第86話 クリームはどっち派?
さて、今日は王城での出来事ぶりにローラン様に会う予定だ。あの後すぐにエレナお嬢様とアルゼさんはローラン様の屋敷に正式にお礼を伝えに行ったが、俺は同席しなかった。まあ正式な場で使用人である俺は不要だし、何よりも前回のことがあってちょっと恥ずかったからな。
ちゃんと手土産の新作ケーキも持ってきてある。まあケーキというかシュークリームなんだけどな。シュークリームをケーキと呼ぶのかは微妙なところだが、そもそもケーキの定義すら俺にはよくわからん。
そんなわけでローラン様の屋敷の前まで来たのだが、ちょっと嫌だなあ。絶対に前回のことでからかわれるに違いない。
「おやおや誰かと思えば、妾のことを一二を争うほど美しいと思っているユウキではないか」
……ほらな、性格に大いに難アリだろ。部屋に通されたあと、ルーさんと一緒に部屋に入ってきたローラン様がニヤニヤしながらこちらを見てくる。
まあいいや、ここまで来たら別に隠す必要もない。それに今回ドルネルを追い詰めることができたのはローラン様のおかげだからな。きちんと礼は言っておこう。
「ああ、この前伝えた通りローラン様はとても綺麗な女性だと思っているよ。それよりも今回は助かった!ローラン様のおかげであいつを追い詰めることができた、本当に感謝しているよ」
「……相変わらずお前は照れもせずによくそんなことが言えるのう」
いや俺だって多少は恥ずいぞ。でもなんでだろうな、元の世界では女性に全く免疫のなかった俺だが、なんとなくローラン様とは普通に話せるんだよな。まあ初対面があんなんだったから、たとえ外見が綺麗だからと言っても今更気後れすることはない。
「ルーさんも本当に助かりました。エレナお嬢様とアルゼ様から聞きましたけど、あの盗賊狩りの男を遠くの街で捕まえて、そのまますぐに王宮まで急いで連れてきてくれたんですよね」
前回挨拶に行った時にエレナお嬢様とアルゼさんが話を聞いたところ、あの盗賊狩りをしていた奴らはかなり遠くの街にまで逃げていたらしい。やはりドルネルのやつは相当用心深いやつだったようだ。
しかもかなりの数の手下もおり、ローラン様の私兵でも苦戦したようだ。なんとか全員を捕まえたはいいが、王城での集会に間に合うかギリギリだったため、足の速い獣人のルーさんが単独でボスを抱えて急いで走ってきたそうだ。
「……私は我が主人の命令を聞いただけだ。感謝をするならば我が主人にすればよい」
「ええ、もちろんローラン様にも感謝していますけれど、ルーさんにもとても感謝していますよ。あと今日はルーさんの好きなフルーツタルトもローラン様の分とは別に持ってきているからあとでみんなと一緒に食べてください」
「待て待て!そんなにあるのならば、妾がもっといっぱい食べても良いのだな」
「いや、別にローラン様には感謝しているし、ローラン様の分をもっといっぱい持ってきてもよかったんだけど、一気にいっぱい食べると太るよ?」
「うぐっ!」
ローラン様にはとても感謝しているから、もっと持ってきても良かったんだが、ケーキを一気に食べると太るからな。ただでさえ毎回3つほど新作ケーキを持ってきているのにこれ以上はヤバいんじゃないか?それに今回はシュークリームだから更にカロリーがヤバそうだ。
「ぐぬぬ……仕方ない今回は諦めるとするか。ほれ、さっさと妾の分をよこすのじゃ!」
「はいはい。ほらこっちがローラン様の分だ。こっちの二つは前に作ったケーキのクリームを季節限定にしたやつで、こっちは新しいシュークリームというケーキというかお菓子だ。中にはクリームがたっぷり詰まっているから気をつけてくれ」
「ほう、ではこのシュークリームとやらからいただくかのう。……ふむ、サクサクとした生地の中にとてつもなく甘いクリームが詰まっておる!ぬぬ、しかもこのクリームは2種類のものを使用しておるな。白い方は甘さが控えめじゃが、ミルクの香りがするのう。こっちの黄色い方は甘さが強い分、中に入っている量が少なめなんじゃな」
あいかわらずの分析力である。今回のシュークリームはダブルクリームにしてみた。元の世界でも中のクリームについては賛否両論あるが、今回はカスタードクリームと生クリームの二つにしてみた。個人的にはカスタードクリームのみが好きなんだが、屋敷のみんなとの多数決によりこっちに決定した。まあダブルクリームのほうがなんとなく高級感があるしいいかもな。
「個人的には黄色い方のカスタードクリームが好きだけどローラン様はどっちが好きだ?」
「ふうむ……どちらかと言えば妾はこっちの白い方が好きじゃな。こちらの方が優しくあっさりとしており、クリームの味がよくわかるからのう」
ふむ、ローラン様は生クリーム派か。まあこのクリーム問題についてもキノコ派かタケノコ派かぐらいには根が深い問題だからな。
その後もいつも通り新作ケーキについて貴重な意見をもらった。
「あとはドルネルのやつについてじゃな。今のところやつに協力していた者については全く分かっておらん。本当にいるのかすらも怪しいのう」
「……やっぱりか。アルガン家のほうでも何もわからなかったんだ。ローラン様は本当に黒幕がいると思うか?」
アルガン家襲撃についてはルーゼルを犯人に仕立て上げたドルネルが真の実行犯とされている。しかし、あいつが捕まる寸前に自分は誰かに唆されたと言っていた。そしてそれはドルネルが殺されたことによってより真実味が増した。だが、アルガン家が調べたところその唆した者については何一つわからなかった。
「うむ、あの状況でドルネルが殺されたことにより何者かが絡んでいることは間違いないじゃろうな。じゃが、おったとしてもそれほど大層な協力をしたとは思えん。やつが言ってたように本当に唆されたくらいで、実際に襲撃を行ったのはやつ自身であることに変わりはあるまい」
やはりローラン様もアルガン家のみんなと同じ意見か。襲撃のための人を集めたり、その人を使うための脅しの材料や金を出したり、ルーゼルに罪を着せようとしたことに関してはドルネルが実行していたことがわかっている。
「エディス家についてはどう思う?あの状況でドルネルが話すのを遮ったということは何か聞かれたくないことがあったんじゃないか?」
「ふむ、確かにあの状況ではファウラー卿も怪しく思えるが、やつには動機もないからなんとも言えないところじゃ。あの状況では国王様に良いところを見せるチャンスでもあったから、妾もルーやラウルに命じてドルネルを取り押さえようとしていたからのう」
おう、ちゃっかりしているな。いや、国王様にいいところを見せるチャンスだったから当然と言えば当然か。そう考えるとファウラー様があそこでドルネルを止めたのも、たまたまタイミングが悪かっただけという可能性もゼロではないか。
「まあこっちに関してはもう調べようがないのう。何せ実際にはドルネルを殺したくらいで、おそらくあとは何にもしてないのじゃからな。そういうわけで新しく情報が入ってきたら伝えるが、これ以上こちらから動いて調べるようなことはないからのう」
「……了解だ。エレナお嬢様達に伝えておくよ。いろいろと助かったよ、本当にありがとう!」
「ふっ、ふん。これでアルガン家にも大きな恩が売れたからのう。ユウキにもでかくて大きくて巨大な貸しがあるのじゃからな!」
うん、何を言われるかものすごく怖いのだが、今回はローラン様に大きな借りができてしまった。
「ああ、もちろんわかっているよ。俺に何かできそうなことがあったらなんでも言ってくれ!」
「……ふむ、ならば早速じゃがこの借りを返してもらおうかのう?」
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