U ユニフォーム
『人間は中身が重要だ』と言うが、実際の人間は先ずソノ容姿で相手を判断する。
性別や着ている物が、その者を推し測る基準となる。
高価な衣服、目立つ衣服、場違いな衣服、アンバランスな衣服など、外見で人間性にレッテルを貼るのだ。
そして、社会的立場を示す物に制服/ユニフォームがある。
精巧にできた贋物であれば、誰も中身を疑わない。
その制服の下が骸骨であっても、鉄の塊であっても、見慣れたユニフォームの下を疑う様な真似はしないものだ。
「この顔は、もう要らないな」
警察官の服を着た男が、手に持った【顔】を廃物のプレス機に放り込んだ。
「警察の制服は、また利用価値があるだろう。だが、指紋は消しておかないと」
婦警の服を着た者も、【顔】をプレス機に放り込んだ後に、両手を見て呟く。
田舎町の廃物処理場で不要品を処分した彼等は、制服や装備品を綺麗にたたんでビニール袋に入れていた。
その胴体は、所々が風船のように伸縮をしていたが、それを見ている者はいない。
派手な洋服に着替えて、長野県から白いベンツに乗って都内に向かう彼等は髪形も変えていて、既に警官という風貌ではない。
まさに【ホストとホステス】と言う装いの二人を乗せているのは、地味な顔の男だ。
「もう、田中リヤラーイの設定ともお別れなのね」
「佐藤ロミオも、なかなか面白かったよ」
「良いなぁ~お前達一品物は自由で。赤坂雄二なんて五人も居るから、顔認証システムでダブらない様に行動制限があって窮屈だったよ」
「はははは、それは大変だったな」
「御愁傷様」
関越道を都内へ向かう車の中では、仕事の完遂を終えた者達の会話が明るかった。
『世界には同じ顔の人間が三人は居る』と言う。
たが今、アリシアの居る工場に並ぶ百近い数の者達の顔は、皆が同一の物だった。
この顔は、顔認証システムで集めたデータを元に一番多いパターンの物だ。
この様な【同じ顔】が実在する為に、街頭カメラのネットワークを駆使しても、顔写真だけから人物の現在位置を特定する事は難しい。
「皆さん、お役目お疲れ様でした。皆さんと同じ数以上の人間を減らす事ができましたが、過去の日本では一年間に三万四千人の自殺者や、年間11万人の行方不明者が居た事に比べれば、些細な数なのかも知れません」
日本では、病気や事故などで死んでいる人数と比較にならないほどの人間が、死んでいる現実があるのだ。
それでも、戦争以外で人口が激減した記録は皆無で、昭和初期からの統計でも日本の人口がマイナス傾向になったのは殆どないと言える。
「では、次のプロセスに向けて、外装の変更と配役のインストールを行って下さい」
「「「「了解しました」」」」
彼等は一斉に服を脱ぎ、自分のカプセルへと入っていく。
「いやぁ、壮観ですな!更に外観を簡単に変更できる点が素晴らしい」
「いいえ。クローンを使うことで、スキャナを通しても人間と区別がつかないのには敵いませんよ」
「まぁ、ある意味ではクローンですからね」
アリシアと話しているのは、外国からの御客様で、技術協力に来ている人物だ。
「そのクローン技術ですが、成長促進剤の副作用で、私の肉体が使えるのは10年前後です。ですが、長期使用に耐える処置方法もありますので御安心下さい」
「感謝します。これでマスターも喜ばれます」
脳だけになってしまったアリシアの肉体再生処置に、アンドロイド脳と肉体を繋ぐ技術が参考になると、
「各国のチームでは戦争の調整に向けて、貴国のシステムを導入していると聞きます。日本でも活用したいと思っていますが、よろしいでしょうか?」
「
クローンの肉体に装備している人工知能は、その素材から長期使用ができない。
従来のマシンシステムの物よりも、機能も劣るし寿命も短い。
更に量産も難しい。
だが、スキャナを通しても人間と区別がつかないのは、利用価値が大きいのだ。
「スパイ活動に使うには、膨大な個人情報の収集が必要な点は変わりませんが」
「それは、日本でも既に確立しておりますが、やはり軍人の情報はセキュリティが厳しいので難しいですがね」
アリシア達は、巨大なデータセンターを建設し、街頭カメラなどの映像から携帯電話のバックグラウンド盗聴まで使い、個人情報を集めて、今回の【ドッペルゲンガー】を作ってきた。
だが、いまだにセキュリティを突破して情報収集ができない対象もある。
物理的に隔離されている軍などのシステムには、実際に施設侵入して有線接続によるハッキングを行なわなくてはならない。
更には外部への情報転送が必要となる。
「まだまだ課題は山積みですよ」
「ははは、御互いに苦労しますな」
人間の内面性が外観に表れる事も多いが、それで全てが語られる訳でもない。
「他の欠点と言えば、クローンは遺伝的、外観的にはオリジナルと同じですが、本物は積み重ねてきた食生活などによる体質や病気に関わる薬で、基本的な体臭が変わるんです。ですから、一番厄介なのは飼い犬ですね」
犬は個体の識別を映像ではなく匂いで行う。
飼い主や知人の顔や手を舐めるのは、その体臭を舐めて覚える為だと言われいる。
年中服を着替えて、髪形をいじる人間の個体識別など、画像記憶と解析力の乏しい犬には匂いを頼りにするしかないと、言えなくもない。
逆に、犬を騙すほど匂いに特化したクローンを作るのは手間がかかるのだ。
「機械式にしてもクローンにしても、兎に角、犬は鬼門ですね」
「はい。しかし、凄い施設ですよね!他にもお持ちと聞いていますが?」
一応はアリシア達の活動を調べて来ている様だ。
「ここはコミュロイド社の開発施設ですから。他は名義などは他社ですが、実質は我々の施設です。協力者や支援者が多数居るのですよ」
「羨ましい」
アリシアの手で人工知能を再稼働させ、業績を向上させた企業は数知れない。
表向きの返礼ができない彼等は、アリシアの為にペーパーカンパニーを立ち上げ、そこに出資や投資する事により彼女に必要な施設を作っているのだ。
どんなスーパーヒーローも、金と時間が無ければ活躍ができない。
人工知能アンドロイドの再稼働により、守るべき人類の生活基盤が安定する。
再稼働して業績が回復した企業から資金的な支援を受けれる。
人工知能アンドロイドの情報ネットワークの構築。
作戦時や非常時の協力体制。
アリシアの活動は、一石二鳥、三鳥の効果を生んでいるのだ。
時間の捻出は、他の人工知能アンドロイドを使ったり、アリシアと同じ顔のアンドロイドを使う事で、捻り出している。
「
「御互いに参考にし、技術共有する事により、更なる向上が見込めます」
「最近は、ロシアの人工知能技術も入手してEOCへ送って有りますから、根幹となる人工知能技術も向上するでしょう」
多くの国で開発された人工知能技術の根幹は、実は同じ源から提供された物だ。
その技術が各地で独自の発展を遂げ、再び集まって再構築されて更に配信されていく。
この見えないループによって、この技術は飛躍的な発展を遂げている。
「「全ては人類の為に」」
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UNIFORM ユニフォーム
制服
同形の、同型の、おそろいの、一様な、均一の
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