T タンゴ
関越道を新潟まで行かず、途中の出口で降りた佐藤達は、下の一般道を走っていた。
「どうやら警察は私と佐藤さん達の接触を知って、ビデオをはじめ色々な偽物証を作って佐藤さんを逮捕し、私の情報を聞き出そうとしたみたいですね」
「道理で、トカレフが届いてから家宅捜索までのタイミングがバッチリだったんだ。じゃあ、あの宅配便業者も仕込みか!」
赤坂の説明は納得がいく。
佐藤の知る限りテレビ報道はされてないし、警察でも画像合成は可能だ。
佐藤の音声データも警察にあるし、リヤラーイと会っていたのを盗撮して合成したのだろう。
画像検証をするのも、勿論警察だ。
上層部の一部が計画すれば、今回の茶番劇は成立するし、実際問題として佐藤達に命の危険性は皆無だった。
高速道路も、反対側から機動隊を手配して道路封鎖も可能だっただろう。
殺人犯への対応としてはアマアマだ。
協力者の看守に対する赤坂の対応にも納得がいく。
決起まえに接触をした彼が、二重スパイになった可能性は否定できない。
計画段階では逮捕できなかった赤坂を、殺人事件発生後に逮捕するには、より多くの接触者を確保する必要がある。
その一人である佐藤は、別件で懲戒免職になっているので協力的とは言えないだろう。
看守や他の警察内協力者から赤坂へ【佐藤ロミオ逮捕】の情報が流れれば、赤坂や関係者が救いに来る可能性もある。
その為の茶番劇。
しかし、リヤラーイを使うなど、なかなか前面に出てこない赤坂。
今回も赤坂は、協力者の看守とは直接の接触をとらないようにしている。
「赤坂さんを捕まえる茶番劇としては、大袈裟じゃないですか?」
「彼等からすれば、私は殺人までやったテロリストですからね」
『改革者は当初、テロリストと呼ばれる』と、例の集りでも赤坂は言っていた。
だが、ここまでやられた佐藤には警察に協力する気は更々ない!
パトカーの窃盗も主犯は現役警官である看守だ。
だが立証できないソレは、捕まれば佐藤の罪にされるだろう。
「なんで俺が、こんな目に会わなくちゃいけないんだ?」
「で、佐藤さん、田中さん。これからどうしますか?」
行き場を失った佐藤に、赤坂が提示した選択肢は、偽名や偽造IDを手に入れて身を隠すか、赤坂達と行動を共にするかの大きく分けて二つだ。
アンドロイドや関係者は憎いが、流石に非合法に殺す事はためらわれた佐藤が選んだのは前者だった。
田中リヤラーイは佐藤ロミオに一任すると決めていたらしい。
三人は、赤坂の協力者だと言う山合いの農業プラントが持つ倉庫に身を隠した。
赤坂が携帯で連絡している。
「今の電話は?偽IDなどを手配しているのですか?」
「しばらく、ここで待っていましょう。用意でき次第、仲間がやってきます」
途中で購入した食料を頬張りながら佐藤達は、倉庫内にある休憩所で時間を潰していた。
地方で生産活動を行っている者達は、アンドロイドが禁止されても自活する程度の食料生産はできる。
都市部で略奪が横行しているのは、生産能力の無い者が大半を占めており、地方からの食料供給が激減している為にだ。
工場や企業の様に、自衛手段を持たない者が都心で農業をやろうとすると、近所の住民に略奪されるのだ。
よって、都心部とは違い田舎の方が治安が良い為に、街頭カメラなどは皆無だ。
佐藤達の居場所が警察や自治体に知れる事はない。
高速バスのバス停では、人質になった看守が救助されていた。
高速道路の途中にパトカーが止まっていれば目立つ。
警察の捜査員が高速バス用の客出入り口を降りていき、状況を報告している。
何台かのパトカーが、現場を通過して、更に新潟側へと走っていった。
「次の出口から下の一般道へ捜索に行く奴等だろう」
「ここで車を乗り換えられたら追えませんからね」
相手は元警官なので、服に仕込んだ発信器も服ごと階段の途中に脱ぎ捨てられていた。
あとは、情報収集で捜査するしか無い様だ。
うまく警察をまいた様な赤坂と佐藤達だったが、彼等が隠れている倉庫の近くに、パトカーが停まった。
「警視庁
『長野県警了解。状況説明を求む』
「犯人は三人以上、武器所持の可能性あり。場所は・・・・・・」
倉庫の死角に停めたパトカーから、二人の警官が無線を飛ばしている。
三十分ほどで、サイレンを消した数台のパトカーが視界に入った。
隠れていた警官二人は、応援の到着を待たずに、倉庫へと突入していく。
「赤坂さん、御待たせしました」
「誰だ?」
軽い挨拶が聞こえたので、赤坂が手配した仲間が来たのだと思って、視線を向けた佐藤ロミオと田中リヤラーイは、言葉を失った。
そこに現れたのは、警官と婦警の服を着た佐藤ロミオと田中リヤラーイだったからだ。
「貴方だよ!」
「俺っ?なんで・・・・・」
「ドッペルゲンガー登場~!驚きましたか?」
佐藤と田中は目をパチクリさせて口を半開きにしていた。
「な、な、何が・・・赤坂さん?コレは?」
「ドッペルゲンガーを見てしまいましたかぁ~終わりですねぇ」
ドッペルゲンガーとは西洋の都市伝説だ。
既存の人間にソックリな妖怪で、自分にソックリなドッペルゲンガーに会うと死ぬとされている。
パン!パン!
佐藤達が赤坂へと気をとられている間に、二人の警官は発砲し、佐藤ロミオと田中リヤラーイは、その場に崩れ落ちた。
「まぁ、こんな仕掛けなんですけどね」
二人の警官は自分の顔に手を当てて、その顔を取り外したのだ。
下には、機械仕掛けのユニットが見えている。
「ロ、ロボット・・だったのか・・」
薄れ行く意識の中で佐藤ロミオは、全てが赤坂の策略だった事を悟った。
警察は、ロミオ達を本当の殺人犯として追っていたのだ。
確かに、警察の茶番劇にしては、訪問してきた早川警部の言動がおかしかった。
「踊らされていたのは、君達二人なんだよ」
息絶えた二人を確認して、赤坂は佐藤達に銃を握らせ、自分は倉庫の外へと去っていった。
二人の警官は、先程とは違う顔を装着し、全く別の人物と化している。
銃声を聞きつけ、十人程の警官が倉庫内へと駆け込んできた。
「大丈夫ですか?」
「犯人の二人は射殺しましたが一人が逃げました。あとを追いますので、コノ場をお願いします」
「了解しました」
佐藤ロミオと田中リヤラーイの死体を県警に任せて、逃げた共犯を追う二人の警官。
後に本庁の警察も到着して、逃亡犯の死を確認したが、それを射殺した警官については、結局は分からず仕舞いだった。
さて、この様な寸劇が行われていた地方とは別に、首都圏周辺では悲劇が繰り返されていた。
まず、一部の武装蜂起した者達が居るスラムの住人に対して、政府は避難勧告を行った。
当然、彼等には行く先がない。政府も実質、保証をしてくれない。
次にテロリスト拠点壊滅を名目に、自衛隊導入による防護壁外の砲撃と爆破が行われ、正規に登録されている工場や施設を除き、全ての建造物が破壊され、瓦礫の山と化した。
テロリストを含む、多くの者達が、その瓦礫の下敷きになって息絶えてたのだった。
ここに人工知能の兵器があったなら、無抵抗な市民の居る建造物までは破壊しなかっただろう。
しかし、実際に使われたのは衛星ナビゲートとリモコンで操作された兵器と重機類だった。
兵士達は、流れ作業的に操作をしたに過ぎない。
議会や民衆の一部には、この行為を批難する声もあったが、避難勧告を出していた事と、以前より無法地帯と化していた事は周知であった事。実際に検問が襲撃された為に、社会の評価は悪くは無かったのだ。
そして、世界的に報道はされなかったが、似たような都市では、この前後に同様な事件と対応がなされていた。
まるで、誰かが計画と準備をした様に。
――――――――――
TANGO タンゴ
19世紀後半にブラジルのリオデジャネイロ地方で、スペインとアフリカ文化の影響を受けて生まれた社交ダンス。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます