲイだと知ったのは、彼から直接打ち明けられる前やった。正直ショックやった。認めたなくて、見ないふりをした。やけど……やがて彼から直接打ち明けられて、その不安そうな顔を見たら察したんや。僕らが望んでいたあの子の幸せはただの押し付けやって。彼の幸せを否定してはあかんなって。僕は危うく、過ちを犯すところやった」


「……」


「初めてあの子が君を紹介しに来た日、彼は心から幸せそうに笑ってたのを今でも覚えとる。その笑顔を見た瞬間にわかったんよ。幸人くんは陽希を幸せにしてくれはる人なんやって。きっと、運命の人なんやろうって。……異性同士だったら、とっくに結婚しとったんやろうね」


 そう言って彼の父は僕の左手薬指にはめられた指輪に目を向けた。思わず手で隠す。


「……なぁ、幸人くん。君さえ良ければなんだが、僕らの家族にならへんか?」


「家族……?」


「陽希が集中治療室に入った時、家族やないからと面会を断られる君を見て辛かったんや。あの子は息子の恋人なんです訴えたけど、駄目やった。……もっと早くに提案しておけば良かったって、後悔したよ」


 そう言いながら彼の父が取り出してきたのは養子縁組の届出用紙。そこには既に彼の両親の名前が記入してあった。後から知ったが、証人の欄に書いてあった名前は彼の母方の祖父母の名前らしい。彼の両親が頭を下げて書いてもらったそうだ。


「君と陽希はこの国では結婚出来ない。せやから……二人が家族になるにはこの方法しかないと思うてね。いつか二人に話そうと思うとったんやが、なかなか言い出せへんかった。恋人同士やのに夫夫ふうふやなくて兄弟になるって、複雑な気持ちやろうから。……せやけど……僕らは君のこと、もう一人の息子のように思うとるんや。息子の夫だと、世間が、国が認めへんくても、僕らは認めたいんや。なぁ、陽子はるこ


「……ええ。うちも同じ気持ちですわ」


 彼の両親が優しく笑う。僕は実家には居場所はない。倉田の姓を捨てることに、迷いは何一つなかった。

 涙を用紙にこぼさないように気をつけながら、一文字一文字丁寧に書いていく。

 この日から僕は、倉田幸人ではなくなった。東堂幸人として、愛した人の姓を名乗り生きていくことを決めた。夫夫という形ではないけれど、法律の元で彼の家族になった。

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