第93話 ワイバーンによる襲撃
「しかし、料理は微妙じゃったな。肉や野菜や果物の素材自体は美味しかったんじゃが、すべて焼いて味付けは塩のみじゃからすぐに飽きてしまったのう」
「そうはいっても調味料は珍しいし、値段も高いから普段使いするには難しいだろ。むしろ村では貴重な塩もふんだんに使ってくれたんだから感謝すべきじゃないのか?」
やはり元の世界でも昔は砂糖や胡椒が高額で取引されていたというのは当然といえば当然なのだろう。今は様々な調味料で溢れているが、昔は塩以外の調味料など嗜好品以外の何物でもなかったに違いない。
村で食材を補給して、昨日の朝早くに村を出発した。村の人達も朝早いのにわざわざ見送りに来てくれたのはありがたかったな。
そして昨日と今日は何事もなく無事に目的の場所まで到着した。いよいよ明日の昼頃にはワイバーンが大量発生している村に到着する予定だ。
「いやまあそうなんじゃが、妾の屋敷での料理やこの遠征中の料理に比べるとちと物足りんな。昨日の晩ごはんも美味しかったし、今日のこの料理も見事じゃ。特にこの甘辛いソースがいいのう。おかわりじゃ!」
ちなみに昨日の晩ご飯は村でもらった野菜と肉をコンソメスープで煮込んだお手軽ポトフだ。コンソメスープってまじで便利だよな。適当に肉と野菜を切って煮込むだけでもこんなにうまくなるんだから。とはいえ村でもらった肉や野菜が美味しかったからこそ出せる味である。
ちなみにこの固形のコンソメが今回の旅の準備で一番時間がかかった。固形コンソメの作り方自体は非常にシンプルで、ベーコンや燻製肉と様々な野菜に塩と水を加えひたすらに細かく切り刻む。ミキサーがあれば楽なんだけどそんな物はないからちょっと手間がかかる。そして刻んでドロドロになったものをひたすら煮詰めて最後に乾燥させて完成だ。
屋敷でも味を見たが、素人が作ったにしては十分な味のものができた。どれくらい持つのかはわからないが、だいぶ煮詰めて乾燥させたし数ヶ月は持つだろう。
そして今日の晩ご飯は村でもらった肉と野菜の甘味噌炒めだ。アルガン家の屋敷でも味噌汁の評価は微妙だったが、甘味噌炒めは好評だったから作ってみたが、ローラン様にも好評のようで何よりだ。
「はいよ、口に合って何よりだ。これは俺がいた国で使われている味噌って調味料をメインに使ったソースだ。砂糖と醤油も加えてある。砂糖は高いとはいえ手に入るが、味噌と醤油は結構珍しいからな。気に入ったのならアルガン家の屋敷から届けるように伝えておくよ」
「そうか、ならよろしく頼むぞ!正直に言って村で食べた物より野営でユウキの作った料理の方が美味しかったからのう。ユウキを連れてきて正解じゃったな、感謝しておるぞ」
「なっ、なんだよ急に!まあそう言ってもらえて俺も光栄だけどさ」
このお嬢様が素直に俺に感謝するなんて珍しいこともあるもんだ。歓迎してくれた村の人達には少し悪いが、俺としては俺の料理を褒めてもらって素直に嬉しい。
「私もユウキ殿に感謝していますよ。最初ローラン様がわざわざ道中の食事のためにひとり連れて行くとおっしゃった時には、恐れながらなぜそんなことをする必要があるのか理解できませんでした。
ですが、道中の食事は今まで私が味わったことのない料理で、馬車の中ではみなで楽しく遊べる遊具、今ではユウキ殿が来てくれて本当によかったと思っておりますよ。もちろんみなもそう思っているはずです」
そりぁまあ食事のためだけに護衛対象をもう一人増やすなど、守る人にとっては余計なことでしかないからそう思うのも当然だ。それでもリーダーであるニアさんにそう言ってもらえるのはとても嬉しい。
「そう言ってもらえるとこちらも嬉しいですね。今回アルガン家はフローレン家の皆さんに本当にお世話になりましたから、少しでもお役に立てたなら何よりです」
今回アルガン家が受けた恩はこれくらいではまだまだ返せないから少しずつ返していくとしよう。
「うむ、ユウキのおかげで食事に関してはいつもより充実しておるからのう。さていよいよ明日は本格的な戦闘が始まるから各自しっかりと準備しておくように!」
「「「はい!」」」
明日はいよいよワイバーンとの戦闘が始まる。俺が直接戦うことはないとは思うが、後方支援くらいはする可能性もあるだろうから気合を入れておこう。
そして次の日、いつも通り日が昇ってからすぐに移動を開始する。順調にいけば昼を過ぎた頃には目的の村に到着する予定だ。
「今更なんだけど村に着いたあとはどうするんだ?」
「そういえばユウキには伝えてなかったのう。村に着いたら妾達は村で留守番じゃな。それと護衛を2人残して残りの6人と村にいる男衆で村の周りを調査し、ワイバーンを狩っていくのじゃ。おそらく大量発生しているならば、巣もあるじゃろうからそこも潰してようやく終わりと言ったところじゃな」
「なるほど、巣を探すとなると意外と面倒なんだな。1週間くらいはかかりそうな感じかな?」
「できれば3日くらいで終わらせたいところじゃな。まあワイバーンの巣がどれくらいで見つかるか次第ということになるのう」
どうやら最終的にはワイバーンの巣を潰すのが目的らしい。とはいえさすがに3日は難しいんじゃないのか?いくらルーさんやラウルさん達が強いとはいえ、相手は空を飛ぶドラゴンだから空に逃げられたとしたらどうにもならないと思うのだが。
「さすがにそれだけ長い間村で待っているのも逆につらいな。俺もいざとなったら逃げれるし、調査部隊のほうに……」
「ローラン様!目的の村が見えてきましたが、今現在ワイバーンに襲われている様子です!」
「なんじゃと!」
窓から馬車の外を見ると確かに空に数体のワイバーンがいるのが見えた。前の馬車で前方はよく見えないのだが、この先に村があるに違いない。
「戦闘予定の者は先に村に向かいワイバーンを倒すのじゃ!護衛予定の者は外に出て馬車の周りを警戒、ワイバーンがこちらに向かって襲ってくるかもしれん」
「「「はっ!」」」
ローラン様がみんなに指示を出す。村の様子がかなり気になるところだが、指示通りに外に出て刀を構え身体能力強化魔法と硬化魔法を自身にかけて周囲を警戒する。護衛対象とはいえ、周りを警戒するだけなら大丈夫だろう。
しばらく経ったがワイバーン達はこちらの馬車を襲ってくる様子はなく、村の上空を飛び続けている。ときおり槍や風の刃のような魔法が空に放たれているからルーさん達が村に到着して戦闘が始まったのだろう。
しばらくするとワイバーンが2体、村のあたりから逃げていくのが見えた。もしかしたら戦闘が終わってワイバーン達が逃げ出したのだろうか?
「ローラン様、無事に戦闘が終わりました。村の者に怪我人がおりますが、死者はおりません。怪我をした者はエレノアが治療をしております」
リーダーのニアさんが馬車の方へ戻ってきた。少し土汚れがあるが、怪我などはないようだ。村の人達も死者がいないようで何よりだ。
「そうか、よくやった。とりあえず移動して妾達も村の中に入るぞ」
「「「はっ!」」」
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