第94話 美味しい晩ご飯を作って待っています
「これはフローレン様!この度は誠にありがとうございます。皆さんのおかげで誰も死なずにすみました」
村に入ると60〜70代の男がこちらの方にやってきた。この村の村長だろうか?
「ウォルケル殿、遅くなりまして申し訳ございません。本当にギリギリですが間に合ってよかったです」
「とんでもない!領主様自らこんな辺境の村までわざわざ来ていただきまして本当に感謝しております。早く頭をお上げください!」
「そう言っていただけるとありがたいです。詳しいお話をお聞かせ願えますか?」
「ええ、もちろんですとも!どうぞこちらへ。幸い私の家はやつらに壊されずに無事でした」
確かによく見るとあちこちの家の屋根が少し壊されている。おそらくはワイバーン達に壊されてしまったのだろう。そして奥の方ではエレノアさんが怪我をした村人を回復魔法で治療していた。怪我人は数人だけのようなので本当によかった。もしも回復魔法の使い手が不足していたら俺も手伝おう。
「それでワイバーンはどのような状況でしょうか?」
村長さんであるウォルケルさんの家にお邪魔する。この村は前回寄ってきた村よりも大きいので、村長さんの家も結構大きく、見張りを数名と治療をしているエレノアさん以外の全員が家の中に入れた。
「はい、初めてワイバーンを見つけたのはちょうど2ヶ月ほど前になります。儂がこの村で生まれ育った70年近くの間、この辺りでワイバーンなど見たこともなかったのですが、狩りに行っていた若者がドラゴンを見たと言いました。
初めは何をバカなことを言っているのか、大きな鳥を見間違えたんだろう、と相手にしておりませんでした」
「……なるほど。確かにワイバーンが生息するのは大きな山や谷がある場所が大半です。この近くにはそれほど大きな山も谷もないし、見間違いと思っても仕方がありませんね」
「はい、しかしそのあと他の者からもワイバーンの目撃証言が相次ぎました。ですが、目撃証言は一匹だけだったので、女子供は村の外に出ないようにし、うちの村の狩人に任せておけば大丈夫だろうと思っておりました。
ですが一月ほど前に狩人達が襲われて1人が亡くなりました。なんとか逃げて帰ってきた者達に話を聞くとなんと5匹ものワイバーンに襲われたとのことでした。これは我々では手に負えないと判断し、早馬を走らせて領主様に知らせたというわけです。
そして1週間ほど前からはこの村を見つけたのか、1日数回ほど7〜8体の群れでこの村を襲うようになってきました。日に日に襲う間隔も短くなっていき、初めは家に入るとすぐに諦めて帰っていったのですが、今では家を壊して中に入ってこようとしてくる始末です。
家が壊され、中に大量のワイバーンが押し入って殺されるのではないかと怯えておりました。先程皆さんがワイバーン共を追い払ってくれました時には打ち震えましたよ!」
思ったよりもかなり切羽詰まっていた状況だったらしい。元の世界でいうと毎日熊とか狼とかが家を壊そうとしてくるってことだろ、そりゃ怖すぎる。
「なるほど、ギリギリのところで間に合ったようで本当によかったですわ。それではすぐにでもワイバーンの討伐に向かいたいと思います。この辺りの地理に詳しい方はいらっしゃいますか?」
「はい、猟師をやっておりますこのバドーが案内します。ワイバーンの巣は確認できなかったのですが、いつもワイバーンがやってくる方角の方へ案内します」
「バドーだ。この村で狩りをしてる。領主様、どうか俺達を助けてくれ!」
村長さんの隣にいた若者が大きな声を上げる。大きな弓を背負っているところを見るとあの弓で獣や魔物を狩っているのだろう。
「こらバドー!だからお前は口の利き方には気をつけろと言っておるだろうが!」
「すっ、すまん。今まで一度も偉い人と話したことがないから、悪いが勘弁してくれ」
「だからその口の利き方を気をつけろと言っているのだ!」
「いえ、構いませんよ。バドーさん、こちらこそ案内をよろしくお願いしますね」
「おっ、おう!まっ、任せておいてくれ!」
バドーさんがものすごく動揺している。まあこれだけ外見が綺麗な女性は滅多にいないからそうなるのも当然といえば当然か。
「それでは予定通り二手に分かれるぞ。ニアよ、もうすぐ日も暮れる。今日のところは周囲の状況を確認しておくくらいに留めて、明日から本格的な調査を始めるがよい」
「はっ!」
現在、村にある一軒の家を借りて作戦会議中だ。エレノアさんも村の人達の治療を終えて合流している。ついさっき襲撃があったばかりでまたすぐに来ることはないとは思うが、またワイバーン達がきたら村の人達が教えてくれるはずだ。
「エレノアとルーは周囲を警戒、ワイバーンがこちらにきた時は村の者達と協力して村を守るのじゃ!」
「「はっ!」」
今回エレノアさんとルーさんは村に残ってローラン様の護衛だ。もちろん俺も村に残る予定だったのだが……
「ローラン様、やっぱり俺も討伐部隊の方に同行することはできないか?」
「……あのな、ユウキ。妾はアルガン殿にお前を借りている立場なのじゃぞ。お前を危険に晒させるわけにはいかん」
いや、もちろん俺だってわかってはいるよ。でも道中で馬車が魔物に襲われた時も、この村がワイバーンに襲われていた時も、どうしてもただ見ているだけではいたくなかった。俺の目の前で誰かが傷付くかもしれないと思うだけで動き出したくなる。
たぶん工場で襲撃があったときにモラムさんを目の前で助けられなかったことが、俺が思っているよりも心に残っていたらしい。
「自分の身なら自分で守れるし、逃げるだけなら身体能力強化魔法で強化した足でワイバーンからでも余裕で逃げられる。なんなら俺が自分の意思で討伐に向かったと証文を書いてもいい」
「……それでも駄目じゃな。余裕で逃げられると言っていたが、周りの者が襲われた時に全員を見捨てて逃げるられると本当に誓えるか?」
「………………」
それは誓うことができない。目の前で命が危険に晒されている人がいたら、また俺は自分の身を顧みずに突っ込んでしまうかもしれない。今までは運良くなんとかなっていたが、今後もそうなるという保証なんてない。むしろ今までも俺自身が怪我どころか死んでしまう可能性の方が高かったかもしれない。
「ユウキ殿、私達を信じて欲しい。敵はワイバーンとはいえ油断はしないし、もし危険な状況に陥ればすぐに撤退する。それにルーやエレノアだけでなく、あの変異種を倒したユウキ殿がここで村とローラン様を守ってくれているなら、我々も安心してワイバーンの討伐に向かうことができます」
リーダーのニアさんがそんなことを言う。顔だけじゃなくて言うことまで本当にイケメンだ。そんなことを言われたら俺にはそれ以上言うことはできない。
ルーさんとラウルさん以外の人はまだ1週間の付き合いしかないが、それでも戦闘での連携やあれだけのワイバーンを全員無傷で倒しているところを見れば十分に信じられる。
「……そうですね、ニアさん達を信じます。すみません、我儘を言いました。さっきまで俺が言ってたことは忘れてください」
「ええ、大丈夫ですよ。すぐにワイバーンの巣を潰して帰ってきますから美味しいご飯をお願いしますね。私は一昨日の晩御飯のポトフという料理が一番気に入りました、ぜひあれをもう一度食べたいですな」
「私は昨日の味噌というやつで炒めた肉と野菜が好きだな。ワイバーンの肉であれを作って欲しい」
「わっ、私はうどんをもう一度食べたいです!」
ニアさんだけじゃなくラウルさんやエレノアさんまでそんなことを言う。どうやら気を使わせてしまったようだ。いかんな、これじゃみんなの足を引っ張っているようなものだ。
「わかりました、美味しい晩ご飯を作って待っています。みなさん気をつけてくださいね!」
本当にみんないい人達だ。それにみんなルーさんやラウルさんと同じくらい強いらしいし、俺は俺のできることをしよう。
「うむ、それではみなのもの頼んだぞ。くれぐれも慎重にな」
「「「はっ!」」」
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