第98話 討伐部隊の結果


 今日も朝早く起きてエレノアさんと討伐部隊の昼食を作る。今日はいよいよ決戦の日だからな。ワイバーンではないがちゃんとカツサンドを作っておいた。みんな誰も欠けることなく戻ってきてほしい。


 ニアさん達をみんなで見送る。山の頂上までは少し距離があるから実際に戦いに入るのは昼を過ぎてからになるらしい。


 俺はというと今日はベッグさんと村の近くにある畑に来ていた。ここ最近はワイバーンに襲われることを恐れて、あまり畑には来れなかったようだ。ベッグさんと俺だけならたとえワイバーンが襲ってきても戦いながら十分逃げきれる。10体とかいきなり襲ってきたら結構厳しいと思うけどな。


「そういえばベッグさんはこの村に生まれてこの村で育ったの?」


「ああそうだぜ。というよりもこの村に住んでるやつは全員この村で生まれてこの村で育ってる」


「へえ〜そうなんだ」


「小さい頃はみんなこんな小さな村なんて絶対に出てってやるって言うんだけどな、結局みんな生まれたこの村に戻ってきちまう。


 俺も小さい頃は冒険者になって自由に暮らすんだなんて息巻いていたが、でかい街で暮らしてしばらくしたら結局戻っちまったよ。なんだろうな、街での暮らしよりも不便な村での暮らしの方が性に合ってる気がするんだよ」


 そういうものなのか。都会に暮らして育ってきた俺からしたら、生活に関してはやっぱり元の日本の方が断然暮らしやすいけどな。


「祖父さんの世代には村から出てってそのまま村へ帰らないやつもいたらしいけどな。なんだかんだ言って生まれ育ったこの村が好きなんだよな」


「………………」


 生まれ育った村か。俺もこの世界に来てしばらく経つが、たまに元の世界に戻りたいなんてふと思ってしまう。屋敷での生活に不満があるわけではないし、十分過ぎるほど良い暮らしをさせてもらっているにも関わらずにだ。やはり生まれ育った場所というのは特別なんだろう。


「とは言え最近この村には若い女がいねえからなあ。あの領主様なんてものすげえ美人じゃねえか!なあ、ユウキ。やっぱりあんな綺麗な人にはもう婚約者みたいな人がいたりすんのか?」


 デスヨネー。見た目だけは美人でしかも領主だから憧れる気持ちも分からなくはない。そういえばローラン様やエレナお嬢様には婚約者とかいたりするのかな?もしいるとしたら何となくだが、あまりいい気はしない。


「さあ、分からないな。実は俺が仕えている主人は別にいるんだよ。この前、ローラン様にたくさん助けてもらったから、その恩を返すために料理係で一緒についてきているだけなんだ。だからローラン様のことについてはまだあんまり知らないんだよ」


「そうなのか!そういや昨日の飯を作ったのはユウキって聞いたぞ!あんなうめえもん食ったのは初めてだった。ワイバーン自体もうめえんだが、あんないろんな食べ方があるなんて初めて知ったよ。なるほどな、わざわざ料理係なんて連れてきたのも納得だ」


「楽しんでくれたなら何よりだよ。なかなか高くて手に入りにくかもしれないけど、調味料があるといろいろ違った味を楽しめるからな。香りの強い葉を一緒に焼くだけでもだいぶ味が変わって面白いぞ」


 バジルやミントやローズマリー、香りの強いハーブのような野草ならこの村の近くでもとれる可能性は十分に高い。


「なるほどな、山に狩りに行く時にちょっと探してみるか。ただまあ一度あんなにうまいもんを食べちまったらしばらくは何食ってもうまく感じなそうだな。


 ……よし。こんなもんでいいだろ。雑草を取るのを手伝ってくれて助かったよ。そろそろ村に戻ろうぜ」


「ああ、了解だ」


 ベッグと話しながらのんびりと畑作業をしている間に結構な時間が経っていたようだ。のんびりと畑を耕しながらスローライフを送る生活というのも存外悪くないのかもしれないな。


 それにしてもやはり生まれ育った場所があるというのはいいものなんだな。ベッグさんやこの村の人達が少し羨ましく感じる。




 村に戻ってもまだ討伐部隊は帰ってきていなかった。何か緊急事態が起きたら色のついた狼煙をあげると言っていたが、それもないということは今のところは順調なんだろう。


「おお〜い!今帰ったぞ〜!」


 家の台所で今日の晩ご飯の仕込みを始めてすぐ、外から声がした。この声は猟師のバドーさんの声だ。他の人はみんな無事なのだろうか?


 作業を切りやめ、エレノアさんと一緒に家の外に出る。外に出るとローラン様とルーさんがいたのを見かけて一緒に村の入り口へと急いだ。


「「「うお〜!!」」」


 村の入り口の方から歓声が上がっている。みんな喜んでいそうなところを見ると討伐は上手くいったのだろうか?


「ローラン様!討伐部隊、無事に全員帰還しました!今回はさすがに無傷とはいきませんでしたが、回復魔法で十分治療できる範囲でした。ワイバーンの群れはほぼ殲滅完了致しました」


「「「うお〜!!」」」


 またも歓声があがる。確かにみんなワイバーンの血や泥にまみれているが、全員5体満足で帰ってきていた。リーブさんが足を引きずって、ラウルさんの肩を借りてはいるが、笑顔でいるところを見るとそれほど大きな怪我ではないのだろう。


「よくやってくれましたね!みんな疲れたでしょう、ゆっくりと休んでください」


「はっ!残念ながら1〜2体ほど取り逃がしてしまいましたが、残りは全て討ち取りました。さすがに一度にすべて持って帰ることはできませんでしたので、もう一度回収に行く必要がございます。今度は荷馬車も持って行けばあと一度で行けるでしょう」


 肩を貸しているラウルさん以外の背中には一人1体以上のワイバーンを背負っている。みんなかなり力持ちだな。


「ええ、さすがに今日はもうすぐ日が暮れ始めます。明日の朝一で回収に行けばそれほど森の獣にも荒らされないでしょう。本当によく無事に戻ってきてくれましたね!」


「はっ!ありがたき幸せ!」


 みんな無事に戻ってきてくれて本当によかった。リーブさんもエレノアさんの回復魔法で治療を受けている。どうやら同行した魔法使いは魔力を使い果たしたらしい。空を飛ぶワイバーンを撃ち落とすためには魔法が不可欠だからな。


 よし、無事にみんなが戻ってきたことだし今日はワイバーンの肉祭りだ!新しくワイバーンのハンバーグにワイバーンのローストビーフ、ワイバーンの角煮、ワイバーンの照り焼き、みんな手間のかかる料理だが張り切って料理してやるぜ!




 ふとその時、なんだか妙に嫌な感覚がした。屋敷でリールさんの不意打ちを防ぐ訓練を行っているときのような嫌な感覚だ。何か危険が迫っているそんな感覚だ。


「……何か来る」


「なんだ、何かが近付いてきている!?」


 ルーさんとニアさんも何かに気付いたらしい。なんだ?何が起こっている?


「サーチ!」


 探知の魔法を使ってみる。


「っ!!向こうの方角から何かでかいやつが近付いてきます!物凄いスピードです!」


 探知魔法に反応があった。ワイバーンの何倍もの大きさの生き物が一直線にこちらに向かってきている。念のために身体能力強化魔法と硬化魔法をかける。


「……まさか、あれは!?」


 視力の良いルーさんの目にはもう何か見えているらしい。森の木とかも関係なしだ。これは空を飛んでいる?でもワイバーンはニアさん達がほとんど倒したはずだしワイバーンの大きさでもない。


「あっ……」


「う、嘘だろ……」


「まさか……そんな……」


 ようやく俺や他の人まで見える場所にそいつがやってきた。そいつはそのままのスピードで村を通り過ぎるのかと思いきや、村の遥か上空でピタリと動きを止め、俺達を見下ろしていた。


「GYAOOOOOOO!!」


「まさか、本物のドラゴンじゃと……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る