第96話 ワイバーンステーキ


「お待たせしました。みなさんが倒してくれたワイバーンの肉をふんだんに使ってみました」


「「「おお〜!!」」」


 ニアさん達が水浴びをしてワイバーンの血を流したり、剣や鎧を整備している間にエレノアさんと村の女性の手を借りて、肉を焼いたり揚げたりして最後の仕上げをおこなった。出来上がった料理の山を目の前にして、みんな興味津々のようだ。


「我々を歓迎してくださった皆様と一緒にみんなで食べたいというローラン様の願いです。ワイバーンは街でも高級食材として扱われており、私も料理するのは初めてでしたが、なかなかの味に仕上がったと思います。それではローラン様、お願いします」


 ここでローラン様にバトンタッチだ。


「フローレン=スミス=ローランと申します。妾がこの村の領主となって訪れたのが今回で2回目なので、まだ覚えてない方もいるでしょう。改めてよろしくお願いしますわ」


「そんなことありません、そのご尊顔は忘れることなどできません」


「私覚えてるよ!前に来たすっごく綺麗なお姉ちゃんだ!」


 どうやら村の人達は全員ローラン様を覚えているようだ。まあ見た目だけならものすごく綺麗な女性なので忘れろという方が難しいだろう。


「ありがとうございます。まずはワイバーンに襲われて亡くなってしまったマーシャルさんのご冥福をお祈りします。そして必ず彼の仇を取るとここに誓います」


 そう言いながら両手を組み、目を瞑り黙祷を捧げるローラン様。俺達がこの村に来たときにはギリギリで村の人達を守ることができたが、すでにマーシャルさんという猟師の人はやつらに襲われて殺されてしまっている。


「彼のご冥福を祈るとともに、今私達が生きているこということを感謝しましょう。それではみなさんいただきましょう。ワイバーンの肉はたくさんあります、滅多に食べることができないので、この機会にお腹いっぱい食べてくださいね」


 ワイバーンの肉は5匹分と今ニアさん達が狩ってきた1匹がある。俺達を含めて50人近くいるが、それでも足りないことはないだろう。


「うお、うめえ!!」


「こんなに美味しいものは初めて食べただ!」


「ママ〜、これすっごく美味しい!」


 さて、俺もいただくとしよう。調理の方は村の人達が気を遣って代わってくれた。今はラウルさんやエレノアさん達と一緒にローラン様の近くの席に座っている。


「これがワイバーンステーキ!」


 ジュージューと美味しそうな音を立てて焼けたワイバーンの肉。ナイフで切り分けると中からたくさんの脂が滴り落ちてくる。味付けはシンプルに塩と胡椒だけだ。胡椒は高価だが、せっかくの機会だしふんだんに使用した。一切れをゆっくりと口に運ぶ。


「うん、うまい!」


 歯を入れると思ったよりもだいぶ柔らかい。溢れ出る脂の旨みやレア状態の肉の赤身の肉の旨さが口の中に溢れかえる。そして塩と胡椒のシンプルな味がその肉の旨さを一際輝かせる。俺が今までに食べた肉の中でも一番の味かもしれない。


 ちなみに砂糖や胡椒や醤油などの調味料はエレナお嬢様に必要経費として、その金額を支払ってもらっている。ローラン様には結構な借りができていることだし、この機会に恩を返せるだけ返しておこうという訳だ。


「これはうまい!」


「……うまい」


「美味しい!」


 ニアさんやルーさん、エレノアさんの口にもあったようだ。


「ユウキ殿、これは素晴らしいですね。実は前に一度だけワイバーンの肉を食べたことがあるのですが、その時よりも遥かに美味しいですよ」


 どうやらニアさんはワイバーンの肉を過去に食べたことがあるようだ。今回は焼き方も結構こだわって、どれくらいの焼き加減がいいのかを試したり、塩胡椒の割合とかも結構こだわってみたからな。やっぱりいい食材があると調理の仕方にもこだわりたくなる。


「それはよかったです。今回はいろいろと焼き方も試してみたりしましたからね。でももしかしたらしばらく肉を熟成させたほうがおいしいかもしれません」


 確か肉は魚と違ってしばらく熟成させたほうがアミノ酸が増えて更に旨くなるとが聞いたことがある。まあワイバーンの肉にも適用するのかは試してみないとわからないがな。


「これよりうまくなるのですか!それに焼いただけのものも美味しいのですが、この揚げたやつやスープも見事な味です」


 揚げたやつというのは豚カツならぬワイバーンカツだな。そしてスープはワイバーンのテールスープだ。尻尾の肉は少し硬めだったので、野菜と一緒に長時間煮込んでみるとだいぶ柔らかくなり、ほろほろと口の中でとろける食感となった。


「この味噌とワイバーンの肉を炒めたやつも最高だ!だが唯一惜しむのは明日もあって酒が飲めないところだな……」


 どうやらラウルさんも酒が好きらしい。確かにカツや味噌炒めはお酒にも合いそうだ。さすがに明日戦うとわかっていて酒を飲むわけにもいかないのだろう。


「……うむ、うまい」


 うむ、無口なルーさんからも一言いただけたから合格だろう。


「ローラン様も満足しているようで何よりだ」


 ニアさんの視線の先には満足そうにワイバーン料理を食べているローラン様がいた。うん、あれだけ美味しそうに食べてくれると作ったこっちの方も嬉しくなってくるな。


「いやあ、これは素晴らしいですな。長い間生きてきましたが、こんな美味いものは初めて食べました」


 この村の村長さんであるウォルケルさんがこちらの方にやってきた。先程まではローラン様と談笑していたようだが、話が終わってこちらに来てくれたようだ。


「本当に素晴らしいですよね。私もこれほどの料理を食べたことは初めてです?これらの料理はこちらのユウキ殿が作ってくれました」


「いえ、食材のワイバーンの肉が美味しすぎるだけですよ。今まで食べたどんな肉よりも美味しかったです」


「ええ、確かに肉自体も美味いのですが、料理自体も初めて見る料理法ばかりでした。みなもこれほどのご馳走を食べることができ、感謝しております」


「いえ、俺はただ料理をしただけですよ。これほどの高級食材を惜しげもなく振る舞っていただいたローラン様に俺も感謝しています」


 とりあえず今はローラン様の従者ということになっているからな。主人であるローラン様を持ち上げておこう。


「ええ、あの方が領主に代わられてから本当にこの村も生活しやすくなりましたよ。本当に感謝しております」


 おっと、この村の人達も道中寄った村の人達のようにローラン様に感謝しているようだ。俺の勝手なイメージだと領主とか代官とかは基本的に嫌われているものだと思っていだが、どうやらその認識は改めないといけないようだ。あるいはよっぽど前任者が酷かった可能性もある。


「みなさんも明日からワイバーンの巣を探しにいくということですが、十分にお気をつけください」


「ええ、ユウキ殿が作ってくれたワイバーン料理で力がみなぎってきましたよ。明日も多くのワイバーンを狩ってまたこのご馳走に期待するとしましょう」


「こんなものでよければいくらでも作りますよ。それよりも気をつけてくださいね」


 ニアさん達が強いのは十分わかっている。それでもこの世界では一瞬の油断や不運で簡単に命を落としてしまうからな。


「はい、油断はしませんよ。任せておいてください!」


 ドンと胸を叩くニアさん。うん、ワイバーンの討伐はみんなに任せておいて、俺は引き続き自分にできることをしていこう。

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