第44話 ルイスとミレーの村
「それじゃあマイル、サリア、1週間後にまた来るからな!それまで両親とゆっくり過ごして今後のことを決めてくれ」
「うん、ユウキ兄ちゃん気をつけてね!」
「いってらっしゃい!ユウキお兄ちゃん」
「それではリールさん、ユウキさん、行きましょうか」
次の日の朝、俺たちはルイスの村を目指してオニール村を出発した。そしてエドガーさんたちも一緒に同行してくれるようだ。
本当はあと1日滞在する予定だったそうだが、俺たちと行動したほうが安全と判断して2人の村までは同行したいと言われた。こちらとしても人数が多い方がいいためリールさんが快諾した。
1週間2人と離れるだけなのに寂しい気持ちになる。これは数年離れるとか俺が無理だな。ルイスの村はここから馬車で1日くらいの距離だ。早朝に出れば夕方には到着する予定だ。
特に問題なくお昼を過ぎだ。ちなみにエドガーさんはこっちの馬車に乗ってみんなにいろいろな話をしてくれた。盗賊に襲われて死にかけたこと、村から村へ移動している間に相場が急変して大損したこと、村の特産品で今までに食べたことのないほど美味しいものを食べたり、道中出会った女性と熱い一夜を過ごすなど行商人ならではのエピソードがあった。
こういう話を聞くと旅をしながら商売をするのも楽しそうだと思ってしまう。特に最後のエピソードな!流石にミレーとルイスの前だからある程度はぼかしていたけど最後までやっちゃったんだろうな。いと羨まし!
お昼には話のお礼にご馳走をしてあげた。朝のうちに昨日エドガーさんから買った昆布のような海藻を干したものから出汁を取り、醤油と野菜を入れてつゆを作り小麦粉の生地を作っておく。本当は生地を切ってうどんにしたかったが、時間もなかったので一口大にちぎって鍋の中に入れて少し煮込んで完成だ。
「なるほどこれが醤油ですか!ただしょっぱいだけののもだと思っていましたがこう使うんですね。海藻の香りと醤油の味が染み込んだこのモチモチとした食感の小麦粉の塊が実に合う!シンプルなのに非常にうまいですな」
「おお、こりゃうまいな兄ちゃん!しかも適当に材料を入れて煮込むだけだから俺にもできそうだ」
「ええ、自分の地元ではすいとんって言ってましたね。本当は小麦粉を細く切って麺にしたものを入れるうどんというものの方が有名かな」
「ユウキ兄ちゃん、これすっごいうまいよ!サリアとマイルは食べられないのが可哀想だな」
「醤油もエドガーさんたちのおかげで手に入るようになったし、またすぐに作るよ。2人とも両親の許可が取れるといいんだけどなあ。
ルイスとミレーはまだ奴隷紋を解除できていないから今回はまだ家に帰ることはできなくて残念なんだけど」
「ユウキお兄ちゃん、家に一度帰らせてくれるだけでもすっごく嬉しいよ!盗賊に捕まっちゃった時にはもう二度とお父さんやお母さんやお兄ちゃんに会えないと思ったもん!」
「そうだぜ!それにモラムのおっちゃんやガラナのおっちゃんたちもみんな優しいし、飯もうまいし母さんから聞いてた奴隷の話とは全然違ったよ。それにエレナお嬢様もあと数年頑張れば、奴隷から解放してくれるって約束してくれたもんな」
そう、流石にすぐにミレーとルイスはまだ奴隷紋を解除できないが、このままアルガネルの商品が売れ続ければ数年で解除できそうだと言われている。
「そうだね、大丈夫だよ。すぐに2人もちゃんと村に帰れるさ。俺としてはミレーとルイスもサリアやマイルと一緒で解放された後も一緒に働いて欲しいんだけどね」
でもやっぱり現実的には厳しいんだろうな。ミレーとルイスもサリアやマイルよりも幼い。工場も人手不足だし両親と一緒に街に来てくれるのが一番いいけどさすがに村を捨ててというのも難しい。街で家を借りるというのも難しいし、全てをエレナお嬢様で援助というわけには行かないし、ままならないものだ。
今日も日が落ちる前に無事に到着することができた。ルイスの村はマイル達の村よりも若干大きな村でちゃんとした壁で囲われていた。昨日と同じように門番と知り合いであるエドガーさんが最初話しかけてルイスの両親と再会。感動的な再開のあとに村長さんの家に移動した。ミレーと2人の行商人は店を開いている。
「ありがとうございました。ルイスを助けていただきまして」
さてここからの説明が本当に難しい。今は右手の奴隷紋を隠しているが、これを見た時にどういう反応をするのかは予想できない。一応主人は街にいて俺たちに手を出しても意味がないことを伝えるが本当にやばかったら俺とリールさんで逃げる予定ではある。
「いえ、実は俺たちが助けたわけではないんです。ルイス、手袋をとってくれ」
ルイスがグローブを取るのと同時に俺も手袋を取る。
「そんなまさか……」
「いやあ!!」
ルイスの両親が叫ぶ。2人とも奴隷紋を知っているようだ。そこからエレナお嬢様に助けてもらったこと、奴隷として買われたが、美味しいご飯を食べさせてもらっていること、仕事はそれほど大変ではないこと、このままいけば数年で奴隷から解放されることを伝えた。
幸いなことにルイスの両親と村長さんは冷静に話を聞いてくれた。エドガーさんがいたことやお土産のフルーツ飴のこともあって一応は話を信じてくれたようだ。やはり子供とは言え奴隷1人分の金額はそう簡単に出せるものではなく、今すぐに解除するというのは難しいらしい。
ただし、街へ戻る時に両親も一緒に街へ行って主人であるエレナお嬢様と話をさせて欲しいとのことだ。当然と言えば当然なのでリールさんが承諾した。さすがに今日は宴というわけではなかったので、客人用の部屋を借りてそこでエドガーさん達と夜を明かした。
次の日の早朝、ルイス達には5〜6日後に戻ってくると伝えてエドガーさん達とミレーの村へ出発した。ミレーの村はここから1.5日くらいの距離だから日が上ってすぐに出発、少し早めに移動して日が落ちるまでにつけるか微妙なところだ。
「みんないなくなっちゃってなんか寂しいね、ユウキお兄ちゃん」
「そうだね、またすぐに会えるとはやっぱりさみしいな。でもエドガーさん達との新しい出会いもあったし馬車の中もそれほど寂しくないね。それに村の人達の説明も顔見知りのエドガーさん達がいて本当に助かってます」
「はっはっは、私の方こそ皆さんに会ってなかったら死んでいたかもしれませんよ。それにユウキさんからはいろんなお話も聞けましたしこちらもむさ苦しい男2人で狭い馬車の中にいないで済んで助かってますよ。それに美味しいご飯もいただいておりますからね」
実際のところエドガーさん達がいてものすごく助かっている。彼らがいるおかげで村の人たちの信用が見知らぬ俺たちとは雲泥の差だ。そして何より醤油を手に入れたことがでかい。早く屋敷に帰っていろいろと試してみたい。
今日も無事に盗賊や魔物に出会うことなく目的地についた。もう辺りはすっかり暗くなってしまっていた。やはり日が暮れてからの到着ということもあって少し村に入る確認が長引いたがミレーも無事に両親と兄に再会することができた。そしてまた村長さんの家に案内された。
そして奴隷紋を見せて説明をするが、ミレーの場合は女の子ということもあって説得に時間がかかった。やはりミレーを買えるほどのお金に余裕はないらしく、お兄ちゃんのほうもミレーが街へ戻らなければならないと分かると大泣きしてしまって大変だった。とはいえさすがに俺が勝手に奴隷契約を解除するわけにも行かないのでどうにもならない。
俺が主人ということは話さないでいたから俺が襲われるということはなかったが、もし俺が死んだらミレーの奴隷契約が解除されることを知ったらどうなってたかはわからない。そりゃ自分の子を自由にするためだったら強硬手段に出る親なんてたくさんいてもおかしくはない。
結局長い話し合いの上、主人が幼い女性であるということをリールさんや信用のあるエドガーさんから聞き、手を出される心配はないことと、黙っていればわからないことなのに、わざわざ一度遠くの村まで娘を連れてきて説明しにきてくれたことを考えて信用してくれたようだ。
「それじゃあミレー、3〜4日後に迎えにくるからね」
「はーい!ユウキお兄ちゃん特訓頑張ってきてね」
「はは、そうだね頑張ってくるよ。エドガーさん達も本当にお世話になりました。また街に来たらよろしくお願いしますね」
「はい、ユウキさんには本当にお世話になりました。また街に行った時にお伺いさせてもらいますね」
翌朝、俺はリールさんと一緒に馬車に乗っていた。ミレーもゆっくりと両親と過ごす時間が必要なので俺はリールさんと一緒に山に入ってサバイバル特訓をすることになっている。村の位置上、ミレーが一番短く3〜4日になってしまうのは可哀想なんだがしょうがない。この村に戻ったら次の日の早朝に出発してルイス、マイルとサリアの村によって街に戻る予定だ。
ないとは思うがその間に逃げようとした場合、奴隷紋には逃走防止の機能があるので、逃げようとしたところで激痛が走ってしまう。本当に無駄に高性能すぎて嫌になる。誰だよこんな最悪の魔法を作り出したやつは。
そしてエドガーさん達ともここでお別れである。ここで2日くらい店を開けて次の村を目指すのだそうだ。そして店を半日程度しか開けられなかったルイスの村とマイル達の村で店を開いて街に来るそうだ。これから先も小さな村をいくつか回るので、街に来れるのは一月くらい先になるそうだ。
それにしても行商人と聞いた時は大きな商店じゃないのかとも思ってしまったが、常に危険な道を歩き、物資のあまり届かない村に物資を届けてくれる。もちろんそれで利益を得てはいるけれど、それでも立派な仕事だと思うな。
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